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BL小説・風のゆくえには~自慢の彼氏(前編)

2018年02月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

長編『あいじょうのかたち』の最終回(2015年11月)から約2年………
現在(慶&浩介43歳)のお話です。



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【浩介視点】



 母に頼まれて、華道展の出品の手伝いをした。使用したい花器が大きくて重くて、電車で運ぶのが難しいため、車を出してほしいと言われたのだ。

 荷物運びだけのつもりだったのに、花を生ける手伝いもすることになって……

「桜井さん、素敵な息子さんね~羨ましいわあ」
「あら~そんなこと……」

 ………………。

 同じ教室の女性に言われ、はしゃいだように答えた母を見て、ふっと意識が遠のきそうになった。

(ああ、この人あいかわらずだな……)

 この手伝いは『母親の趣味の手伝いをしてくれる優しい息子』を周りに自慢するためだったのか。

 だからおれは自慢できる息子にならなくてはならない。母のために礼儀正しい息子に。母のために良い学校に。母のために良い成績を……

(………………)

 昔を思い出して、息が苦しくなってくる。

(……………慶)

 大丈夫大丈夫大丈夫………
 息を吸って、吐く………吸って、吐く………

「浩介? ここ押さえてくれる?」
「………はい」

 なんとか正常心をかき集めて、その場は乗り切ったけれど……


「……慶」
 マンションに帰って、慶の顔を見た途端、張り詰めていた糸が切れて、玄関先で慶に縋り付いてしまった。
 何も言わず抱きしめてくれた慶に「もう、手伝いには行きたくない」とだけ言うと、

「じゃ、片付けはおれがいくから」
 慶は、あっさりと、何でもないことのように言ってくれた。

 結局、おれはその優しさに甘えっぱなしだ。でも、これ以上耐えられる自信もないし、せっかく上手くいきはじめていた母との関係が崩れるのも嫌だった。

(ああ、また慶に迷惑をかける……)

 慶は大丈夫だと言ってくれるし、メンタルクリニックの戸田先生に言わせると、「渋谷さんは桜井さんに頼られることに喜びを感じてるので、たくさん頼ってあげてください」と、いうことなんだけど……。でも、申し訳なくて……落ち込んでくる。

「………迷惑かけてごめんね」
「別に迷惑じゃねえよ」

 ピシッとオデコを弾かれた。

「んなこと言ったら、お前だって、こないだおれの母親に頼まれて、フラダンスサークルのチラシに載せる原稿書かされてたじゃねーかよ」
「そんなのは別に……」
「だからお互い様ってやつだろ」
「…………」

 お互い様……というのは違う気がする……

「いいか? 何度も言ってるけど」

 慶は真剣な調子で言葉を続けた。

「お前はおれのもの。おれはお前のもの」
「……?」

 それはそうだけど………

「だから、お前のものはおれのもの。おれのものはお前のもの」
「うん……」

 話の着地点が見えないけど、とりあえず肯く、と。

「だからな」

 慶が優しい手で頬を包んでくれて、ふわり、と微笑んでくれた。

「おれは、お前の親を自分の親と同じように大切に思ってる」
「……………」
「だから、迷惑とか思うな」
「慶………」

 でも……でも。

 言いかけたけれど、両頬を引っ張られて、言葉を止めた。

「お前が行けないならおれが行けばいいだけの話だろ」
「…………」
「おれは原稿なんて書けないから、そっちはよろしく」
「………。うん」

 おれに気を遣わせないためにそんなこと言ってくれてるってことは分かるけど、今はその優しさに乗らせてもらおう。
 おれは慶に甘えてばかりだ……

 

***



 華道展の一件があってから、怖くて一人では実家に帰れなくなってしまった。せっかく時々は一人でも帰れるようになっていたのに、こんなほんのちょっとしたことで、後退してしまうなんて、自分の精神の弱さにほとほと嫌気がさす。

 一月の末、戸田先生に正直に打ち明けたところ、

「無理して一人で帰ることないです。二人でいらっしゃればいいんです。大丈夫ですよ。渋谷さんはそれが嬉しいんですから」

 そう、いつものように断言され、少し笑ってしまった。
 5月出産予定の戸田先生、顔は全然変わらないけれど、お腹だけがふっくら前にでている。産休を取るのではなく、退職するそうなので、診ていただくのはこれが最後となる。

「是非、うちにも遊びにいらしてくださいね?」

 帰り際、にっこりとそう言ってくれた。戸田先生のご主人はおれ達の高校の同級生の山崎なのだ。

「是非!」

 思わず、大きな声で返事をしてしまった。
 正直、主治医が変わることには不安しかない。でも、山崎と戸田先生の未来を思うと、ワクワクするような高揚感がわいてくるのだ。

 これから生まれてくる命……

 それは奇跡の結晶だ。


 


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お読みくださりありがとうございました!
自慢にされることが嬉しい子もいれば負担になる子もいる。難しい……
そんな真面目な話お読みくださり本当にありがとうございましたっ。

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!
画面に向かって拝んでおります。心より感謝申し上げますっ。

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コメント (7)
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