読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

東京輪舞

2022年12月10日 11時12分41秒 | ■読む

月村了衛著、小学館刊
22歳で警官になり、たまたま田中角栄さんの自宅の警護を担当した男が主人公。
酔漢が思いついて田中邸に乱入しようとするのを阻止する為格闘し排除したが、足を骨折する怪我を負い入院した。
翌日、田中氏本人が見舞いに立ち寄り、主人公はひどく恐縮すると共に、大いに感銘を受ける。

その後、自分には不向きとも思える公安に配属され、公安の職員らしからぬ言動で本人も周囲も戸惑うが次第に慣れて行く。
そして、主人公はロッキード事件、東芝のCOCOM違反、オウムのテロ、警察庁長官狙撃事件、金正男の不正入国などに関わっていく。

公安警察官に求められる「盲従」に馴染めず、常に違和感を覚える主人公は、それらの事件に絡むソ連の女性諜報員と何度も出会う。
この女性が、主人公の経歴に陰に日向に影響を与えつつ、事件の真相の一端を垣間見せる。

主流派とは相容れない主人公と、似た傾向を持つ同僚。その真逆の公安警察官の典型であるキャリアと妻などが交錯しつつ物語が進展する。
「正しいこと」ではなく、「組織の論理」を優先する、謂わば「組織人」になりきれない主人公達は、公安の世界では異物として警戒され排除されて行く。
そして・・・。

実際に起こった事件の真相と思しき内容を織り交ぜて巨大な虚構の世界を築き上げ、信念を貫くことの困難さと組織の論理のくだらなさを鮮やかに示す著者の力量に感服しました。
終盤で、幾分、類型的な描写が見られるものの、著者の提示する問題意識は、今日の日本の政治や官界の現状の一端に光を当てているものと思います。
主人公の諦念と悲しみが、心に迫りました。
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月村了衛
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評価は5です。

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カメラまかせ 成り行きまかせ  〇カメラまかせ 成り行きまかせその2


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