色川武大著、文藝春秋刊
「怪しい来客簿」を読んで衝撃を受けて以来の、色川さんの著作です。本作は、1985年から翌年に掛けて「別冊文藝春秋」に連載された時代小説です。
江戸時代の末期に、庄屋の妾の子として生まれた百太郎は、母親が亡くなり、庄屋からも疎まれ、「豚のような生活」をしている。ある時、大雨で堤防が決壊し、何とか生き延びた百太郎は、流されていく途中で庄屋の家と思しきわら屋根が洪水の波間に見え、必死に辿り着いてみると、勘当された庄屋の息子、豊吉に出会った。直後に、豊吉の許嫁であったお絹とその相手の芳松も流れ着いた。更に、流れ着いた者が居たが、助け上げてみると江戸の侍のようだ。成り行きで、この侍を殺してしまった。さあ、どうするのか。
本作は、ここまでに登場する、百太郎、豊吉、お絹が江戸に出て、それぞれに何とか生きていく道筋を描いている。主人公の百太郎は、天涯孤独な身であり、成り行き上、いつ殺されてもおかしくないので、何とか生き延び、しっかりした足場を作ろうとしながらも、その時々成り行きに流されてしまう。豊吉は、自己中心的な性格故に奔放な生き方を選び、お絹は成り行きに身を任せて生きて行く。三者三様ながら、その人生は何度も交わり、互いに影響を及ぼし合う。
絵空事と思いながらも、先の展開が全く読めないシュミレーションゲームを見ているようだ。現実の人生の選択がそうであるように、直面する事態に、いとも簡単に影響され根無し草のように生きてゆく。その一方で、本当に求めている生き方との乖離に悩む主人公。そうした面が実にリアルだ。
本作品は、前編で後編があるはずであったが、色川さんの死去で完成しなかったそうだ。残念だ。
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○色川武大
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評価は4です。
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〇カメラまかせ 成り行きまかせ 〇カメラまかせ 成り行きまかせその2
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