76歳男性が全身倦怠感と食欲不振で内科外来を受診した。AST900、総ビリルビン18でプロトロンビン時間が34%に低下していた。新患担当の若い先生から相談を受けた。腹部エコーで胆道系の拡張はなく、閉塞性黄疸ではなくて肝炎(肝細胞障害そのもの)だった。B型C型肝炎は陰性で、急性A型肝炎かと思われたが、この患者さんはもともとアルコール性肝障害があった。
昨年5月に胃潰瘍で消化器科を受診していた。胃体部後壁に潰瘍があって、止血処置を要する病変ではなかったが、Hb8と貧血があった。じわじわと断続的に出血があったことになる。PPIと鉄剤内服の外来で軽快して、ピロリ菌の除菌療法を受けて、尿素呼気テストで陰性になっていた。今年の4月に胃潰瘍の治療は終了となった。
初診時から肝機能障害があり、アルコール性だった。そのころは日本酒2合/日くらいで、禁酒を指示されて一時的にやめたようだが、完全にやめたわけではなかった。初診時のAST・ALTが80前後で、禁酒時は正常範囲になり、経過にフォローで10月に受診した時はまた飲んでいた。(腹部エコーで軽度肝硬変と診断されているが、エコーで軽度の根拠は何だろう)
忘年会には少し早いが1週間前から会合(宴会?)で3-4日続けて大分飲んだそうだ。一昨日39℃の発熱があり、昨日には微熱になって、今日は平熱だった。つまり、もともとアルコール性肝硬変があり、以前ほどではないが、飲酒は継続していた。最近連日大酒をのんで、肝機能が一気に悪化したということになる。高熱を伴い、急性アルコール性肝炎の形だ。外来で診ていた消化器科医が主治医で入院した。ウイルス性肝炎の可能性もあり、A型肝炎のマーカーも提出した(サイトメガロウイルスとEBVの検査も出していた)。
この急性アルコール性肝炎というのは教科書に必ず載っているが、案外見ないものだ。典型的な症例は1例しか診ていない。その方は、夫婦でコーラ会社の寮で働いていた。もともと大酒家だが、奥さんにきつく言われていたので飲酒を我慢していた。奥さんが法事で留守にした晩にこれ幸いと大酒をのんで、発熱・発熱・動悸。倦怠感が出現して、救急搬入された。幸い短期間の入院で症状軽快して、離脱症状もなく退院した。奥さんにはこっぴどく叱られていた。