

● 国谷裕子 「インタビューという仕事」を読んで
『世界』 5月号 須山敦行
また、雑誌『世界』に感服してしまった。
報道の自由を巡る問題が社会をにぎわしている中で、NHKの「クローズアップ現代」の国谷キャスターの降板は注目されている。
その、国谷裕子さんの論文が、この時期に掲載されているのである。
今に生きる『世界』である。
一読して、感動した。
国谷さんについて、強い尊敬の念を持った。
あの凜々しく美しい面立ちは、このような仕事への姿勢、信念を表すものだったのだ。
テレビの仕事をするものは、どうあらねばならないか。
インタビューという仕事は、どうあらねばならないか。
深く、鋭く、強く、語られている。
「クローズアップ現代」は、「クローズアップ現代+」として、複数のキャスターによる10時過ぎの番組として再出発している。この時間帯は、自分にとっては見やすい時間で、期待している。
キャスターの一人、久保田祐佳アナウンサーは、自分の同郷の静岡出身の若いアナウンサーで大いに期待しているが、是非とも、大先輩のこの文章は読んで欲しいと願う。(当然、読んでいないようでは困るが)。全てのテレビに関わる人々に読んで欲しいと思った。
来月の『世界』を読む会で、検討したいと思うが、本文の中から、特に印象に残った部分を引用してみる。
◎ 《 テレビの持つ問題点 ハルバースタムの警告 》
「問題は、テレビが私たちの知性を高め、私たちをより賢くするものなのか、それとも娯楽に適しているという特性ゆえに真実を歪めてしまうものなのか」
人々のコミュニケーション力の重要な要素である想像力を奪ってしまうという負の特性も持っている。
だからこそ、「クローズアップ現代」はテレビの特性とは裏腹の「言葉の持つ力」を大事にした番組にしたいと考えてきた。
◎ 《 知を育むには 是枝裕和 》
「わかりにくいことを、わかりやすくするのではなく、わかりやすいと思われていることの背景に潜むわかりにくさを描くことの先に知は芽生える」
これこそが、「クローズアップ現代」が実践してこようとしてきたことではないかと思った。
◎ 《 インタビューへの風圧 》
波風を立てる、水を差す、そういったことを嫌う、あるいは避ける日本の慣習とでもいったものが、インタビューの受け取られかたにも現れた。
この人に感謝したい、この人の改革を支持したいという感情の共同体とでも言うべきものがあるなかで、インタビューをする場合、
私は、そういう一体感があるからこそ、
あえてネガティブな方向からの質問をすべきと考えている。
◎ 《 「風向きの原則」 井上ひさし 》
風向きがメディアによって広められているうちに、その風が強くなり、誰も逆らえないほどになると、「みんながそう言っている」ということになってしまう。そしてその中で少数派、異質なものの排除が進んでいく。
テレビは
世の中の動向を知りたい視聴者の欲求を満足させ、その影響の大きさのゆえに、
感情やものの見方を均一的にしてしまいがちだ。
そして一方でテレビの送り手側も多くの視聴者を獲得したいがために視聴者の動向に敏感にならざるを得ない。
この視聴者側と送り手側との相互作用はとても強力である。
感情の一体化を進めてしまうテレビ、
そしてそれが進めば進むほど、こんどはその感情に寄り添おうとするテレビ。
こうした流れが生まれやすいことを、メディアにかかわる人間は強く意識しなくてはならないと思う。
社会を硬直させてしまう、固まらせてしまう言葉
「国益を損なう」という言葉
本来ならば、どう具体的に損なうのかと問うべきときに、その問いさえ国益を損なうと言われてしまいそうで、問うこと自体をひるませる力を持っているのだ。
◎ 《 テッド・コペル インタビューの持つ言葉の力 》
イラク戦争の教訓は
「それはどの戦争からも得られる教訓です。どのような軍事計画も、最初の弾丸が放たれるまでの命です。予期していたことと違うことが常に起きます。そしてある行動を起こすと次の行動を起こさざるを得なくなっていくのです。」
※ 素晴らしい戦争の真実であるが、テッド・コペルのインタビューの力を伝える文脈で、この内容を選んだところに、国谷さんの政治性を見る。現代日本の最大の課題、安保を問う内容である。
◎ 《 しつこく聞く 》
キャスターは最初に抱いた疑問を最後まで持ち続け、視聴者の思いを掬い取り、納得がいくように伝えるということが大事だ。
※ 相手が逃げても、そらしても、くじけずに「しつこく聞く」。
◎ 《 問い続けていくこと サム・ドナルドソン 》
どんな場でも、相手がどんな人であっても聞くべきことをきちんと問うというインタビューの基本を教えてもらったと思った。
社会が複雑化し、何が起きているのか見えにくくなるなか、
人々の情報へのリテラシーを高めるためにも、
権力を持ち、多くの人々に影響を及ぼすような決断をする人物を多角的にチェックする必要性はむしろ高まっている。
言葉による伝達ではなく、言葉による問いかけ。
これが私にとって、キャスターとは何をする仕事なのかという問いに対する答えかもしれない。