読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

小さいおうち

2012年09月19日 19時38分15秒 | ■読む
中島京子著、文藝春秋刊
著者は1964年(昭和39年)生まれです。恐らく、著者が物心ついた時点で高度経済成長期に突入しており、戦前とは断絶した文化が急速に日本に普及しつつあり、戦前の日本の世俗風俗は大分失われていたはずです。本書は、その戦前の中流階級の家庭で女中として働いていいた女性が回想する形で物語が進んで行きます。
女性特有の隅々まで神経の行き届いた観察が、一人の女性の視点を通して活写されています。このように女性の心のひだを描くことは、男性には到底不可能であろうと思います。また、主人公の女性の生い立ちと性質や生き方が見事に造形されていますが、そのことが本書の成功を支えていると思います。何しろ、最終章を除き一人称の文体ですから、主人公の語り口が非常に重要です。
かねて知人から、戦前の日本は、今日の日本と別種の豊かさがあったと聞いていました。主人公の甥が、戦後教育の故に、戦前の日本を否定する場面など、私の思い当たることがあり冷や汗をかきました。
本書は、女中としての主人公が、ある”小さないえ”で過ごしたゴールデンエイジを振り返って物語ることにより、ささやかで陰影に富んだ心の動きを描き、その小さなさざ波が、味わい深く一途な思いを浮かび上がらせています。起伏が乏しいながら、終盤で劇的な展開が待ち受けています。読後感が良い秀作でした。
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URL => http://ja.wikipedia.org/wiki/中島京子_(作家)
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評価は4です。

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