読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

魔物

2009年09月01日 19時13分12秒 | ■読む
大沢在昌著、角川書店刊
平成19年11月初版の作品です。上下2巻のハードカバーでしたが、2日で読了。本作は、キリスト教がらみの魔物が登場します。しかし、謎解きのために使うのではありません。聖画に閉じ込められた魔物が人間に取り憑いて、その人間の憎悪を強め殺人を犯す。一方の主人公は、10代の忌まわしい記憶から逃げられなく、十字架を背負って生きている。この2つの存在の軌跡を鮮やかに描いています。
大沢さんの作品は心に深く刻まれる類のものではありませんが、登場人物の生き様が、一つのイメージとして残るようです。また、作品中に読者に伝えたいキーワードが何カ所かに埋め込まれています。本作では、主人公と深く心を通わせる人物との間の会話に登場します。今回も、何カ所か感じ入る箇所がありました。恐らく、手練れの作者にとって、ストーリーの展開よりも、こうした生きる上での真実を読者に伝えることに関心があるのではないかと思います。特に本作は、魔物を取り上げていながら、人間の心の闇が真のテーマになっています。魔物が、実は私達誰もの心の中にあり得ることを示しています。
確かに、長く生きていると、邪悪な心の持ち主に何度も会う体験をしますが、そのほとんどは、自己や組織の保身や利益の為に、色々と理屈を付けて行っていることです。多くの場合、そうすること、そう出来ることが、自らの優秀さを、あるいは有能さを示す証であると勘違いしてしまうようです。恐らく、大企業や官公庁の不始末はそうした体質から生まれてくるのではないないかと思います。
人が生きる上で何を大切にするか、ということはその人の生き方そのものであると感じました。
評価は4です。

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