新作準備間に合わなかったので、慶&浩介の短い読切をお送りします💦
2018年8月14日(火)
【慶視点】
夏休み中の浩介と一緒に実家に顔を出したところ、妹の南とその娘の西子ちゃんもいた。二人は昨日から泊っているらしい。それで、
「見て見て~! かわいいでしょ~?」
「浩兄、どうどう? これ!」
二人してニヤニヤしながら見せてきたのは3冊のポケットアルバム……
「なんだこれ?」
「お兄ちゃんの中学のバスケ部時代の写真♥」
「は!?」
なんでこんなにたくさん!?
撮られていることに気がついていないのか、目線はまったくカメラを向いていない。どうやら試合の日の写真のようだけれども、試合中よりも、試合後、仲間に囲まれているものばかりだ。
「こんなの初めて見た……」
「そりゃそうよ。初めて見せたんだもん」
「は?」
「いや~昨日の夜、部屋の片付けしてたら出てきたんだよ。コッソリ撮りためてた作品の数々が!」
「はああ?」
こんな写真いつ撮ったんだよ! って言うか、何のために撮ったんだよ! 我妹ながら、いつもながら意味がまったく分からない!
「わ~、慶、可愛い………」
「何だと!」
ポヤンと言う浩介の脇腹をガシガシ小突いてやる。
「どうせチビだよ!どーせ!チビだよ!バスケ部の中だと余計に断トツ小さいからスゲー嫌なのに!」
「痛い痛い痛い」
あはは、と笑いながら、浩介がアルバムをめくっていき、ふ、と手を止めた。
「あ、でも、この子、慶と同じくらいじゃない?」
「これは上岡武史だ!」
浩介も知っている、おれ達と同じ高校だった武史。
「こいつ中2から急にでかくなるんだよっ」
「あ、確かに面影ある……。へえ、本当に小さかったんだね。今、180以上あるよ?」
「うっせーよ!」
あー、嫌だ嫌だ。客観的に見ると、本当にチビだおれ……
「南!だから何なんだよ?この写真はっ!」
「私達的に美味しい写真。ね~?」
「ね~?」
母子でうなずきあっている南と西子ちゃん。意味が分からない……。
でも、浩介はウンウンと深くうなずくと、
「確かにね……。おれ的には面白くないなあ、正直……」
「あら、浩介さん、嫉妬? 中学生に?」
「そりゃあね……」
浩介はジーっと写真を見ている。試合に勝ったあとらしく、仲間達に揉みくちゃにされて笑っているおれが写っている写真……
「この写真……おれも一緒に写ってればいいのにって思うよ」
「…………浩介」
浩介は辛い中学時代を送っていたらしいので、思い出させたくない……
さりげなく座り直して、浩介の膝に膝をくっつけると、気がついた浩介が、何かホッしたような顔になっておれに笑いかけてきた。
「でもおれ、中3の時の慶、見たことあるんだよ。ねー?」
「ああ……そうだな」
おれもホッとして、3冊目のアルバムに手を伸ばした。
「これ、順番通りに入ってんのか?」
「あ、うん」
南はうなずいてから、ポン、と手を打った。
「そっか。浩介さん、中学生の時、試合中のお兄ちゃん見てファンになったとか言ってたもんね」
「え、それ、どの試合?」
西子ちゃんも一緒になってアルバムをのぞきこんできた。
「おれが怪我した日の試合だから、一番最後なはず。おれそのまま引退したから」
「じゃあ……ここからかな?」
ペラペラとめくられていく。懐かしい光景。正直、記憶は断片的過ぎて、チームメイトの名前も正確には思い出せない……
「この年の3年生、みんな背高いんだよね。お兄ちゃん以外」
「悪かったな!」
ああ、ホント、チビ過ぎて嫌になる……
あらためて、ドップリ落ち込んでいたところ、浩介がホウッとため息をついた。
「慶……キラキラしてるね」
「なんだそりゃ」
前にも言われたな。キラキラしてたって……
「おれねえ、本当に感動したんだよ。こんなに眩しい光、見たことないって」
「………………」
なんて返事をしたらいいのか分からない……。
南と西子ちゃんはなぜかニヤニヤと肘でつつきあっている。何なんだよこいつら。
「あー……………」
何だかいたたたまれなくて、わざと写真を丁寧に見ていて……見ていて……見て……………………………、
「あああああああ!!!」
思わず、大声で叫んで、アルバムを持って立ち上がってしまった。
だって………だって、この写真!!
「な、何、慶……」
「どうしたのお兄ちゃん」
「慶兄?」
ハテナの顔をした3人の目の前のテーブルに、バンっとアルバムを叩きつけてやる。
「これ、見ろ!」
指でさしてやる。試合終了の挨拶をした直後らしいその写真の一番端。体育館のドア横の人だかりの中に………
「浩介! お前、写ってる!」
【浩介視点】
「浩介! お前、写ってる!」
そう、慶に叫ばれ、あらためて写真を見て……
「うそ…………」
ビックリしすぎて、息をするのも忘れてしまった。思い出す。あの時……確かに、おれが立っていたのはこのドアの横だ。この角度から慶を見ていた。おれだ……本当に、おれだ。真面目な顔をして、慶のことを見ている………
「おれだ……これ」
「だよな?だよな!」
「うわ。うそ、すごい!」
「わ~~私、天才!」
慶、西子ちゃん、南ちゃんがそれぞれわあわあ言う中、おれはひたすら、呆然としてしまって……………
「浩介? どうした?」
トントン、と肩を叩かれて、ハッとした。いつの間に南ちゃんと西子ちゃんはいなくなっている。
「二人とも飯の準備に呼ばれてあっちいったけど、お前どうする?」
「………………」
慶………、慶が、いる。
「慶……………」
「どうし………、わ、お前、なに……っ」
我慢できなくて、慶の温かい手をぎゅっと握りしめる。
「慶………」
「何だよ?」
「………慶」
おれ………本当に、慶と同じ時間を過ごしていたんだね。この写真が、その証拠。
笑顔の慶を、ただ見ていただけだったおれが、今はこうして、その手を握っている。
「慶……おれ、この頃の慶に会えたら……」
「……………」
「こうして触れたいな」
ぎゅっぎゅっとすると、慶は、ふっと笑って、
「そうだな。おれもこの頃のお前に出会えたら……」
ぎゅっと握り返してくれた温かい手。
「すぐに友達になって、親友になる」
「慶………」
慶……。キラキラしてるところ、変わらないね。
「うん。それから……恋人になろうね?」
「………だな」
くすくすと笑いあう。
「嬉しい。こんな風に一緒の写真に写ってるなんて奇跡」
「だな」
「しかも!」
あらためてその写真を見て思う。
「ちょうど、慶が誰にも触られてない写真だから、余計に嬉しい!」
「なんだそりゃ」
触られるのはチームメイト同士のコミュニケーションであって、そういうことじゃねーだろ。
と、ちょっと呆れたように言った慶。分かってないなあ。
「いやいや。設定的に美味しすぎだよ。小柄美少年総受けとか」
「は?」
ピクリと頬をあげた慶。
「なんか意味わかんねえけど、『小柄』だけは分かったぞ? 悪かったな!小柄で!」
「わー、ごめんごめんっ」
蹴ってくる足を何とか止める。本気で気を悪くしている慶が可愛い。
あの日、おれの人生は変わった。変えてくれた慶と共に、今を生きている。
写真の中のおれに伝えてやりたい。お前の人生はこれからだと。だから、大丈夫だと。
「慶、大好きー」
「あほか!」
我慢できずにキスをすると、慶が更に真っ赤になって怒って……それから笑いだした。おれも一緒に笑ってしまう。
その光と共に生きる人生がやってくる。
だから、君は大丈夫。
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お読みくださりありがとうございました!
本当は新作の人物紹介を、と思っていたのですが、間に合わず、浩介と慶の小話をお送りいたしました。
新作は、上記話の写真が撮られた頃……慶が中3の時からはじまります。この写真にも一緒に写っている村上君という男の子が主人公です。
お時間ありましたら、お付き合いいただけると幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
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今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
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