ライトノベルセレクト324
『おのれのドキンタマ!』
「もう、おのれのドキンタマ、どこに付いてんねん!?」
美憂先輩は形のいい口のどこから、こんな言葉がでてくるのかというくらいの河内弁で、口火を切った。
あたしら、三人の一年部員は、ただ息をつめて聞いてるしかなかった。
「なんのための枕詞や――OPF大阪高等学校演劇フェスティバルの講評委員の 先生方をはじめ、いかなる個人や団体に対しても攻撃・中傷を加える意図は含まれていません――うちは、これも逃げを打ってるようでいややった。そやけど、これ入れる条件で、思うた通りのこと書くいうのが、クラブの総意やなかったん!? それを、なんや、これは!?」
美憂先輩は、パソコンの画面を叩きながら、美しい目を逆三角形にしてた。こめかみには青筋が立ってる。
なんで美憂先輩の顔の描写が飛び飛びなんかいうと、美憂先輩の顔が怖いんで、下の方からしか見られへんかったから、口、目、こめかみと上がっていく。
正直、うちらの演劇部のブログのアクセスは落ちてた。最初の頃は大阪……全国でも珍しい演劇部のデイリーブログとして、三年で15万件のアクセスがあった。それが、このごろアクセスが少ない。一日のPVが100を割る日も出てきた。
「他のクラブも、真似してやるとこ出てきたから、読者も分散。全体としては演劇部へのアクセスは増えてると思う。ボクらはパイオニアとしての役割は果たせたんや」
「工藤君、それて問題のすり替えや。うちのアクセスが落ちてることの説明にはなってへん」
「コンクールの時期になったら、また回復するて」
「そんな、逃げうたんといて。アクセスが落ちてんのは、記事がおもんないからや。OPHにしても、ワケ分からへんいうのが、クラブの感想やったやんか。それを誉め倒す講評委員は間違うてるいうのが、うちらの意見やったよね。それを書こう言うたら、工藤君がフニャフニャ言うさかい、枕詞つけることで妥協や。しっかりうちらの感じたまま書いてや!」
これが、OPF大阪高等学校演劇フェスティバルを観た後の、あたしらの誓いやった。
それが、昨日の記事は、一年のあたしらが見ても腰砕けやった。
「ワケ分からん」は「理解が、やや難しい」に、「台詞は叫んでるだけや」は「最高のシャウトだけど、僕たちの未熟かもしれないけど、静かな語りがあってもいいかなと感じる女子部員もいた」
万事が、まるで検閲されたみたいに変わってた。
あたしらのブログは、以前はアップしたら、すぐに「大阪の高校演劇」で検索したら、24時間ですぐにトップになったけど、このごろは、出てけえへん日が多くなった。たまに出ても、数時間で消えてしまう。
同じことは、美憂先輩だけと違うて、あたしらも感じてた。
そんで、今日は、美憂先輩の頭の線が切れてしもて「おのれのドキンタマ!」になってしもた。
「返事もないん……もうしまいやね」
そう言うと、美憂先輩はクラブのバッジを外すと、工藤部長に投げつけた。
物事にはタイミングというもんがあるもんやと、講習会で習うた講師の先生のことばが蘇ってきた。
美憂先輩は工藤部長の顔に向かって投げたんやけど、工藤部長が中腰で立ち上がったもんやから、まともに股間に当たってしもた。
あんな小さなバッジやのに、当たり所やねんやろな。部長は悶絶した。
あたしらは、部長の痛いとこさすってあげるわけにもいかんで、美憂先輩を追いかけた。美憂先輩なしでは、うちの演劇部はなり立てへん。
「美憂先輩!」
「工藤のことやったら、ほっとき。痛そうな真似してるだけや。あんな芝居だけ上手なりよってさかいに」
そう言い捨てて、先輩は行ってしもた。
部室に戻ると、部長が気絶……演技かリアルかわからへんから、放っといて部室を出た。
もう二度と戻ることがないかもしれん部室を……。
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