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BL小説・風のゆくえには~旅立ち10

2018年01月30日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 旅立ち

1993年2月


【慶視点】


 浩介と一切会わなくなってから、3週間以上たつ。
 2月からは自由登校なので、おれも学校にいかなくなった。登校日には行ったけれど、浩介は来ていなくて………

「なんか青白い顔して電車乗ってたの見たって、バスケ部の子が言ってたよ」

 浩介と同じクラスの篠原に言われて、ますます心配になってくる。
 浩介は、ずっと様子がおかしかった。浮き沈みが激しく、精神的に不安定で………

 明日は第一志望の大学の受験日。あいつ、大丈夫なんだろうか………


 落ち着かなくて、うちのリビングでソワソワと歩き回っていたら、

「そんなに心配なら電話してみればいいじゃないの。鬱陶しいなあ」

 妹の南に、はい、と電話の子機を渡されてしまい、う………と詰まる。

(お母さんが出たら嫌なんだよなあ………)

 頼むから浩介出てくれ~~と、思いながら、電話をしてみたら、

『桜井でございます』

 げ。
 案の定、お母さんだし………

 でも、切るわけにもいかず、

「あの………こんにちは。渋谷ですけど、浩介君………」
『渋谷君!?』
「え」

 いきなり叫ばれ、思わず受話器を離す。が、すぐに耳にあてた。なんだ?

「あ、はい。渋谷で………」
『今すぐうちに来て!』
「え?」

 おばさんの慌てた声にドキッとする。まさか浩介になにかあったのか!?

『渋谷君だったら浩介も開けてくれるかもしれない』
「開けて……?」

 なんの話だ………

 分からない。分からないけど。

「今すぐ行きます!」

 慌てて電話を切り、南に投げ渡して、そのまま外に飛び出した。


***

 出迎えてくれた浩介の母親は、これ以上ないほど真っ青で……倒れていないのが不思議なくらいだった。

「浩介ね………滑り止めの大学、ダメだったの」
「え………」

 ポツリと言われた言葉に愕然とする。

 そんなバカな………
 全然実力が出せていない模擬試験ですら、A判定がでていた大学なのに……

「それから、食事も全然取らないし、部屋も開けてくれないし、もう、どうしたらいいのか………」
「そんな……」

 浩介……大丈夫かよ……。

「お願いできるかしら? あなただったら浩介ももしかしたら……」

 おばさんはそれだけいうと、買い物に行ってくる、といって出ていってしまった。その後ろ姿に疲れが感じられる。

「……………」

 階段をのぼり、シンッとした廊下を進んで………一番奥の浩介の部屋の前で立ち止まった。中から音は聞こえてこない……。

(浩介………)

 軽くドアをノックする。

 一回、二回、三回。

 でも……返事がない。もう一度、もっと強くノックする。

 一回、二回、三回……

 物音一つしない。寝てるのか?

 もう一度………

 一回………と叩いたその時だった。

「うるさいっ」

 声と一緒にドアに何かがたたきつけられる音がした。

「な……っ」

 うるさい、だと? そんな言い方、初めて聞いた。それに、物を投げるなんて………っ

「こうすけっ!」

 叫ぶように呼んで、ドアを蹴りつけてやる。

「開けろっおれだっ」

 しばらく物音がなかったが……

「……………慶」

 静かにドアが開き、ふらりと浩介が現れた。青白い顔……

「……入るぞ」

 浩介を押し込めるように中に入り、ベッドの上に座らせて、おれもその横に腰を下ろす。

 シンッとした室内………床に散乱している参考書やプリント………

「お前……やせたな」
「そう……?」

 浩介の光のない目がおれを見つめる。

「大丈夫か? 倒れそうだぞ」
「うん……」

 やつれた顔。……違う人みたいだ。
 手を伸ばし、そっとその頬に触れる。

「浩介……」
 引き寄せると、浩介は静かにおれの肩に顔をうずめた。ゆっくり、ゆっくり背中をさすってやる。

 しばらくの沈黙の後………

「………あのね」

 つぶやくように浩介が話しだした。

「こないだまでできた問題ができなくなってて………昨日覚えてたこと今日は忘れてて……合格するって言われてた学校も落ちちゃって……」
「……………」
「おれ、もう試験受けたくない……」

 諦めの言葉………

 浩介……おれは何を言ってやればいいんだろう。何を言えばお前に響く? 何を……

 そんな中……

『入っ……た』

 ふっと、高1の時に、体育館で初めて見た浩介のことを思い出した。何度投げても入らないボールを延々と投げ続けていた浩介。偶然、入ったときに見せた笑顔……

「………浩介」

 おれはあの時の、諦めないお前の姿に惹かれて、それで友達になって………

 思い出せ。思い出せ、浩介。あの時のお前を。

「浩介」

 両頬を手で包み、コツンとオデコをぶつける。

「今、急に、高校に入って、お前を初めて見たときのこと思い出した」
「……………?」

 浩介がぼんやりとこちらに視線を向けた。

「初めて見たって………、体育館の入口で会ったときのこと?」
「いや、その2週間前」
「………え?」

 ふいっと焦点があった。

「2週間前………?」
「あー………、実はあの2週間前、おれ、お前が一人でシュート練習してるとこ、偶然見かけてて………」
「練習……? え、え、ええ!?」

 さっきまでの朦朧とした感じはどこへやら、浩介は「うわ……っ」と口に手を当てると、

「もしかして、ゴールにかすりもしないとこ見たってこと………?」
「おお。ホントかすりもしてなかったな。あまりにも下手すぎてビックリした」
「うわ………知らなかった。はずかしー……呆れたでしょ?」

 浩介はコテンとまたおれの肩に顔をうずめてきた。愛しいその頭を優しく撫でてやる。

「そんなことない。おれ、そんなお前のことをもう一度見たくて、二週間後にまた体育館に行ったんだからな」
「え?」
「だからおれたち会えたんだぞ?」
「…………え?」

 ゆっくりと体を起こし、まじまじとおれのことを見てきた浩介………

「もう一度見たいって……」

 浩介が戸惑ったように言う。

「どうして?」
「んー……」

 思い出す。あの時の、心臓を鷲掴みにされた感じ……

「おれ、あの頃夢中になれるものが何もなくて……」
「…………」
「だから、諦めないで頑張ってるお前のことが羨ましかったんだよ」
「…………」
「あの時のお前、ホント一生懸命だったよな」

 その愛しい頬を包み込む。
 
「だからおれは、お前が諦めないで挑戦し続けることができる奴だって、よーく知ってるぞ?」
「それは………」
「受験だって同じ」

 何かいいかけた浩介のオデコにごちんとオデコをぶつける。

「いいじゃねえか。浪人しようが、大学生になろうが。お前はお前、だろ? やるだけやってみろよ」
「でも」
「でも、じゃなくて」

 グリグリと頭を撫でまわして、もう一度オデコをぶつける。

「どんな結果になろうと、おれはどんな浩介だって……」

 一瞬、迷ったけれど、思い切って言ってやる。

「どんな浩介だって、大好き、だからさ」
「慶……」

 浩介、ビックリしたように目をぱちくりさせている。……って、こんなこと言うなんて、おれも自分でビックリだ。でもこれは緊急事態対応だっ!

「だから!」

 恥ずかし紛れに大声で言ってやる。

「だからあの何度シュートしても入らなくてもあきらめなかったお前を思い出せ」
「あ…………」

「おれはそんなお前を好きになったんだから」
「え………」

 ポカーン……としている浩介……

 ……………。

 なんだよ、この奇妙な沈黙……。気まずいだろ。
 せっかく恥ずかしいのを我慢して言ったのに、何なんだ、この間は。

「あー………」

 いたたまれなくて、何か言おうとしたところ………

「慶……すごい」
「は?」

 浩介がにっこりと笑った。いつも見せてくれる笑顔で。

「すごい。すごいよ。すごい。すごいな……」
「へ?」

 すごいって……なんだそりゃ。

「だから……慶はすごいっ」
「わわっ」

 いきなり抱きつかれた。

「すごいすごいすごいよ!」
「だから何なんだよ?」

 何がすごいんだ? わけがわからんっ。

(でも……元気になったな………)

 その様子にほっとする。
 浩介はすっかりいつもの調子でおれの頭や顔を撫でまわしていたけれど、「あれ?」と、ふと、気がついたように、

「そうだ慶。慶もすべり止めの学校の発表あったんだよね?どうだった?」
「ああ、あれか……」

 そんなことすっかり忘れてた。

「落ちたよ」
「ええっ?!」

 浩介、口をパクパクさせてる。なんかかわいい。

「な……落ちたって……」
「やっぱり会場の雰囲気にのまれたっていうか……頭真っ白になっちゃってさー」
「なっちゃってさーって慶……」
「別にいいだろ。本命が受かればいいんだよ。あれで受験会場の雰囲気も分かったし、本命はバッチリだ」
「それはそうだけど……」

 浩介はまじまじとおれの顔を見てつぶやいた。

「やっぱりすごいな慶は。強い」
「いや、ただ単に色々考えるのが面倒なだけだけどな」
「でも……すごい……」

 小さくいうと、浩介はまたおれに抱きついてきた。

「ありがとう……慶。大好き。大好き。大好き」

 すごい、と、大好き、の大安売りだ。

 3週間以上ぶりの浩介の声が、ぬくもりが、愛しくてたまらない。溢れる気持ちを抑えきれず、背中に回した手に力をいれ、耳元にささやいてみる。

「どのくらいだ?」
「え?」
「どのくらい、好き?」

 いうと、浩介は困ったようにうなってから、

「このくらい」

 さっきよりもきつく抱きしめてきた。

「それだけか?」
「……ううん。もっと大好き」

 ぎゅーっと抱きしめられ、おれはまたくり返す。

「それだけ?」
「ううん。もっと、もっと大好き……」

 そのまま、もつれあうようにベッドに倒れこむ。目の前に浩介の瞳………

「慶……いいの?」

 その言葉に、おれは静かにうなずいた。

 そして……。




------

お読みくださりありがとうございました!

上記、リアル高校生の時に書いた文章を元に書き直したため、それを尊重して、

そして……。

で終わってます。ベッドシーン書けない昔の私、なんて初々しいの!!

ということで。この続きを大人になってから書いております♥→『R18・君の瞳にうつる僕に』
2015年9月に書いたのですが、ネタバレになるためしばらく非公開にしておりました。
無事、ここまで辿りついたので公開にしました。

次回、最終回になります。
お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!
おかげさまでここまで辿りつきました。感謝申し上げますっ。


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コメント (2)
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