民主主義といういささか厄介な手続きをベターな政治手段と信じるなら、選挙で下した選挙民の判断は民意と捉えるべきだろう。
選挙直後の新聞論説は、民意を尊重した意見を述べるのが常道だ。
だが、沖縄地元紙は支援する候補者が大敗したのがよっぽど腹に据えかねたのか民意に疑問を投げかける。
≪仲井真氏は「条件次第で基地容認」を訴えてきたが、基地についてはむしろ「新基地は造らせない」という糸数氏の主張が一定の支持を集めたのは確かで、仲井真氏の基地政策がそのまま容認されたと見てはなるまい。≫(沖縄タイムス)
なるほど、有権者には投票と言う唯一の手段で民意を表したはずなのに、自らが民意だと驕るメディアにとっては糸数氏の主張が民意なのか。
更には十年前の「市民投票」や「県民投票」を自在に操って民意を作り上げる。
≪一九九七年十二月の海上ヘリ基地建設の是非を問う市民投票で、名護市民の52・8%が反対の意思を示した。
九六年の県民投票でも89・09%が「米軍基地の整理・縮小」などに賛成したことを考えれば、・・・★へ続く≫
うーん、この文章の結語に糸数氏の主張をくっ付けてタイムスの民意とする仕掛け? 一寸やりすぎだよ。
≪・・・★「普天間」移設は県外か国外にというのが県民総意であり、これが原点だということを忘れてはなるまい。≫
お見事! 決まったネ。
県民総意と来たか。
沖縄タイムスの荒れように比べて琉球新報は意外と冷静だが、タイトルはやはり民意?
題して「新知事に仲井真氏・民意踏まえ難題に道筋を」
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◆沖縄タイムス 社説(2006年11月20日朝刊)
[仲井真氏当選]
経済活性化に具体策を
雇用問題への活路は
新人同士で争われた県知事選挙は、仲井真弘多氏(自民、公明推薦)が前参院議員・糸数慶子氏(社民、社大、共産、民主、自由連合、国民新党、新党日本推薦、そうぞう支持)、屋良朝助氏(諸派)を破り初当選した。
今選挙は前回分裂した野党が統一し、与野党がっぷり四つの選挙戦を展開した。だが、先行する仲井真氏に対し、激しく追いかけたものの糸数氏は立候補表明の遅れを挽回できなかった。
県民は向こう四年間の県政を副知事も経験した仲井真氏に託した。
仲井真氏は経済振興を最重要課題に掲げ、「国内外から企業を誘致し雇用促進を図る」「中小企業を大事にし、経済活性化を図る」と訴え続けた。
県経済は、好調な観光と個人消費の改善などで明るい兆しが見えている。
しかし、失業率は7・8%で全国の約二倍もある。談合問題で厳しい環境にある土木・建設業界の状況を考えれば、産業構造の改善を含む抜本的対策が求められているのは間違いない。
有権者が仲井真氏を選んだのは、経済問題を最優先させ振興策をきちんと打ち出すことを求めたといえよう。
「経済、産業の自立なくして沖縄の自立はない」というのは、敗れた糸数氏にも共通した考えである。公約に盛り込んだ経済振興策をどう具体化していくか。そのロードマップ(行程表)をどう構築するのか。
求められているのは公約の実現可能性であり、具体的な青写真だということを認識すべきだろう。
多くの自治体は、国と地方の税財政を見直す三位一体改革、地方交付税と補助金削減で財政が疲弊している。
自治体の中心地である商店街の多くはシャッターが下りたままで、地域経済の閉塞感は一層募っている。
仲井真氏に支持が集まったのは、この問題に解決策を見いだすのではないかという期待感といっていい。
とはいえ、高い失業率がそう簡単に改善されるとは思えない。
であれば「入域客一千万人」の観光を軸にした経済政策をどう明確に打ち出していくか。製造業の活性化策もしっかりと連動させることが新知事の役目となろう。
「県内移設」にどう対応
もう一つの争点、米軍基地について仲井真氏は「普天間飛行場の移設は地元住民の声をよく聞いて、早い時期に解決を図りたい」と述べている。
基地問題が不退転の課題であるのは論をまたない。が、事前調査では関心度が「経済の活性化」52%に対し、「基地問題」は26%だった。
有権者の中に、県民意思を無視しても、政府は「普天間」代替施設を強権的に建設するという諦めにも似た受け止め方があったのかもしれない。
嘉手納基地以南の施設返還も代替施設の進捗次第、北部振興策もリンク―という日米両政府の狡猾さに地域が取り込まれたと言うこともできよう。
仲井真氏は「条件次第で基地容認」を訴えてきたが、基地についてはむしろ「新基地は造らせない」という糸数氏の主張が一定の支持を集めたのは確かで、仲井真氏の基地政策がそのまま容認されたと見てはなるまい。
同時にこれからの基地問題への対応について、有権者一人一人が大きな責任を持つべき時期にきていることを肝に銘ずる必要があろう。
県民総意の再認識必要
仲井真氏は普天間飛行場のキャンプ・シュワブ沿岸部移設について「V字形滑走路案に反対」し、稲嶺恵一知事が提示した暫定ヘリポート案を支持している。その後は「地元の声を聞きながら解決を図る」と述べたが、「地元の声」とは一体何なのか。
一九九七年十二月の海上ヘリ基地建設の是非を問う市民投票で、名護市民の52・8%が反対の意思を示した。
九六年の県民投票でも89・09%が「米軍基地の整理・縮小」などに賛成したことを考えれば、「普天間」移設は県外か国外にというのが県民総意であり、これが原点だということを忘れてはなるまい。
「基地の受け入れか振興策断念か」という二者択一をちらつかせる政府に不信感を抱く県民は多い。仲井真氏は県民の負託を背に日米両政府に言うべきことは言い、課題が山積する「沖縄丸」の舵を取ってもらいたい。
◆琉球新報 社説
新知事に仲井真氏・民意踏まえ難題に道筋を
沖縄の本土復帰後、第6代となる県知事は仲井真弘多氏に決まった。前県商工会議所連合会会長で県経済界のエースとされた仲井真氏は、今知事選で自民、公明両党の推薦を受け、34万7000票余を獲得。前参院議員で野党8党が推薦・支持した糸数慶子氏、会社代表で琉球独立党の屋良朝助氏の2人を破った。
県民は、向こう4年間の県政のかじ取りを引き続き与党の経済界出身者に託すことになった。新たな米軍基地建設反対を前面に出して政府と真っ向から対立するよりも、政府との「太いパイプ」を活用して自立経済の確立を目指す柔軟路線を選択した形だ。
◆柔軟路線を選択◆
沖縄は復帰後も、日米安全保障体制の下で東アジアなどをにらむ軍事拠点とされ、過重な基地負担を強いられてきた。広大で精強な部隊が駐留する軍事基地の重圧は県民生活の向上を阻み、いびつな地域空間や都市空間を形成し、思うように自立経済を構築できない状況を余儀なくされている。
仲井真氏には、日米政府に県民が翻弄(ほんろう)され続ける構図に終止符を打ってもらいたい。外交・防衛は政府の専権事項だといっても、県民の頭越しに姑息(こそく)な沖縄対策を画策すれば反発を強め、解決が遅れるだけである。それは普天間飛行場の移設問題を見ても明らかであろう。
政府との太いパイプは、県民の意思を十分に伝え、難題の解決につながる抜本策を引き出す形で生かすべきだ。パイプの使い方を誤れば、脅しともとれる基地と振興策のリンク論を再浮上させることになる。パイプの流れは、やがて政府からの“一方通行”になり、ごり押しが強まってくる可能性も否定できない。
今回の知事選は、米軍再編や安倍首相の政権運営にも影響するとして全国的な注目を浴びた。選挙結果を受け、政府内に安堵(あんど)の声が広がったことからもうかがえる。だが政府が、選挙結果を「米軍再編へのゴーサイン」と受け止めたとしたら、県民の真意を見誤ることになる。
県民が選択した柔軟路線はあくまで政府との対話促進を強く望んだものであり、振興策と引き換えに基地の重圧を我慢してもよい―ということではないはずだ。県民の声に耳を傾ける努力を、政府は怠ってはならない。
仲井真氏は通産官僚時代、発足した革新系の大田県政に請われて副知事に就任し、政府折衝などに当たった経緯がある。退任後は県内大手企業副社長に転出してトップに上り詰め、経済団体代表などの要職を務めた実力者だ。
この間の行政手腕、経営手腕を政治家としてどう生かし、開花させるか注視したい。
◆主体性の発揮を◆
知事選で仲井真氏は、沖縄を発展させるには「自ら考え実行し、責任を負うという強固な気概が不可欠」と訴えた。具体的にはすべての産業を支援し、十分な雇用の場を確保して「経済力」を確立することや、医療や福祉をより充実させ、困っている人や子ども、高齢者が安心して暮らせる「安心・安全力」を高めることなどを挙げている。
産業振興への思い入れは人一倍だし、医療・福祉面も「健康福祉立県」を掲げるなど意欲的だ。失業率を全国並みに下げることや、長寿世界一の復活など公約実現を期待したい。
普天間移設問題では「あらゆる方法を検討」「V字形案のままでは賛成できない」と柔軟な対応をにじませているが、「頭越しに日米が協議し合意したことは納得できず、政府に抗議し適切な対応を求める」「県外移設がベスト」とも言っている。
普天間飛行場の「国外移転」を訴えた糸数氏が30万票を集めたことも軽視できまい。
ただ、政府はしたたかだ。仲井真氏当選を受け、米軍再編に関係する自治体に交付金を拡充する米軍再編推進法案を来年の通常国会に提出する方針だが、県からの移設同意取り付けが難航した場合、移設予定海域を埋め立てる際に必要な公有水面の使用権限を知事から国に移す特別措置法の提出という強攻策に出る可能性もある。
県が主体性を失わず、基地問題や経済振興などの難題解決に敢然と取り組めば道は開けよう。仲井真カラーを出しながら、新時代を切り開く気概で県政の難題に立ち向かってほしい。リーダーシップが一段と求められている。
(11/20 9:47)