アメリカでシャブシャブが寿司・ラーメンに次ぐ日本食の大スターになりつつあるようだ。但し、そのシャブシャブとは、カウンター席で一人用の鍋で食べる形式(このスタイルは1980年ごろから日本にあった)。今回はそのシャブシャブ人気の軌跡を追ってみたいが、まずはこのハイパーリンクを開けて、どんなシャブシャブなのかをまずご覧いただきたい。Shabu Shabu Bar
寿司ブームが起きる前は、日本食レストランのメインはスキヤキとテンプラだった。アメリカ人を日本食レストランに招待してスキヤキを食べさせると、みな「美味しい」とはいうが、「だけどビーフを食べている気がしない」と率直な意見を述べる人も多かった。
ビーフといえば熱々のぶ厚いステーキを食べることで、ビーフの焦げる匂いと、アグッという食感を楽しむことがキモであって、薄切りにした肉を煮て食べるのでは、せっかくのビーフがもったいないという感覚があった。
その後、一世風靡したベニハナのサイコロ・ステーキにしても、彼らの従来からの食習慣の延長線上にある。
ではシャブシャブはどうか。薄切りのビーフを湯通しするという食べ方は、スキヤキのバリエーションであって、「アメリカ人の好みに合わない」というのがアメリカの日本食業界の定説だった。
だから2005年ごろロサンゼルスにオープンしたShabu Shabu Houseにしても、アメリカ人を呼び込めるか自信がなかったので、まず日本人を呼び込み、それを呼び水にして白人客への浸透を図る戦略で、リトルトーキョーという立地を選択したと思う。当時、私はロサンゼルスに在住し、日本食業界の情報誌を発行していたからこの店の動向に関心があり、リトルトーキョーに行くと必ずこの店の客の入り具合をチェックしていた。そこで判明したことは、客のほとんどがベトナム、タイ、フィリッピン、台湾、韓国などの東南アジア系だったこと。大繁盛をいうわけではなかったから、ことによると閉店したかと思っていたが、最近調べたら今なお盛業中であることを知り、ひとごとながら安堵した次第。
それが今やシャブシャブの店は、ロサンゼルス周辺に十数店ある。寿司やラーメンのような調理技術は必要ないから、日本食レストランの開業を志す人にはハードルが低い。また、寿司店が増えすぎたので、競合をできるだけ避けたいという意向も反映している。
こうした経営側の事情に加えて、寿司・ラーメンで日本食に親しみをもった人たちが、シャブシャブを変わり種の日本食として認識していることも追い風になっているのだろう。興味深いことは、客の大半がアジア系であること。
ともあれ、このシャブシャブにしても、また焼き肉にしても、薄切りのビーフを食べるという点で ビーフステーキとはまったく楽しみ方が異なる。アジア系中心とはいえ、アメリカ人にビーフの新しい食べ方を提案し受け入れられたという点で画期的なことだと評価する。
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