【享吾視点】
出る杭は打たれる。だから出てはいけない。かといって、出来なさ過ぎて目立ってもいけない。中の中~中の上くらいがちょうどいい。
委員会はやるとしたら、地味な委員会を選ぶ。間違っても、学級委員なんて華やかなものにはなってはいけない。いけない。いけない……のに。
「はーい! 村上やりまーす!」
「!?」
中学3年生しょっぱなのホームルーム。先生の「学級委員やってくれる人!」の問いかけに、目立たないよう、机の端あたりをジーッとみていたオレの腕が、いきなり、オレの意志とは関係なく、上にあげられた。腕を掴んでいるのは、後ろの席の村上哲成。色白の眼鏡チビ。
「!」
バッと腕を払ったけれど、村上はこちらを無視して、みんなの方に両手を振った。
「はーい! 村上享吾君が学級委員になることに賛成の人ー!」
わっと歓声があがる。誰もやりたい奴がいなかったから、みんな大喜びだ。って、なんなんだこれは!
戸惑っているオレに向かって、担任の国本という若いお姉ちゃん先生までニコニコと言ってきた。
「村上君、いいかな? いいよね? よろしくね? あー助かったわー」
「…………」
ヒドイ、としか言いようがない。
この中学に転入してきて丸1年。せっかく目立たないように、ひっそりと生きてきたのに、学級委員なんて目立つ仕事をやるなんてアリエナイ。眼鏡チビ、何しやがるんだ!
ホームルーム終了後、速攻で真意を問いただそうと振り返った。
「村上、なんで……」
「なに? 村上君」
ニヤニヤしている村上。ってオレも村上だ。紛らわしい!
「だから、村上……」
「テツ」
「は?」
村上にピッとオデコを指で突き刺された。
「テツって呼んでって、自己紹介の時いっただろ? だからテツ。オレもお前のことは『キョーゴ』と呼ぶ」
「…………」
メガネの奥の目がクルクルキラキラしてる。こういう奴、苦手だ。視線を外して問いかける。
「なんでオレを学級委員にした?」
「なんでって、できそうだから」
「は?」
できそう?
「キョーゴ、できるだろ? なのにやらないのはズルだから」
「……………」
ズル? 意味がわからない。
ムッとしていると、村上はヘラヘラと言葉を継いだ。
「ま、女子の学級委員は、ベテラン西本だから楽できるし、いいじゃん」
「………」
女子の学級委員に立候補した西本ななえは、毎年学級委員をしているらしい。成績も常に学年一位の才女だ。
「でも、村上……」
「だから『テツ』だって」
また、額を指で突き刺された。痛いっての……
「…………。オレ、人前とか苦手だから、本当に困る。変なことしないでくれ」
「ふーん」
ジッ覗きこんでくる瞳……。黒目が大きい。犬みたいだ。
「じゃ、得意になればいい」
「は?」
「大丈夫。すぐに慣れるから」
「はああ?」
呆気に取られたオレをよそに、村上はニコニコニコニコとしている。
(……ああ、本当に嫌だ。こういう奴)
心の底からため息が出てしまう。
せめてこれ以上は目立たないように、前に出ることは西本に任せて、オレは裏方に徹しよう。と、密かに決意した。
でも、翌日の第一回委員会にて。
ここでももちろん目立たないようにヒッソリとしていたのだけれども、
「亨吾ー! 同じ委員会! よろしくな!」
「………渋谷」
開始前、キラッキラのオーラを振り撒いている渋谷慶に、どーんと体当たりされ、大注目を集めてしまった……
渋谷とは同じバスケ部というだけで、たいして話したことはない。でも、渋谷はやたらと人懐こいので、まるで昔からの仲良しのように話しかけてくるから、非常に困る。
「早く終わるといいなあ。部活遅れちまう」
「うん……そうだな」
あらためて正面から見て、本当に綺麗な顔してるな……と感心してしまう。
オレに学級委員を押し付けた村上哲成と同じく、小柄で色白だけれども、全然違う。渋谷は小ささを感じさせないほどスタイルが良く、見とれてしまうほど完璧な顔をしている。一方、村上は「ちんちくりん」という言葉の似合う眼鏡のチビだ。
なんてことを思いながら、渋谷の言うことに適当に相槌をうっていたところ、ふいに後ろから声をかけられた。
「村上享吾ってお前?」
「え。………あ」
振り返ると、やたらとデカくて坊主頭が似合う爽やかな男が立っていた。うちの野球部のエース・松浦暁生だ。こいつも、渋谷同様、目立つオーラを振り撒く奴だ。
「そうだけど……」
「あー、ごめんな。うちのテツが強引に委員押しつけたんだって?」
うちのテツ? ああ……村上哲成のことか。そういえば村上も野球部だった。
「まあ……うん」
軽く肯くと、渋谷が「あはは」と笑って腕を叩いてきた。
「享吾、お前、押しつけられたんだ? おれもだよ~ホント嫌になるよな。おれこれで3年連続だよっ」
「…………」
渋谷は出来るから頼まれただけだろう。オレとは違う。
「1回やると目付けられるからな。俺も3年連続だよ」
肩をすくめてみせた松浦。こいつも渋谷同様、出来るから頼まれただけだ。
「松浦、お前、委員長やれば?」
「やだよ。お前がやれよ、渋谷」
キラキラオーラの二人が小突き合っている。色白小柄の完璧美形の渋谷と、浅黒い肌にガッチリした体型の爽やかハンサム松浦。見た目は対照的なのに、なんとなく似ているのは、人目を引くオーラという共通点があるからだろうか。
(ああ、嫌だ嫌だ……)
そーっと目立つ二人から離れて席につく。群衆の中に溶け込む。オレはヒッソリと生きていたい。あんな奴らと一緒にいたくない。とにかく目立ちたくない……のに。
委員会終了後……
「あきおー!部活一緒にいこーぜ!」
教室に入ってきた村上哲成。ニコニコで松浦暁生に飛びついている。それを横目に、さっさと教室から出ようとしたところ、
「キョーゴ!キョーゴ!お前も一緒に!」
「は?」
呼び止められ、思いきり眉を寄せてしまった。絡んでくるなよ、眼鏡チビ。
「ほらほら!野球部とバスケ部、部室一緒だしさー」
「…………」
確かに一緒だけれども、部室は中で仕切られているし、荷物置きにしか使用しないので、一緒感はない。
……なんて言って、断るのは得策ではない、と瞬時に判断する。委員長となった松浦と仲の良い村上。松浦に悪印象を持たれて目をつけられるのも厄介だ。大人しく立ち止まって待っていると、
「おれも一緒に行くー」
「!」
ピタっと渋谷に横に引っ付かれてビビってしまった。そんな風にされるほど仲良くないのに、周りからみたらすごく仲良しみたいで嫌だ。
そんなオレの内心を読んだわけではないだろうけど、渋谷は今度は村上にくっつくと、「テツは委員会何にしたんだ?」と聞いている。二人は友達らしい。
「合唱大会実行委員! 3年でやるって決めてたんだよ!」
「なんで?」
「歌いたい曲があるんだよー」
小さい二人がつるんでいる姿は、なんか和む。それを保護者のような目をして見守っている松浦も、なんか良い。
(だから、お前らはお前らでくっついてろ。オレを巻き込むな)
そう思って心持ち離れて歩いていたのに、
「キョーゴ!早く来いよ!」
「……………」
眼鏡チビが振り向いて、でかい声で呼びやがった。
「………。おお」
一応、返事はしたけど、あまり追いつかないようにする。
(お前ら派手な連中とはつるみたくないってのに……)
ああ、この眼鏡チビ。本当に迷惑極まりない奴だ。
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お読みくださりありがとうございました!
新キャラです。ドキドキです。
でも、私的には懐かしい子達(←高校生の時にノートに書いてた子達なので)。
あれから26年ほどの月日を経て、このように世に出せることが不思議で嬉しくて有り難くて。
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