真凡プレジデント・22
アハハハ……アハ……ハ。
この愛想笑いは、なつきが誤魔化そうとしている証拠だ。
誤魔化しきれずに空気が漏れるようになっているのはかなりヤバイ。
「数学、何点だった?」
それでも教室の前でははばかられるので、階段を下り始めて、密やかに、でも、きっぱりと聞いてやる。
「えと……三十五点」
「ハーーー」
ため息はつくが、感想とかは言わなで、そのまま食堂に向かう。
そして、いつものようにランチを食べてから、何事もなかったかのように雛壇に向かう。
雛壇と言うのは、校舎とグラウンドの境目で、五段ほどの雛壇になっている。中庭ほどじゃないけど、数少ない校内憩いの場所だ。横に長いので、人に聞かれない話をするにはうってつけ。
「で、欠点はいくつだったのよ?」
「あ、えと……えと……」
「指で数えなきゃならないほどとったの!?」
「あ、あわわわ……た、たしか、五つ……でも、ニ十点台は一個だけで、あとは三十点台だから」
指折った手をワイパーにして弁解する。
さっきの数学で中間テストは全部返って来たので、なつきには報告の義務がある。
答案が返却される度に聞いてやっては気づまりだろうし、一喜一憂しても全体の成績が分からないでは意味がないので、点数やら結果は、最後の答案が返ってくるまでは聞かないことが不文律になっている。ま、武士の情けよ。
「で、でもさ。三十点台ばっかだから、期末で挽回できるよ、うん、きっと!」
「そう言って、三教科落として仮進級になったのは、ついこないだだったんじゃなかったしら~」
「そ、そのジト目怖いからあ(;゚Д゚)」
「落第させたら、オバサンに合わせる顔ないからさあ、善処してよねえ!」
「う、うん、分かった! 生徒会役員にもなったしね、生徒会加算なんてあったりするんでしょ? 三十九点でアウトになりそうなときは切り上げて四十点にしてもらえるって、風の便りに聞いたよ(^#^)」
「んなもん、あるかああああ!」
「えーーー無いのおおおお!?」
わたしが思っているようなことは、担任も思っているので、放課後なつきは呼び出され、待ってやる……なんてことはしないで、サッサと下校。
公園に差し掛かると、柳沢が慣れない手つきでペスを散歩させているのを見かける。
武士の情け、見えなかったことにして駅に向かう。
電車の中では、懸案になっている体育祭の事が浮かんでくる。
まだ先の事だけども、体育祭のプログラムは一昨年からの懸案になってる。棒倒し、騎馬戦とかが危険で廃止の方向、先生をオモチャにしての着せ替えリレーもグロハラで廃止の声だし、リレーは人気がない。
生徒会ができることは、そんなにはないけど考えてみる。わたしはバカじゃないけど、放置しておいて名案が浮かぶほどでもない。
考えながら改札を出ると、見てはいけないものを見てしまう。
姉貴がまたジャージ姿でほっつき歩いているのだった……こいつに武士の情けは要らない。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡(生徒会長) ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 福島 みずき(副会長) 真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
- 橘 なつき(会計) 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 北白川 綾乃(書記) モテカワ美少女の同級生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 対立候補だった ちょっとサイコパス
- 橘 健二 なつきの弟
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問