書店で「安倍官邸vs. NHK」(文芸春秋刊)というタイトルの本をみつけた。帯封には《なぜ放送されないんだ!「森友事件」の原稿から、消される「安倍官邸のつながり」。NHKでも検察でも東京vs. 大阪のせめぎあいが続く中、特ダネをつかんだ記者が異動を命じられた! 政権を揺るがす疑惑と巨大組織内に強まる圧力―その挟間で最後まで戦い続けた男の渾身のノンフィクション》とエキサイティングな字句が書かれている。
これを見た私の反応は、「フーン、そうだったのか。森友事件の核心を掴んだNHKに首相官邸が圧力かけて、報道を歪曲させたということか。これは面白そうだ」であり、迷わず買い求めた。ちなみに定価は1,500円。
森友事件はいろいろな疑惑が重なって複雑になったが、この本の著者(相澤冬樹氏、元NHK大阪勤務)は「学校用地が、地中にゴミがあるということで8億2千万円を値引きして、1億3,400万円で売却されたのはなぜか」に焦点を合わせて取材を重ねた。
確かに、いくらゴミが埋まっているからといって、普通なら9億円の価値がある土地を1億円で売ったというのは、裏になにかあると思うのは当然である。著者は、「その大幅値引きは、大阪財務局担当者の背任行為になるはずだ」という仮説を立て綿密に取材し、「クローズアップ現代」などの番組において、実態に迫る構成を組み立てた。しかし、NHK東京の上層部から圧力がかかり、番組では疑惑が薄められ、著者が意図した内容にはならなかったらしい。
一方、検察庁も大阪財務局の背任行為を立証できず、不起訴となり事件は終わった。そして、NHKの人事異動により、相澤氏は記者をはずされ、森友事件を追うことが出来なくなった。そこで同氏はNHKを退社し大阪日日新聞に転じて、森友事件の取材を続けることにした。
本書には、その疑惑を追った著者の取材の状況が克明に述べられており、その情熱と執念には敬服した。マスコミ関係者にとっては、取材の手法や記者のあり方に関して、大いに参考になるだろう。しかし、タイトルにあるような安倍官邸とのつながりを暗示する記述はまったく述べられておらず、私は期待を裏切られた。
わずかに最後の299ページ目に、「森友事件とは、実は森友学園の事件ではない。国と大阪府の事件だ。責任があるのは国と大阪府なのだ。国の最高責任者は安倍晋三総理大臣、大阪府の最高責任者は松井一郎大阪府知事である。(以下省略)」という記述があるのみである。
もし、この論理が通るなら、森友に限らず、どんな事件でも安倍首相が悪いことになりはしないか。
さて、私はタイトルが示す「安倍官邸vs. NHK」の葛藤が語られるのを期待しつつページをめくったが、そんな気配はなく、やっと最後のページに、上に示したような数行のとってつけたような説明に辿り着いた。
本書のタイトル「安倍官邸vs. NHK」は、私のような早とちりのオッチョコチョイを嵌めるためのトリックであると言わざるをえない。例えるなら、上天丼を注文し大振りの海老が2-3本乗っていることを期待していたら、野菜ばかりの精進揚げ丼が運ばれてきたような気分だ。文芸春秋ともあろう一流出版社がこんなせこい売り方をするとは、情けない世の中になったものだ。
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