暁の決闘 佐々木勇気vs藤井聡太 2018年 第1回アベマトーナメント決勝3番勝負 第1局

2024年10月22日 | 将棋・名局


 佐々木勇気が、タイトル戦初勝利をあげた。

 今期の竜王戦七番勝負第2局で、藤井聡太竜王(名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖)に快勝し、1勝1敗タイに持ちこんだのだ。

 佐々木勇気と藤井聡太と言えば、なにかと因縁があり、
 
 
 「デビューから30連勝を阻止」
 
 
 をはじめとして、アベマトーナメント決勝や、NHK杯決勝で2年連続当たるなど、インパクトのあるところで戦っている。
 
 その後は、きびしい言い方をすれば、かなりがついてしまった両者だが、個人的に、
 
 
 「あれ? ちょっと勇気、藤井くんに勝つの大変?」
 
 
 と感じたのが、この勝負からであった。
 
 
 
  


 

 2018年、第1回アベマトーナメント決勝3番勝負。
 
 勝ち上がってきたのは藤井聡太七段と、佐々木勇気六段の2人だった。
 
 双方とも優勝候補で、一番期待していたカードともいえるが、この決勝戦も1勝1敗最終局に突入。
 
 「ニュースター」藤井聡太に期待がかかるのはしょうがないが、それゆえに佐々木勇気も負けるわけにはいかない戦いだ。
 
 将棋は佐々木先手で、雁木模様に。
 

 
 
 
 
 雁木はこの当時、かなり有力視されていた戦型だが、仕掛けるのが難しいということで、千日手になりやすいと言われていた。
 
 実際、この駒組ではが使いにくく、どちらも攻めにくい。
 
 先手は▲26角から▲45歩が見えるが、角が動いたときに△86歩から飛車先の歩を斬られるのはシャクだ。
 
 かといって、千日手にするわけにもいかないが、ここで佐々木が独特の打開策を見せる。
 

 

 


 
 
 

 

 ▲77金が力強い手。
 
 われわれの時代は、▲7757に行くのは悪形とされていた。
 
 こういう「足して偶数」のマスは桂馬の通り道で、それがモロに当たってねらわれやすいから。
 
 だから、矢倉でも美濃でも銀冠でも、基本的な囲いはすべてそこを避けるのだが(▲67▲78▲49▲58などに置く)、現代将棋はそんなもん気にしまへんと。
 
 それよりも、△86歩を防ぎつつ、かつ金銀の厚みを主張するということで、以下こういう形に。
 
 
 
 
 


 先手の攻撃陣も整ってきて、これ以上じっとはしていられないと、後手は△75歩から仕掛けていく。
 
 そこから玉頭でもみ合って、この局面。
 
 
 
 

 

 後手の猛攻で、先手陣は相当に乱されている。
 
 特に金銀▲85の上ずってスキが多く、また7筋が素通しなのも怖い。
 
 パッと見△72香とか打ちたいけど、藤井聡太のねらいは、そんな単調なものではなかった。
 

 


 
 
 

 △86歩と打つのが、不思議な感触の手。
 
 玉頭に拠点を作り、▲同金なら△53角の射程圏内に入って神経を使う。
 
 とはいえ先手も取るしかなく、またそれで不安定だった▲76ヒモがつくので、悪いことだけでもない。
 
 そこで後手はどう指すか。
 
 今度、を打つのは▲76がタダ取りできないし、角筋を生かそうと△65銀みたいな手でうまくいくとは思えない。
 
 どうやるのかなーと見ていると、後手の手はまったく違うところに伸びるのだった。
 
 

 


 
 
 


 △24香が、△86歩からの継続手。
 
 これで田楽刺しが決まって、しかもコンビニおでんとちがい、具が飛車の豪華版。
 
 先手が一杯食ったようだが、ここでスルドイ方は

 

 
 「あれ? これがあるから、しのげるんでね?」


 

 そう思われたかもしれない。
 
 その通り。この田楽刺しは見事なように見えて、完璧ではなかった。
 
 佐々木は▲25歩と打って、△同桂の利きをブラインドに入れてから、▲69飛とかわす。

 後手は△37桂成と、ふたたびを通すが、▲同角と手順にも逃げて、投げ槍を空振りさせた。
 
 だが、それも藤井聡太の読み筋で、ここで△74桂がきびしい。
 
 
 
 
 

 先の△86歩は、この手をねらってのものだったのだ。
 
 一見、▲同金で効果がないようだが、一転視線を右辺にやって、巧みに桂馬を入手すると、それを急所に打ちつける。
 
 局面だけ見れば、さほど働いていない△33が、△74ワープしたようなもので、うまく攻めるもんであるなあ。
 
 ▲96金に、△75銀と浴びせ倒して、▲67銀△77歩

 
 


 
 カサにかかったパンチの連打で、先手玉はいつ仕留められてもおかしくない。
 
 後手は△27香成と、こっちのもソツなく活用。
 
 ただ、佐々木も決死のねばりを見せ、徳俵でふんばり土俵を割らない。
 
 そうして、クライマックスがここだった。
 
 
 
 
 

 △77歩のビンタが強烈だが、ここをどう応じるか。
 
 ▲同桂か、を逃げるか。
 
 時間に追われた佐々木は、とっさに▲77同桂と取ったが、これが敗着になった。
 
 ここは▲88玉が、最後の勝負手だった。

 


 
 これも先手玉は危険極まりなく、△87飛成とかで寄ってるかもしれないが、どっちにしても、これしかなかった。
 
 終局後、佐々木勇気の第一声が、たしか、
 
 


 「▲88玉でしたか」



 
 
 だった記憶があるから、やはりポイントはそこだったのだ。
 
 もっとも、1手5秒の超早指し戦で、この形は選べないのもわかるところだが。
 
 ▲77同桂△97歩成とシンプルに成られ、▲同歩△同角成で突破されている。
 
 ▲88歩に、△87歩▲76銀左△87金と強引にカチこんで、以下後手が勝ち。
 
 佐々木勇気も力をふりしぼったが、最後は藤井聡太がそれを上回った。
 
 このときの結果がインパクトあって、
 
 
 「あれ? これちょっと、勇気の分が悪くね?」
 
 
 いわゆる「格付け」的なものが、少々見えてしまったような感じだったのだ。
 
 その予想は当たってしまい、その後公式戦でもアベマの大会でも連敗を重ね、昨年のNHK杯決勝まで、
 
 
 「藤井聡太に、なかなか勝てない」
 
 
 という周囲の声とともに、佐々木勇気は苦難の道を歩むことになるのだが、ここへきてNHK杯優勝に竜王戦挑戦と、大器がようやく爆発のきっかけをつかんだ。

 

 

 

 

 

 「少年」のイメージも強い勇気だが、年齢もいつの間にか30歳

 「負けても経験」「これからいくらでもチャンスがある」とは言いにくくなっている。

 伊藤匠叡王に続いて「佐々木勇気竜王」まで誕生すれば、ニューヒーローということで将棋界も、さらに盛り上がるはず。

 ここから一気に3連勝するくらいの勢いで、第3局以降もノッていってほしいものだ。
 
 

 (佐々木勇気と藤井聡太の大熱戦はこちら

 (その他の将棋記事はこちら

 

 

 
コメント
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