「ところで、お前は本気でテレパシーを開発したいのか」と狐が聞くから、ハイと答えると、狐はがっかりしたような顔をして、
「メッセージを受けたり、伝えるだけなら、俺たちがどこにいても繋がるからいいんだけど、新しい能力を開発しようとすると、そばにいなきゃならないしな。美登里がやってくれればいいんだけど、どこへ行ったか梨のつぶてだし。
これが他の時期ならいいんだけど、今の時期はタイミングが悪すぎるよ」と雌狐の盛大に張り出した腹を見ながらいう。
「どこかに産婆代わりに使える雌狐がいないのかな」って聞くと、狸はこの辺にもいるけど、狐は少ないよなとのこと。
美登里も、変に人間に感化されたもんだとふて腐っている。
少なくともしばらく前まで恋人だった人のことを狐風情に文句を言われる筋合いはないとちょっとむっとした顔をすると、
「いや気を悪くしないでくれ」って慌てて、答える。
「河童は、雑婚だというのは聞いたことがあるだろう。河童にとってセックスはスポーツや遊びと同列みたいなものなんだ。
だから彼ら、彼女らは心変わりをして他の相手に走っても、何の罪悪感を持たないんだな。だれもがやっていることだからってね。
そのときに好きな相手なら誰でもいいじゃない。それで熱が冷めればまた次を見つければいいのだから。どうせならなるべくたくさんの相手と知り合って、それが自分の一生の財産だし、それで最高の相手にめぐり合えばいいって感じだな。
美登里がお前に連絡を取らなくなって、お前から見えないように一生懸命自分を隠しているのは、人間の倫理観を美登里が理解したからだと思うよ。お前との生活で人間の友達も増えただろうし、でもそんな相手には本当の話はできないじゃない。当たり障りのない話をしているから、友達が何を言っても、それが的外れなのは彼女にもわかっているだろうし、人間にアドバイスを頼めないんだな。
他の友達は、おそらく何故美登里が家出しちゃったか理解できないと思うよ。
自分が何者で、何をやったのか判っているのは美登里一人だからね」
「でも、おかしいじゃない。河童が恋とか愛情とかを信じないんだったら、美登里さんだって、自分が何か悪いことをしたとは思わないでしょう」
「それが人間の社会にでて、人間の倫理観みたいなものに感化されたんだろう。自分を愛してくれている人の信頼を裏切ることがどれだけ人間としては蔑まされていることかを理解したんじゃないかな。でも河童の習性で行動してしまう。
だから口では何を言っても実際は、表に顔を出せないってことじゃないかと思うよ。
お前をこれ以上傷つけたくないためにお前から隠れているということはないと思うけど、自分自身への罪悪感なんてものかもしれないよ。
もっとも気が付いていればの話だけどな。
俺たち狐は人間に近いからお前の気持ちのほうがわかるけど。
可哀想といえば可哀想だよな。それまでの自分たちとしてはなんでもないことがある日、自分で許せなくなってしまったのだから。
これが美登里の仲間同士なら、「あぁ、あれ、もう嫌いになって」ってけらけら笑って終りなだけだもんな」
「それって変じゃない。それでそれほど好きでもない相手との間に子供でも出来たらどうするのよ。恋とか愛っていうのはそんなに薄っぺらいものじゃないはずよ」と雌狐が不満そうに聞く。
「お前は河童に知り合いがいないから、知らいだろうけど、河童は雌の方が受胎をコントロールできるんだ。だから普通は受胎しないようにしているのさ。それにコントロールしなくても、受胎する可能性はほとんどないしな。
河童にはそれで自分たちの生き様が自由なんだって、いかにも進歩したような、フリーセックスが出来るということで他の動物とは違うという優越感さえもつんだ」
「河童の雌が受胎をコントロールできるとはしらなかった。美登里がいろいろ過去の関係を話してくれたけど、本当に好きな相手となら寝て何が悪いって言っていたものな。
でもこの十年だけでみても、凄い数の相手と経験していたようだし、本当に好きな相手という、その本当が、私からいえばちょっとしたことで大好きになってしまうような、うすっぺらい感情みたいにしか見えなかったのは確かだね。
単に淫乱な性格を、好きになったから寝て何がわるいって自分に言い聞かせているだけじゃないかって思って聞いていたこともあったな。
でももういなくなった美登里を援護するわけじゃないけど、人間の女でも、避妊がコントロールできるようになったらいきなり、セックスが遊び感覚になってきているものな。
男たちも責任を取らなくてもよくなったし、女がより簡単に男を受け入れられるようになって、むしろ男のほうが喜んでいるかもね。
でも自分の恋人に対して今の男だって、ちょっと違う考えをするだろうな。遊びの相手と、真剣に付き合う相手。それを分けて考えるようになっているのだろうけど。」自分の周りの女性たちの行動を思い出しながら、ちょっと酸っぱい意見も口をつく。
「ただ、人間の場合には避妊が出来るようになってきたのはそれほど前じゃないから、社会の倫理がまだ追いついていないところがあるんだ。
まだ過渡期かもしれない。
完全にフリーセックスになれば、女は子供に特別な相手との間の宝物というような感情も持たなくなるかもしれない。
国が子供を引き取って育てる仕組みを作るのをよしとするかもしれない。
それこそ期待される人間像によるプログラムでね。
よく遠洋に出るヨットがクリューに女性を求めるよね。クリューとしての役割は7割こなせれば後、別な用途があるから。だから契約も高いし、避妊をすることが条件だったりして。まあ、生物だったら子孫を残すことが気持ちの奥底にプログラムされているから仕方ないんだろうけどね。これだって避妊が確実になってきてるからできるんだよね。互いに割り切ることね。
でも、まだ一部の女性は子供には特別な感情を持っているし、その父親は自分が選んだ特別な人であって欲しいと思っている。
社会もそれを望ましい関係としている。
だから女たちは、自分たちの普段の行動はどうあれ、本当に好きな相手としか寝ないしというような、昔風の倫理観で自分の心にも言い訳をしている。
そのくせ、どうかすると好きじゃない相手にも「チャンスをくれし、私のためにいろいろやってくれていうからって、求められれば断れない」なんて思って寝たりもする。本当はそうでも、決して自分ではそれを認めようとはしないけどね。
酷い例では、そのチャンスをくれる相手と一年暮らすから、待っていて欲しいと恋人にお願いしているケースもあったよな。そのときは流石に、そんなの人間 じゃないから蹴飛ばしてしまえって言ったけど、男は泣いていた。つくづく男も弱くなってしまったんだか、それとも本気で惚れた弱みかね」
「人間の社会ってわからないわ」って雌狐がつぶやいた。
「自由になることで、なにか本当に大切なものをなくしたみたいね」
「うん、それは若い連中の行動を見ていて、そう感じることが多いけど、でもそれが時代から取り残されてきた年寄りの考えなのかどうなのかわからない。それを言うと世代が違うって鼻の先で笑われるからね。
それにこれからの社会や規範を作るのは若い連中だから、年寄りが何を言っても始まらないと思われてるんだよ」
「自分で言っているほど枯れていないのを知っているくせに」
何か、小さな雌狐に諭されているようで、変な気がしてならなかった。
夏の日はじりじりと草原に照りつけ、木陰にいる私たちにも熱波がまとわりつく。
「まあ、今日は自己紹介程度で、訓練はぼちぼちやろう。相方もこんなに暑いと疲れるから」愛妻家の若狐の言葉で今日は解散。
家に帰って、お気に入りの椅子で今日の言葉を反芻しよう。
「メッセージを受けたり、伝えるだけなら、俺たちがどこにいても繋がるからいいんだけど、新しい能力を開発しようとすると、そばにいなきゃならないしな。美登里がやってくれればいいんだけど、どこへ行ったか梨のつぶてだし。
これが他の時期ならいいんだけど、今の時期はタイミングが悪すぎるよ」と雌狐の盛大に張り出した腹を見ながらいう。
「どこかに産婆代わりに使える雌狐がいないのかな」って聞くと、狸はこの辺にもいるけど、狐は少ないよなとのこと。
美登里も、変に人間に感化されたもんだとふて腐っている。
少なくともしばらく前まで恋人だった人のことを狐風情に文句を言われる筋合いはないとちょっとむっとした顔をすると、
「いや気を悪くしないでくれ」って慌てて、答える。
「河童は、雑婚だというのは聞いたことがあるだろう。河童にとってセックスはスポーツや遊びと同列みたいなものなんだ。
だから彼ら、彼女らは心変わりをして他の相手に走っても、何の罪悪感を持たないんだな。だれもがやっていることだからってね。
そのときに好きな相手なら誰でもいいじゃない。それで熱が冷めればまた次を見つければいいのだから。どうせならなるべくたくさんの相手と知り合って、それが自分の一生の財産だし、それで最高の相手にめぐり合えばいいって感じだな。
美登里がお前に連絡を取らなくなって、お前から見えないように一生懸命自分を隠しているのは、人間の倫理観を美登里が理解したからだと思うよ。お前との生活で人間の友達も増えただろうし、でもそんな相手には本当の話はできないじゃない。当たり障りのない話をしているから、友達が何を言っても、それが的外れなのは彼女にもわかっているだろうし、人間にアドバイスを頼めないんだな。
他の友達は、おそらく何故美登里が家出しちゃったか理解できないと思うよ。
自分が何者で、何をやったのか判っているのは美登里一人だからね」
「でも、おかしいじゃない。河童が恋とか愛情とかを信じないんだったら、美登里さんだって、自分が何か悪いことをしたとは思わないでしょう」
「それが人間の社会にでて、人間の倫理観みたいなものに感化されたんだろう。自分を愛してくれている人の信頼を裏切ることがどれだけ人間としては蔑まされていることかを理解したんじゃないかな。でも河童の習性で行動してしまう。
だから口では何を言っても実際は、表に顔を出せないってことじゃないかと思うよ。
お前をこれ以上傷つけたくないためにお前から隠れているということはないと思うけど、自分自身への罪悪感なんてものかもしれないよ。
もっとも気が付いていればの話だけどな。
俺たち狐は人間に近いからお前の気持ちのほうがわかるけど。
可哀想といえば可哀想だよな。それまでの自分たちとしてはなんでもないことがある日、自分で許せなくなってしまったのだから。
これが美登里の仲間同士なら、「あぁ、あれ、もう嫌いになって」ってけらけら笑って終りなだけだもんな」
「それって変じゃない。それでそれほど好きでもない相手との間に子供でも出来たらどうするのよ。恋とか愛っていうのはそんなに薄っぺらいものじゃないはずよ」と雌狐が不満そうに聞く。
「お前は河童に知り合いがいないから、知らいだろうけど、河童は雌の方が受胎をコントロールできるんだ。だから普通は受胎しないようにしているのさ。それにコントロールしなくても、受胎する可能性はほとんどないしな。
河童にはそれで自分たちの生き様が自由なんだって、いかにも進歩したような、フリーセックスが出来るということで他の動物とは違うという優越感さえもつんだ」
「河童の雌が受胎をコントロールできるとはしらなかった。美登里がいろいろ過去の関係を話してくれたけど、本当に好きな相手となら寝て何が悪いって言っていたものな。
でもこの十年だけでみても、凄い数の相手と経験していたようだし、本当に好きな相手という、その本当が、私からいえばちょっとしたことで大好きになってしまうような、うすっぺらい感情みたいにしか見えなかったのは確かだね。
単に淫乱な性格を、好きになったから寝て何がわるいって自分に言い聞かせているだけじゃないかって思って聞いていたこともあったな。
でももういなくなった美登里を援護するわけじゃないけど、人間の女でも、避妊がコントロールできるようになったらいきなり、セックスが遊び感覚になってきているものな。
男たちも責任を取らなくてもよくなったし、女がより簡単に男を受け入れられるようになって、むしろ男のほうが喜んでいるかもね。
でも自分の恋人に対して今の男だって、ちょっと違う考えをするだろうな。遊びの相手と、真剣に付き合う相手。それを分けて考えるようになっているのだろうけど。」自分の周りの女性たちの行動を思い出しながら、ちょっと酸っぱい意見も口をつく。
「ただ、人間の場合には避妊が出来るようになってきたのはそれほど前じゃないから、社会の倫理がまだ追いついていないところがあるんだ。
まだ過渡期かもしれない。
完全にフリーセックスになれば、女は子供に特別な相手との間の宝物というような感情も持たなくなるかもしれない。
国が子供を引き取って育てる仕組みを作るのをよしとするかもしれない。
それこそ期待される人間像によるプログラムでね。
よく遠洋に出るヨットがクリューに女性を求めるよね。クリューとしての役割は7割こなせれば後、別な用途があるから。だから契約も高いし、避妊をすることが条件だったりして。まあ、生物だったら子孫を残すことが気持ちの奥底にプログラムされているから仕方ないんだろうけどね。これだって避妊が確実になってきてるからできるんだよね。互いに割り切ることね。
でも、まだ一部の女性は子供には特別な感情を持っているし、その父親は自分が選んだ特別な人であって欲しいと思っている。
社会もそれを望ましい関係としている。
だから女たちは、自分たちの普段の行動はどうあれ、本当に好きな相手としか寝ないしというような、昔風の倫理観で自分の心にも言い訳をしている。
そのくせ、どうかすると好きじゃない相手にも「チャンスをくれし、私のためにいろいろやってくれていうからって、求められれば断れない」なんて思って寝たりもする。本当はそうでも、決して自分ではそれを認めようとはしないけどね。
酷い例では、そのチャンスをくれる相手と一年暮らすから、待っていて欲しいと恋人にお願いしているケースもあったよな。そのときは流石に、そんなの人間 じゃないから蹴飛ばしてしまえって言ったけど、男は泣いていた。つくづく男も弱くなってしまったんだか、それとも本気で惚れた弱みかね」
「人間の社会ってわからないわ」って雌狐がつぶやいた。
「自由になることで、なにか本当に大切なものをなくしたみたいね」
「うん、それは若い連中の行動を見ていて、そう感じることが多いけど、でもそれが時代から取り残されてきた年寄りの考えなのかどうなのかわからない。それを言うと世代が違うって鼻の先で笑われるからね。
それにこれからの社会や規範を作るのは若い連中だから、年寄りが何を言っても始まらないと思われてるんだよ」
「自分で言っているほど枯れていないのを知っているくせに」
何か、小さな雌狐に諭されているようで、変な気がしてならなかった。
夏の日はじりじりと草原に照りつけ、木陰にいる私たちにも熱波がまとわりつく。
「まあ、今日は自己紹介程度で、訓練はぼちぼちやろう。相方もこんなに暑いと疲れるから」愛妻家の若狐の言葉で今日は解散。
家に帰って、お気に入りの椅子で今日の言葉を反芻しよう。
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