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BL小説・風のゆくえには~旅立ち8

2018年01月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 旅立ち

1992年冬


【慶視点】

 10月の中頃、浩介が「バス通学にする」と言い出した。登下校の時間にも勉強したいのだそうだ。

 浩介の最寄りのバス停→おれの最寄りのバス停→高校前、という路線のバスは30分に1本しかないため、必ず同じバスに乗るんだけど、浩介は時々、勉強に集中しすぎていて、おれが乗ってきたことに気がつかないことがある。

 12月に入ってからは、その回数が更に増えたように思う。

「………浩介、着いたぞ?」
「え!? わ、慶っ。いつの間にっ。声かけてよ~~」
「いや……あまりにも集中してたから……」

 そんな会話をしながらバスを降りることも、もう何回目になるだろう……

「あーあ。せめてバスの中でだけでもイチャイチャしたかったのに……」
「あほか」

 ブツブツ言いながら横を歩く浩介に蹴りをいれてやる。そのついで、みたいにサラリと聞きたいことを聞く。

「昨日の模試、どうだった?」
「それは…………」

 浩介は言いかけてから………大きくため息をついた。

「………ごめん。聞かないで」
「……………そうか」

 背中をさすってやると、浩介はゴンっと頭をおれの頭にのせてきて、ボソッと言った。

「おれ、模試ってホント苦手」
「………………」

 浩介は模試で実力を発揮できないことに悩んでいる。学校の成績は相変わらず良いし、模試の問題も、帰ってきてから見直すと全問正解することができるのに……

「なんか……初めての場所って緊張しちゃうんだよね……」

 夏期講習の最後に行われた模試は、1ヶ月通った教室で受けたので、実力がきちんと出せて、あの難関校でA判定を取っている。
 でも、その後は、個人申し込みであちらこちらの模試を受けているため、その度に会場が違うのでダメなのだそうだ。おれにしてみれば、教室なんてどこも一緒だと思うんだけど、浩介的には全然違う、らしい。目に見える景色や、空気とか匂いとか、まわりにいる人の雰囲気とか、まるで違うので、心が落ち着かない、と言う。

「まあ……模試はしょせん模試だからな。そういうのに慣れるために受けてると思えばいいんじゃね? 今のうちにいっぱい受けて本番で緊張しないようになれば」
「うん……」

 浩介は下を向いたまま歩いていたけれど、校門の近くまできたところで、ふいっと自然な感じにおれの手を取った。

「あーあ。こうやって慶と手繋いでたら絶対大丈夫なのになー」
「あほかっ」

 朝っぱらから、学校の前で何してんだっ。

 払ったけれど、「えー、いいじゃん」と、今度は両手で掴まれた。

「手繋いで登校しよーよ。公認カップルって感じでよくない?」
「なんだそりゃ」

 浩介、受験勉強のし過ぎで、「変」に拍車がかかってる……

「お前、大丈夫か?」
「だから大丈夫じゃないんだって」
「…………だな」

 そうとう精神的に来てるな……

「だから……なんだっけ? なんとかパワー? ちょうだい」
「あー……ハンドパワーな?」
「そうそうそれそれ」
「別におれパワーないけどな……」

 しょうがないので、右手を掴まれているのを放置して歩いていたら、

「うわ……。何、手繋いで歩いてんだよ?」

 横から声をかけられた。同じクラスの安倍康彦。通称ヤスがあきれ顔でこちらをみている。見られても浩介は離す気はないらしく、シレッと「おはよー」とか言っているので、おれも肩をすくめてヤスに言う。

「ハンドパワー、だってさ」
「は?」

 そりゃ「は?」だよな……

「まあ、気にするな」
「あ………そう」

 ヤスは首をかしげながらも、「あ、そうだ」と手を叩いた。

「明日の帰りさ、オレ塾ないから、プール行かね?」
「おー、いいな」

 ヤスとは高1の頃から時々、学校から徒歩15分のところにある区営プールに一緒に泳ぎにいっている。ヤスは中学時代水泳部だったそうで、そこそこ早いので、競争とかできて面白いのだ。

「浩介、お前も……」
「おれはいいよ」

 おれが振り仰いだのと同時に、浩介がスッと手を離した。

「楽しんできて」
「え、あ」
「じゃ」

 浩介は、ふいっと背を向けて、昇降口に入っていってしまって……

(……?)

 クラスが違うため、靴箱の場所も離れているので、ここで別れるのは別に不自然ではないんだけど、なんか………

「浩介! おれ今日、アルバム委員の集まり……」
「うん。先帰ってるね」

 一瞬振り返って、ヒラヒラと手を振った浩介は、ニコニコしてるけど目は笑ってなくて……

(浩介……?)

 やっぱり、変、だよな……。
 今日も明日も一緒に帰れないから拗ねたのかな……

 そう思ったけれど、

(まあ……明後日は『付き合って1周年記念日』で一緒に出掛ける約束してるし、そこでフォローすればいいか)

 なんて軽く考えていたのが間違えだった。
 浩介はこの後、どんどん不安定になっていって、新学期からはスキンシップ率が極端に減り、1月後半からは学校にも来なくなってしまった。




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お読みくださりありがとうございました!
次回は病みMAXの浩介視点。金曜日に更新予定です。よろしければどうぞお願いいたします。

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