本文に入る前に、予備知識として≪セットバック≫について説明する。
建築基準法により、道路は幅員が4メートル以上でなければならない(6メートルの場所もあるが)。しかし、法律制定前から存在していた建物は道路の中心線から2メートル以内であるケースもあり、建て替えする時に中心線から2メートルまで後退しなくてはならない。これがセットバックである。
さて、私の友人Aさんの話。
私が所有している貸アパートは、車道から直角に曲がった小道(無主地)を50メートルほど入ったところにあります。その小道の片側は住宅、もう片方は畑で、幅は約2メートルです。この貸アパートは条例により建て替えができなくなりました。
というわけは、“幅4メートル以下の小道から入ったところにある建物は、床面積が100平米以下でなくてはならない”という法律が10年ほど前にできたからなんです。私の土地の面積は500平米以上あるんですが、そこに床面積100平米以下の建物しか建てられないのでは、アパートは到底無理で、一戸建ての家しか建てられません。したがって、私の土地は半分しか使えないということになります。言い換えると、土地の実際の価値は二分の一ということになります。
一方、固定資産税の評価額は路線価からかなり減額されてはいますが、それは既存の補正条項が適用されているだけで、現実的な土地の価値が半分しかないというマイナス要素はまったく考慮されていません。私のアパートは築後20年を超えましたが、まだ建て替えは必要ないので、価値半減は差し迫った問題ではありません。しかし、世の中には早急に建て替えが必要な人もいるはずで、市場価値が半分になったにもかかわらず、100%の評価額で固定資産税や相続税を支払う羽目になっているのではないでしょうか。
この問題は固定資産税もさることながら、相続税にはもっと重大な影響をおよぼす。例えば、市場価値が3千万円しかないにもかかわらず、課税評価額は6千万円になる事態が生じ、相続税額にして数百万円の差が生じる。
幅が2メートル以下の小道を入ったところにある物件は無数にあるはずで、そこには100平米以上の建物は建てられない(つまり集合住宅は建てられない)という条例は、災害発生時の避難路確保が目的だろう。狙いはわかるが、小道に面した土地の固定資産税・相続税の評価に不公平が生じているのは、都市計画担当者と税制担当者の縦割り組織の弊害と思われる。地方自治体は評価額の減額補正のルールを再検討すべきである。