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1992年12月23日祝日
慶とおれが付き合いはじめて1年目の記念日。
でも、受験生であるおれに外出が許されるわけがなく……。そこでおれは、親の目を欺くために、2ヶ月前に手を打っておいた。『3日間集中特別講座』に申し込んだのだ。
夏期講習に参加した予備校で、23日から3日間行われる講座。23日は17時終了なので、その後で慶と会う予定だ。母には、先生に質問したり自習室で勉強するから20時半頃帰宅する、と言ってある。
疑いもなく、受講を許可してくれた母に対して罪悪感がないわけではない。……けれども、こうでもしなくては、外出できない。せめて、講義は一生懸命聞いて、お金の無駄にはならないようにして………
17時の終了と同時に教室を飛び出した。
「慶!」
「おー、一番乗りだなお前」
予備校の外で待ってくれていた慶が、あはは、と笑った。その笑顔が可愛くて愛しくて、ぎゅーっと抱きしめると、慶は珍しく怒らないでポンポンと背中を叩いてくれた。
「お疲れお疲れ。どうだった?」
「うん……。慶に早く会いたかった」
素直な感想を言うと、慶は、「ばーか」と言って、照れたように笑ってくれた。
***
ご飯は、一年前のクリスマスデートで行ったピザの食べ放題の店にした。おれは帰宅後、母の作った夕飯を食べなくてはならないので、ほどほどで止めておいたけれど、慶はあいかわらずものすごくたくさん食べて、
「腹ごなしにボーリングやりたい」
と、言い出した。ピザの店から徒歩5分弱のところにボーリング場があるのだ。
「でも今日って、祝日だし……」
「混んでるかな」
言いながらも、この時間だし明日は平日だし、もしかしたら空いてるかも……なんて期待しながら行ってみたら、悪い予想通り大混雑していた。残念ながら、帰宅時間の決まっているおれのせいで、あきらめて帰ることになり……
「………ごめんね」
「いや、いいって。思いつきで言っただけなんだから」
慶はそう言ってくれるけれど……
(慶、昨日は安倍とプールに行ったんだよな……)
そう思ったらますます落ち込んできた。
(どうしておれはこうなんだろう。慶がやりたいって思ったこと一緒にできなくて……こんなんで『恋人』なんて言っていいのかな……)
慶はどう思ってるんだろう。
今日で丸一年……。慶はこんなおれで本当にいいのかな……。
どんどんドツボにはまっていく………
そんなおれの様子に気づいていないように、慶はパチンと手を叩くと、
「なあ、そしたらさ、ちょっと歩きたいから、バス通りずっと歩いていって、適当なところでバスに乗るってのはどうだ?」
「あ……うん」
上の空のまま肯く。バスで帰ったことがないのであまりピンとこない。
「たぶん方向的にこっちの道なんだよな~」
「そうなんだ……」
そのまま、ボーリング場の横道に入った慶の後をついていく。道も全然分からない。でも、慶もあまり分かっていないようでキョロキョロとしている。
「たぶんここ抜けて左……、あ」
「え? わ、ごめ……」
慶がいきなり立ち止ったのでぶつかってしまった。何……と思ったら……
「…………え」
「あ…………」
二人して、立ちすくんでしまった。
目の前に現れたのは、イルミネーションに彩られた数軒のホテル。目立つパネルに書かれた【休憩】の文字……
初めて見る風景に、落ち込んでいたことも吹っ飛んでしまった。
「ここって、もしかして……」
「わあ!」
いきなり慶が耳を押さえて叫んだ。
「わ、わざとじゃないからなっ。さっさと通り抜けるぞっ」
「え……」
下を向いたまま行こうとする慶の横で、おれは立ち止って看板をマジマジと見てしまった。
「休憩、2時間3500円から……。ねえ、これって、1人3500円なのかな? 2人7000円ってこと?」
「し、知るか!」
「中入って聞いてみようよ」
「アホかっ」
腕を掴まれ、ずるずる引きずられる。
「あ、こっちは2時間3000円から。500円安い……」
「うるさいっ」
慶、真っ赤だ。通りすがりのカップルがおれ達を見てクスクス笑いながらホテルの入り口を入っていく。
ああ、いいなあ。2時間二人きりでいられるってことだよな……
「おれも行きたい……」
「ばかっ!あほっ!入れるわけねえだろ!」
ぷりぷり怒っている慶。
「え………入れないの?」
それは男同士だから? 高校生だから? ………両方かな………
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