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BL小説・風のゆくえには~告白はゲレンデで(前編)

2018年02月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【浩介視点】


 高校を卒業して4日目。
 元2年10組のスキーツアーに参加した。参加人数は、男子13人・女子11人。

 夜中に出発したバスは、明け方に目的地に着き、ひとまずは旅館の大広間に通された。ここで仮眠を取ってもいい、とのことだけれども、他のツアー客含め誰も寝る様子はないので、おれ達も集まって今後の確認をすることになった。

「部屋割り、適当に分けたから、鍵の責任者決めて」
「スクール申し込む奴、申込書書いて」
「レンタルの奴も、先にこれ書いて」

 あいかわらずの迷いなさで、皆を仕切っている長谷川委員長。いつでも冷静で淡々としていてかっこいい。


「桜井、同じ部屋、よろしくー」
「あ。よろしくね」

 斉藤に肩を叩かれホッとする。
 本当は慶と同じ部屋になりたかったけど、それは委員長に却下されてしまい(おれ達二人と同じ部屋になった奴がかわいそうだから、と言われた……)、あまり話したことのない人と同室は嫌だなあと思っていたら、そこは委員長も考慮してくれたのか、2年の時同じグループで、バスケ部でも一緒だった斉藤と同室にしてくれていた。3人部屋で、もう一人は委員長だ。委員長とは本の趣味が合うこともあって、わりと話をするので有り難い。

 斉藤がいつもの能天気な感じで言ってきた。

「オレ、スキーやるの初めてなんだよー。桜井は?」
「んと……4回目、かな」
「おお。じゃ、結構滑れる?」
「ううん。ボーゲンでしか滑れないし、最後に行ったの中2の時だから、あんま自信ない……」

 そんな話をしているところに、溝部も加わってきた。

「滑れない奴、わりといるんだな。半分以上、初日のスクール入るって。初心者コースと初級コースに分かれるみたいだけど」
「あ、そうなんだ」

 確かにプロに教えてもらった方が、習得が早そうだ。

「溝部は?」
「オレは滑れる。20回以上は行ってるからな」
「おー。スゲー。どこのスキー場行った?」
「んー……、苗場、蔵王、万座……」

 指折り数えていた溝部が、ふいっとおれを見上げた。

「桜井は? どこ行ったことある?」
「あ……ええと、ダヴォスの……」

 言いかけると、溝部がポンと手を打った。

「ダボスって、菅平だっけ?」
「え? ううん。スイスの……」
「は?」
「え?」

 きょとんとした感じに、おれを見返した溝部と斉藤。

 ……え、何? おれ、何か変なこと言った?

「スイスって……外国のスイス?」
「あ、うん。父の友人が別荘を貸してくれるから、それで3回……」
「へええええ……」
「へええええ……」

 うわ~と口に手を当てている二人。

「やっぱすげえな、桜井のうちって」
「かーねもちー」
「そんなことは……」

 ………………。

 もしかして、これって普通じゃないのか……?

(………しまった)

 おれはこういうところが本当にダメだ。人と感覚がズレているらしく、自分では気がつかないうちに、呆れさせてしまったり、不快な思いをさせてしまったりする。最近はだいぶマシになったと思ったのに……

「スイスでスキーって、そんな話聞いたことねえ」
「しかもそれ3回って」
「…………」

 溝部と斉藤が話している声が遠くなっていく。ブラウン管の中に閉じ込められたようになる。

(…………慶)

 心臓のあたりを押さえて、息を吸い込もうとするけれど、空気が入ってこない。

 苦しい……どうしよう……

 大きく息を吸って、吸って、吸って……、と、その時。

「浩介?」
「………っ」

 ふっと急に空気が入ってきた。いつの間に、慶がおれの隣に寄り添うように座ってくれている。

「………慶」

 途端に呼吸が楽になる。ふううっと大きく息を吐く。

「どうした?」
「ううん。何でもない……」

 座り直して更に慶にくっつくようにすると、慶が眉を寄せた。

「何だ? 溝部に変なことでも言われたのか?」
「何だよそれっ」

 即座に溝部が反応して、抗議の声を上げた。

「どのくらい滑れるかって話してただけだよっ。な?」
「う……うん」
「で、桜井がスイスで滑ったことあるっていうから、羨ましいって話!」
「え?! そうなのか?! 前にスキー行ったことあるって、スイスだったのか! すげ~~」
「ホントすげーよなー」

 慶も溝部もニコニコしてる。

(…………いいのかな)

 これは大丈夫ってことかな……?

「なあ、渋谷はどうせ滑れるんだろ? どっちが早いか競争しようぜ?」
「おーのぞむところだ!」

 二人はそのまま楽しそうに話しはじめた。

「桜井、もしかして寒い? もうちょいストーブの近くいく?」
「え……あ」

 斉藤が、慶にくっついてるおれに聞いてくれた。いつもと同じ優しくて明るい斉藤。

「うん……大丈夫。ありがとう」

 慶から体温が流れてくる。斉藤が、溝部が、こんなおれのことを受け入れてくれていることが嬉しい。

 大学生になったら、また新たな人間関係を作らなくてはならないということは、恐怖でしかないのだけれども……、こうして温かい人達といると、もしかしたら、おれでも上手くやっていけるかもしれない、と勘違いしそうになる。………勘違いが本当になればいい。


***


 その日は、スクールに入った人たちとは一日中別行動で、おれは慶と溝部とその他数人と行動を共にしたんだけど………

「あーもう、渋谷君カッコよすぎる!!」
「ホントに何でもできちゃうんだね!!」

 女子がキャアキャア騒いでいてうるさい。

 でも、しょうがない。慶は本当にかっこいいから。
 慶と溝部でコブの斜面を滑る競争をした際も、力ずくでガッガッガッと下りてくる溝部に対して、慶は滑らかで軽やかで涼し気で……

「渋谷のせいでオレのカッコよさ半減してねえ?」
「う……」

 溝部に聞かれ、うん、と肯きそうになり、何とか飲みこんだ。
 確かに、慶がいなければ、溝部が一番滑れるから一番かっこよかったかもしれないのに……。溝部残念。


 その後も、上級コースと中級コースで時々別々になったりしつつも、ほぼ慶と一緒に滑ることができた。二人乗りのリフトではコッソリ手を繋いだりして……
 旅館に帰ってからは、大広間でみんなで盛り上がりながら夕食をとって、その後は温泉に、のぼせてしまうほど、のんびり入って……

 ああ……。幸せな一日だった。



 その夜のこと……

「………?」

 ふっと人の話し声で目が覚めた。 
 布団に入りながら、同じ部屋の斉藤と長谷川委員長と話していたのだけれども、いつの間におれだけ眠ってしまっていたらしい。

「………いや、桜井も結構滑れるって溝部が言ってたよ」
「そうか。それなら大丈夫だな」

 ………。

 どうやら、おれは眠っていると思われているようだ。まあ、あえて起きたって言うこともないか、と思って再び目を閉じたのだけれども……

「で、委員長って、川本と付き合ってんの?」
「は?!」
「!!」

 斉藤のビックリ発言と委員長の叫び声に、思わずバチッと目を開けてしまった。

「な、な、何言って……っ」
「………」

 いつも淡々としている委員長が、めちゃくちゃ動揺してる………

「いやあ、委員長さ、ちょっと滑れるくせに、初級じゃなくて、初心者向けのスクールに入ったじゃん? 何でなんだろうなあ?と思って、今日一日観察してたんだよね」
「え」
「そしたら、川本を助けまくってたから、もしかして付き合ってんのかな?と思って」
「………あー……いや」

 ボソボソ、と委員長が言う。

「川本がオレなんかと付き合うわけないだろ……」
「え、違うんだ? って、あれ? そういう言い方するってことは、好きは好きってこと?」
「…………」

 委員長、無言……

 わ………。好き………なんだ………
 知らなかった………

(オレなんかとって………)

 いつも自信たっぷりな委員長がそんなこと言うなんて意外……。

 川本さんは、クラスの派手グループの一員だ。グループの中では一番控えめの、大人っぽい美人。委員長は、クラス委員長としては目立っているけれど、男子の中で一番真面目で地味なグループに属している。確かに二人のタイプは全然違うけど……。

「今日の川本の様子見る限り、脈ある感じだったよ? 告白してみればいいじゃん」
「簡単に言うな」
「簡単だよ。もし、うまくいかなくても、もう会わなくなるんだから、ダメ元で言ってみればいいだけの話」

 あっけらかんと斉藤が言う。

「それに、これから川本は短大生になって、委員長は浪人生になるわけじゃん? ここで言っておかないと、すぐ他の男に持って行かれちゃうよ?」
「それは………」
「まあ、いいならいいんだけど」

 後悔しても知らないよ~~

 斉藤はそう言うと、「おやすみ~~」と布団をかぶってしまったようだった。

「……………」

 委員長、どうするんだろう……。


 他人事なのにドキドキしてしまって、それからはなかなか寝付けなかった。



 

------------

お読みくださりありがとうございました!
長くなってしまったため、前後編にすることにしました。

補足その1
高2の時は、慶・浩介・溝部・斉藤・山崎、の5人で仲良しグループでした。でも残念ながら、山崎はスキー参加していません。

補足その2
浩介は小学校中学校時代、学校生活うまくいっていませんでした。なので、同年代の人と話した経験が少なく、それに、家でテレビ見せてもらえないこともあって、少々世間ズレしており、この時期、それがコンプレックスだったりしてます。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!
どれだけ次を書く励みとなったことか……心から感謝申し上げますっ。

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コメント (2)
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