映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

優しく、でも冷淡に 万引き家族が居る日本

2018-06-03 04:36:12 | 新作映画



パルムドールをとることがこんなに興行面でのプラスになるんだと、まざまざ感じ入る先行ロードショーに出掛けました。受賞が無ければひっそりと公開されてそこそこ評判になるだろうけど、それはわたくしみたいな是枝好きか映画通だけの閉じられた人達の中だけで消化される作品で終わってしまったかもしれません。
過去作と比べても、際立って優れているわけじゃありませんせし、「そして父になる」や「海街diary 」の様な華やかな役者が出ているわけでもありません。だけど権威に弱い日本人にとって、世界的な評価を下された是枝最新作は取り敢えず映画館に足を運ぶ良いきっかけとなりました。

前述したように、今までの是枝作品のベストではありませんね。
黒澤や今村作品のベスト作品が受賞してたわけではないので、カンヌで与えられる一等賞はそれまでの積み重ねたご褒美的なものが多分に含まれているのでしょう。ベストではないけど、監督がずっと撮り続けていた家族(血縁の有無は関係無く)の物語を選んでもらえたのは嬉しい限りです。「誰も知らない」「歩いても歩いても」の延長上にこの栄冠はあるのだと思うと、ずっと是枝作品を観てきて良かったな。

さてさて、わたくし達のまわりにあんな家族はいませんか?
万引きで生計をたてている程の極端な事はないにせよ、日雇に行くことをどうにかしてサボりたいお父さん(わたくしも毎朝会社に行かなくて良い夢想を繰り返してます)。狭い家なのに意味もなく雑然とした雰囲気はお母さんの性格そのままでしょうか。テレビのホームドラマに出てくる家庭は大体スッキリ片付いていますから勘違いしてしまいますけど、人が生活すること特に年代性別様々な6人が生きていればあんな風になっていくのが必然なのかも知れません。人の良さそうなおばあちゃんだって、狡猾に生きて行く術を会得してますし、マジックミラー越しなら自分の身体を商品にすることは売春でも風俗嬢でもないんでしょう。

再三になりますが、2人の子供が抜群でした。
特にお兄ちゃんの淡々とした哀しみは柳楽優弥の眼差しを思い起こさせ、大人である自分が恥ずかしくなります。戸籍を持たず今日の日本で生きている子供達がそれ相当な数だと聞いたことがあります。松戸のスーパーにある駐車場から連れてきたと聞かされたお兄ちゃんは、これから本当の父母を探すのでしょうか。虐待を受けていた家庭に連れ戻された妹はまた生傷の絶えない地獄を彷徨うのですか。
本当の兄妹の様に蝉の羽化を応援する姿が、知らないふりをして日々を過ごすわたくしを冷淡に責めたてます。