とある町の住宅街に、ポツネンとお店がある。
これは果たしてお店なのか?といった具合である。
小さな文字で「コーヒー」と書いてある。
喫茶店ではない。カフェでもない。
築60年ほどの一軒家の一角。二坪ほどのスペース。そこは昔、豆腐屋さんがあった場所だという。
コーヒーと書いてあるからには、頼めばコーヒーが出てくるのであろう。よくはわからないが、きっとコーヒーが出てくるのであろう。
ちなみに、我が家の庭には「はちみつカフェ」と看板を出しているのだが、コーヒーは出てこない。そういう展開も、あり得なくはない。
窓硝子をガラガラと開ける。扉ではなく、窓ガラス。入店する方式ではない。窓越しに注文をする方式である。たぶん。
物静かそうなお兄さんがペコリと頭を下げる。
「珈琲を、ひとつ、頂いてもよろしいですか?」
大きな看板を出すわけでもなく、派手な照明を点けるでもなく、音楽を鳴らすわけでもなく、住宅街にひっそり、ポツネンと佇むコーヒースタンド。
丁寧に淹れられた珈琲、テイクアウト用のプラスティックカップに入った珈琲を、道路側を背にして、店側を前にして、小さなベンチに座って飲む。
視界に入るのは、築60年の建物を一部改装した元豆腐屋の一角だけである。なかなかの風情が漂う、タイムスリップである。
お客さんは・・・そうは来ないように思える。
スターバックスは大賑わいでも、この店は賑わない。だって、ポツネン、としているから。
このポツネンさを楽しむ心のある人がそうはいないということ、それはこの現代社会が抱える大きな問題であると思える。
このスローに流れる空間と時間を、唯一無二だと気づくことができない人々が暮らす世界など、消えてしまえばいいのに、とさえ思える。
と言うのは、僕の側の話であるので、実際の世界とは関係がない。
朝の10時から開店の準備をして、11時に店を開けて、夕方に初めてのお客さんが来たりします。
物静かな店主が言う。
僕は、大宮駅前の路上で、ハガキを売って生計を立てていた事があるという話を、店主に向かってしていた。
なぜだろうか・・・このポツネン珈琲スタンドが、なんだか、平日の夜のポストカード売りに似ているような、そんな気がした。
お客さんなんて全然来ない。寒い。お客さんなんて来ない。誰も立ち止まるはずがない。寒いなぁ~。
でも、帰らない。薄暗い夜の中、駅前に葉書を乗せた風呂敷を広げて座り続ける。なぜなら、僕は道端の葉書売りだから。
こんな夜にはきっと、飛び切りの出逢いが待っているはずだ・・・そんなことを想いながら、ずっと道端に座っていた。
珈琲売りの兄さんと仲良くなった。
僕は、葉書を売りに行きたくなった。
珈琲売りの兄さんを見ていたら、僕は、僕の葉書を売りに行きたくなったんだよ。
ポツネンと道端に座って、ポツネンと、僕の言葉を売りに出したい。
そうだ・・・あの頃の僕に足りなかったのは、ポツネンとしたココロだったのかもしれない。
ポツネンと座っていたくせに、ココロはちっともポツネンとしていなかった。
珈琲売りの兄さんが淹れてくれたコロンビアを飲みながら、僕はそんなことを想っていた。
ポツネンって・・・ちょっといい感じだと想う。
つづく。
これは果たしてお店なのか?といった具合である。
小さな文字で「コーヒー」と書いてある。
喫茶店ではない。カフェでもない。
築60年ほどの一軒家の一角。二坪ほどのスペース。そこは昔、豆腐屋さんがあった場所だという。
コーヒーと書いてあるからには、頼めばコーヒーが出てくるのであろう。よくはわからないが、きっとコーヒーが出てくるのであろう。
ちなみに、我が家の庭には「はちみつカフェ」と看板を出しているのだが、コーヒーは出てこない。そういう展開も、あり得なくはない。
窓硝子をガラガラと開ける。扉ではなく、窓ガラス。入店する方式ではない。窓越しに注文をする方式である。たぶん。
物静かそうなお兄さんがペコリと頭を下げる。
「珈琲を、ひとつ、頂いてもよろしいですか?」
大きな看板を出すわけでもなく、派手な照明を点けるでもなく、音楽を鳴らすわけでもなく、住宅街にひっそり、ポツネンと佇むコーヒースタンド。
丁寧に淹れられた珈琲、テイクアウト用のプラスティックカップに入った珈琲を、道路側を背にして、店側を前にして、小さなベンチに座って飲む。
視界に入るのは、築60年の建物を一部改装した元豆腐屋の一角だけである。なかなかの風情が漂う、タイムスリップである。
お客さんは・・・そうは来ないように思える。
スターバックスは大賑わいでも、この店は賑わない。だって、ポツネン、としているから。
このポツネンさを楽しむ心のある人がそうはいないということ、それはこの現代社会が抱える大きな問題であると思える。
このスローに流れる空間と時間を、唯一無二だと気づくことができない人々が暮らす世界など、消えてしまえばいいのに、とさえ思える。
と言うのは、僕の側の話であるので、実際の世界とは関係がない。
朝の10時から開店の準備をして、11時に店を開けて、夕方に初めてのお客さんが来たりします。
物静かな店主が言う。
僕は、大宮駅前の路上で、ハガキを売って生計を立てていた事があるという話を、店主に向かってしていた。
なぜだろうか・・・このポツネン珈琲スタンドが、なんだか、平日の夜のポストカード売りに似ているような、そんな気がした。
お客さんなんて全然来ない。寒い。お客さんなんて来ない。誰も立ち止まるはずがない。寒いなぁ~。
でも、帰らない。薄暗い夜の中、駅前に葉書を乗せた風呂敷を広げて座り続ける。なぜなら、僕は道端の葉書売りだから。
こんな夜にはきっと、飛び切りの出逢いが待っているはずだ・・・そんなことを想いながら、ずっと道端に座っていた。
珈琲売りの兄さんと仲良くなった。
僕は、葉書を売りに行きたくなった。
珈琲売りの兄さんを見ていたら、僕は、僕の葉書を売りに行きたくなったんだよ。
ポツネンと道端に座って、ポツネンと、僕の言葉を売りに出したい。
そうだ・・・あの頃の僕に足りなかったのは、ポツネンとしたココロだったのかもしれない。
ポツネンと座っていたくせに、ココロはちっともポツネンとしていなかった。
珈琲売りの兄さんが淹れてくれたコロンビアを飲みながら、僕はそんなことを想っていた。
ポツネンって・・・ちょっといい感じだと想う。
つづく。