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BL小説・風のゆくえには~告白はゲレンデで(後編)

2018年02月13日 13時23分34秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【慶視点】


 高校を卒業して4日目。元2年10組でスキー旅行に来た。

 浪人のくせにスキーなんて行っていいのかな……と思ったけれど、幹事の長谷川委員長含め、浪人生も何人かいるっていうから、安心して?キャンセルはせず、参加することにした。浪人生活がはじまる前に最後のお楽しみだっ。


 一日目は、途中、少しだけ上級コースにも行ったけれど、基本、中級以下のコースを浩介と何人かの滑れる奴らと一緒にのんびりと滑った。
 みんなでトレインで滑ったり、二人乗りのリフトで浩介とコッソリ手を繋いだり……楽しすぎて頬が緩みっぱなしだった。

 毎年行く親戚とのスキーだと、年上のいとこ達と競争したり、おじさんからフォームの指導をされたり……と、とにかく休む間もなくガンガン滑るので、こんなにのんびり滑ったのは初めてのことだ。スキーって、こういう楽しみ方もあるんだなあ……

 夜はみんなで大広間でご飯を食べて、温泉にゆーっくり浸かって……本当に充実した楽しい一日だった。これで浩介と同じ部屋だったら文句はなかったのに、委員長め……。


 そして二日目。
 朝から浩介の様子がおかしい。なんかソワソワしている感じ。
 浩介と同室だった斉藤も、鈴木・小松の女子コンビとコソコソ話したりしていて、なんかあやしい……。

「何かあったのか?」

 リフトで二人きりになれた時に浩介に聞いてみたところ、浩介はビクーッと跳ね上がって、

「な、なにもないよ!!」

と、何でもあるって白状してるように答えた。ので、

「………ふーん」
 ガンガンっとリフトを揺らしてやる。と、

「わっ怖い怖い怖い!やめて!」

 浩介が、あわあわとおれに掴まってきた。その手を上からつかんで、顔をのぞきこんでやる。

「で? 何かあったのか?」
「……………。もー………」

 浩介が、ナイショだよ……と話したことによると………

 昨晩、浩介は同室の斉藤と長谷川委員長の会話を聞いてしまったそうなのだ。「長谷川委員長の好きな人は川本沙織」だ、と………。

「ふーん……なるほど……」

 委員長は告白しない、と言っていたそうだ。でも、斉藤がコソコソ動いてるのは、何かしてやろうとしているってことか………

と、いう予想は的中して、昼御飯のために寄ったレストハウスで、斉藤からコッソリと協力してほしい、と頼まれた。

「作戦決行は明日。自然な形で二人きりにさせるから!」

 自信たっぷりに言い切った斉藤。

 ……こいつ絶対、楽しんでる……。




 3日目………
 昼過ぎのバスで帰るため、早々にチェックアウトして荷物は大広間の片隅で預かってもらえることになった。

 みんなが集まったところで、斉藤が「提案!」と声をあげた。

「せっかく男女混合で来てるんだから、最後は男女で組になって、上から下まで滑って来るっていうのやろうよ!」

 予想通り、「賛成賛成!」と、溝部が盛り上がってくれて、代田たち派手め女子も「いいよー」と言ってくれたので、すんなりと話はまとまった。

 斉藤はニッと笑うと、紙袋を二つ取り出し、

「そう言ってもらえると思って、くじ作ってきましたー。女子の分は………あ、鈴木、よろしく」

 初めから決めていたくせに、「近くにいたからたまたま頼んだ」風に鈴木に紙袋を渡した斉藤。案外演技派だな……。

「12番まで番号あるから! あ、桜井は女子の方のくじ引き引いて」

 男子13人、女子11人なので、男子が一人、女子の方にいかないといけないのだ。

「桜井、渋谷と組になりたいだろー? 頑張って渋谷当てろよ」
「えええ!?」

 浩介がのけぞっている。

「そんなこと言うなら、初めからおれと慶だけ抜かしてよー」
「そんなズルはしませーん。くじ引きは公明正大に!」

 これから委員長と川本をペアにするために、ズルをしようとしてるくせに、斉藤、シャアシャアとよく言う………

 まあ、いい。作戦決行だ。さりげなく委員長の横に行き、話しかける。

「そういえば行きのバスでもくじ引きしたよな。あれ委員長、家で作ってきたのか?」
「いや、こっち着いてから、溝部とかと話してて作ることになって……」
「あ、そうだったんだ?」

 作戦その1。委員長の足止め。部屋の隅では、同じく作戦通り、小松が川本を引き留めている。

 そんなことを知らないみんなは、くじを引いては盛り上がっている。

「オレ、9番! 女子の9番、誰!? もう出た!?」
「3番! 男子の3番、誰ー?」

 あちらこちらで組ができはじめている。そろそろかな……?

「あと引いてない奴、誰ー?」

 斉藤の言葉に、おー、と返事して、委員長を促してくじを引きにいく。

「お先ー」
「おお」

 なんの疑いもなく、おれに先に引かせてくれた委員長。袋の中身は、計画通り残り2つ。1つだけ取り出して、作戦その2決行。

「斉藤は?」
「まだ! 委員長、オレ先に引かせて。渋谷持っててー」

 袋をおれに渡し、斉藤はさりげなく一度ポケットに手を入れてから、あらためて袋に手を伸ばした。

(…………うまくいったか?)

 今、斉藤は、ポケットの中に隠していた「12」のくじを袋に入れ、自分は残っていた方のくじを取り出した、はずだ。

「はい、委員長」

 袋を差し出すと、委員長は黙って袋に手を入れた。



***



 頂上まではみんなで行って、そこで集合写真を撮ってから、各々決められたペアで、好きなコースでおりていくことになった。

「集合は、11時15分に真ん中のレストハウス。それまでは必ず二人一緒にいること!」

 一分ずつ間をあけて滑っていったので、みんながどこのコースに行ったかは分からない。おれと浩介は、林道コースでおりていくことにした。

「委員長、川本さんに告白するかなあ?」
「うーん……あいつ、おれ達が裏で手回したこと、気がついたみたいだから、逆にやりにくくなったかもな」
「え、気がついてた?」
「たぶん」

 おそらく委員長は、川本が自分同様、一番最後にクジを引くように仕向けられていることに気が付いたようで、おれがクジの入った袋を差し出した時、なんだか複雑ーな顔をしていた。

「えーせっかく頑張ったのになあ」

 浩介は呑気な感じに文句を言ってから、

「ま、おれはこうして慶と二人きりで滑れて嬉しいからいいけどさ」

と、後ろから頬を寄せてきた。浩介はおれの腰につかまって、ぴったりくっついて滑っているのだ。

 林道コースは、その名の通り、木に囲まれたコースとなっている。初心者向けのなだらかなコースなのだけれども、片側が谷だし、割合と狭いので、初心者には怖いかもしれない。その上、中級以上には物足りない傾斜なため、人気がないのか、あまり人がいない。時折、リフトの真下を通るので、そこからの視線だけ注意すれば、すっかり二人きりの世界だ。


「鈴木のおかげだな」

 クジ引きの結果、本当は、おれと鈴木、浩介と溝部、の組だったのだ。でも、鈴木が、

「桜井君、泣かないで! 代わってあげるから!」

と、バカでかい声で言って、代わってくれたのだ。高2の時に鈴木のことが好きだった溝部にとってもラッキーなトレードだったと言える。

 でも、浩介はちょっと笑うと、

「それね……、あと、代田さんたちのおかげ、でもあるんだよ」
「代田たち? なんで?」

 浩介の言葉に首をかしげる。代田というのは、派手めグループのリーダー格の女子だ。

「代田さんとか新井さんとか、慶とペアになりたがってた女子、何人もいたからさ」
「は?」
「元々鈴木さん、『みんなの視線がコワイから代わって』ってこっそり言ってきたんだよ? おれが泣いてるって話は、それの誤魔化し」
「……………」

 なんだそりゃ。

「あ、泣きそうだったのは、本当だけどね? 慶と別行動なんて耐えられないもん」
「……………」

 なんか、意味分かんねえけど……

「だから一緒に滑れて幸せ」
「………だな」

 こうして二人きり、ぴったりくっついてお互いの体温を感じたまま、木々の間を滑っていけるっていうのは、最高だ。聞こえてくるのはお互いの息遣いとザーッというスキーの滑る音だけで……この世に二人だけみたいで……

 でも、そんな幸せな時間ももうすぐ終わり。合流地点が見えてきた。さすがにここからはくっついては滑れないので、横に並んでゆっくりゆっくり進んでいると、

「慶はモテるから……心配」
「は?」

 ボソボソと浩介が言ってきた。

「これから別々の学校になって、そっちでおれの知らない友達とかできたりして」
「…………」
「それで、おれのこと忘れちゃったらどうしようって」
「…………アホか」

 一瞬加速して、浩介の前に回り込み、バックボーゲンに切り替える。

「そんなの、おれの方が心配だろ。お前の方が交友関係広がる率高いんだからさ。大学の授業受ける仲間だけじゃなくて、サークルの仲間とかバイトの仲間とか、たくさんできるだろ?」
「…………」
「おれなんか、予備校通うだけだから……、どうした?」

 手を伸ばしてきたので掴んでやると、浩介はふにゃっと泣きそうな顔で笑った。

「慶……」
「なんだ?」
「……………。大好き」
「…………」

 なんかよく分かんねえけど……

 ブレーキをかけてコースの端で止まる。もう中級コースとの合流地点だ。

「浩介」

 掴んだ手を引っ張って、傾いできた浩介の唇に一瞬だけキスをする。

「慶……」

 ますますふにゃっとした浩介のオデコにオデコをぶつける。

「だからできるだけ毎日会おうな?」
「うん」

 前から約束している話に念を押してやる。

「朝、一緒の電車、乗ろうな?」
「うん」
「絶対だからな?」
「うん」

 そして、もう一度……と思ったけれど……

「あ」
「え?」

 おれ達が滑ってきた林道コースに人影が見えて、浩介に「後ろ」と教えてやる。

「あ……」
「うまくいったってこと……かな」

 さっきのおれ達みたいに、ぴったりとくっついて滑ってくる二つの影。委員長と川本だ。

「………行くか」
「うん」

 邪魔しないでやるために、この場を離れてやる。あいつらも浪人生と短大生になる。おれ達と同じだ。付き合っていくには、色々と乗り越えなくてはならないこともでてくるだろう。でも……

「これからも、ずっと一緒にいような」
「うん。一緒にいてね」

 手を繋いで、確認し合う。

 これから別々の道を進むことに不安はあるけれど……、不安になったら、こうやって触れ合って、見つめ合って、確認しよう。ずっと一緒にいるって、何度でも確認しよう。

「大好きだよ、慶」
「……ん」

 ゲレンデでの告白に、愛しい気持ちでいっぱいになる。
 こうしておれ達、ずっとずっと一緒に進んでいこう。



 なんて、甘ったるい気持ちで一緒に滑っていたんだけど……

 聞き覚えのありすぎる二つの声に振り返ってしまった。溝部と鈴木だ……

「あのコブのコースが終わるところまでって言っただろ!」
「はあ?!下までって言ったじゃん!だから私の勝ち!おごり決定ね!」
「なんだとー?!」

 いつものようにわあわあ言い合っている二人のせいで、すっかり現実に引き戻されてしまった……



***


 その後、集合場所のレストハウスでの昼食中、交際宣言をした委員長と川本沙織。
 みんなの拍手と冷やかしの声の中、

「委員長……。もしかして、このスキー旅行、川本に告白するために企画したのか……?」

 溝部が委員長にコッソリ聞いたけれど、委員長は肩をすくめただけで肯定も否定もしなかったので、真相は闇に包まれたままだ。
 



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コメント (4)
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