読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

希望の国のエクソダス

2011年07月06日 19時13分56秒 | ■読む
村上龍著、文春文庫刊
バブル崩壊によって日本経済が悪化し、適切な政策が取られないまま、いわゆる「失われた10年」が過ぎてしまった。その失敗の原因は、戦後の日本が目覚ましい急成長を遂げた成功要因に囚われてしまい、世界の経済システムの変化に追従出来なかった、日本の社会の仕組みを変えられなかったことに起因すると思います。その後の小泉政権が取り組んだ改革は、世界で生き残るために日本の社会経済システムを変える試みであったと思います。どのような改革も功罪はあるので、後日批判する際には、バブル期からその崩壊と、その後の日本の政治や世論の(マスコミの論調)など、全体を振り返って評価する必要があると思います。
本書は、1998年から2000年にかけて雑誌に連載されたもので、村上さんが、例によって膨大な取材と労力の下に、近未来の日本を描いた作品です。村上さんの作品は、現実世界の歴史や社会・経済システムを研究し、あり得る世界を舞台として用意し、その舞台上で思考実験をしているように思います。
本作は、失政を重ねる日本の政治や、将来の夢を語れない大人達によって生み出された、閉塞感に満ちた日本の状況に耐えられなくなった中学生達が、一斉に登校拒否をして、そこから、少しずつ、そして確実に現実世界とずれて行く(まるで)パラレルワールドを描いています。緻密さやリアルさに課題があるものの、思考実験を通して、現実の問題を抉り出す手法としてみれば、見事な仕上がりです。SFの手法に比べると、現実の世界に立脚している前提あるため、作品展開に制約があります。丁度、立花隆さんが複雑怪奇な世界を、独自の視点によって一刀両断に描くのと似通った感があります。村上ワールドの代表作と評価されているのが納得出来ました。
評価は4です。

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