読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

原発と日本の未来:岩波ブックレットNo.802

2012年04月01日 17時09分13秒 | ■読む
吉岡斉(ひとし)著
科学史と科学社会学を専門分野とする大学教授で,総理府原子力委員会員や総合資源エネルギー調査会基本計画部会委員を歴任されているようです。そうした経歴であると,本書が原子力発電を肯定的に論じているかなと思うとそうではありません。非常に理詰めに冷静に論じており,日本の原子力行政の根源にまで踏み込んで,分かり易く解説しています。
本書の出版は2011.2.8で,昨年の3.11の直前でした。原子力発電所の安全神話を完全に打ち砕いた災害は,原子力の平和利用が非常に大きなリスクを含むことを白日の下にさらしました。
本来絶対安全であるということはありえないので,リスクの客観的な評価が欠かせません。現代にあってはマスコミの表面的な取材と報道によって,リスク管理のようなデリケートな問題を,冷静に判断することは非常に困難であるため,「安全」であると強弁せざるを得ないのかもしれません。
さて,この度の震災で最も不思議であったのは,国策として進めてきた原子力発電事業の在り方の責任の所在が明らかにされていないことです。第一義的に東京電力が責任を果たすことは当然として,国策として推進する国の立ち位置が不明確なことでした。この疑問に答える記述が本書にあります。それは,日本が原子力の平和利用を通じていつでも核兵器への転換を図れることが,日本の国益に適う,という公理が存在し,そこから,原子力の平和利用,すなわち原子力発電が必須のパーツになるのだそうです。
そうであれば,トータルコストを無視した原子力発電の推進や,現実を無視した,あるいは糊塗した詭弁の展開も無べなるむべなるかな,です。
ネットの一部で,著者を御用学者としているようですが,本書を見る限り,そうではなく,冷静かつ客観的な立場の方の様です。
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URL => http://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K000517/index.html
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評価は4です。

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