秋ドラマが終わった
一年を締めくくるに相応しい優れたドラマが揃った
一つ一つを思い返しながら感想を書く
この秋、一番の期待作品だった。なんと言っても森下佳子脚本で、実話をベースにした女性のサクセスストーリーだというから期待も大きかった。主役が奈緒であることも輪をかけて楽しみだったのだ
凶作だった夏のドラマシーズンであれば、文句無く一等賞だったかも知れない。奈緒は今までの地道な演技派の素養を活かし、とても魅力的な女社長を演じてくれた。今年のドラマ女優賞をあげてもいいかと思う熱演で、今後も主役を張れることをアピールできたんじゃなかろうか
それなのに、肝心の森下脚本がどうも穴だらけで、序盤の勢いを保つことが出来ないまま不完全燃焼で終わった感がある。観たかったのはストレートに若きシングルマザーが漁師達と結託しながら日本の水産を盛り立てる姿であり、そこに横たわるしがらみや巨悪との戦いの様ではない
リズムに乗り切れないまま、結局主人公が浜を去る結末はなんだかスカッとしない終わり方だった
「鎌倉殿の13人」
滅多に大河ドラマを観ないわたくしが、一年通してこのドラマを楽しみにできたのは、やっぱり三谷幸喜の優れた脚本あってのことだ。清須会議を題材にした映画を観た事はあるけど、真田丸も観てないしそもそもあまり蘊蓄系の歴史ドラマが好きじゃないから敬遠していた
結婚後の新垣結衣を鑑賞できれば程度に考えていたから、こんなにも面白いドラマになるとは思いもしなかった。前半は多彩な登場人物に惑わされ、歴史オンチのわたくしは戸惑いもあったけど、大泉洋の軽妙な源頼朝像に乗せられて群像劇のキモであるキャラクター設定を理解できるようになった
後半、小栗旬がダークサイドに堕ちてゆくに従って血生臭い話が多くなったけど、人の深みが暗い画面から浮き彫りになるようで大河の重みも感じられた
今度の鎌倉巡りには登場人物所縁の史跡を歩いてみよう
「PICU」
主題が明確に語られなかったことは残念だけど、パーツ毎はなかなか良く出来ていたドラマだった
特に主人公の若手医師が母親を見送るエピソードは感動的だった。大竹しのぶの真骨頂と言うべき自然体の名演技が、過剰な泣かせにならないからこそリアルでより涙を誘発させる
小児病棟の話だから子役の出来もかなり重要だったので、その面からもホント今の子役は達者な子たちばかりでびっくりする。劇団ひまわり的な優等生演技をする子はおらずこれからどれほど優秀な役者になるのか楽しみだ
本筋からすればもう少し病棟での物語が深く語られるべきだった。良くなる子も悪くなってそのままの子もいるだろう。ベットと周辺の世界が寒々とした空間にしか見えなかったのは失敗。もう一つの主題である広大な北海道における搬送手段としてドクタージェット機の問題も踏み込みが中途半端で物足りなかった
吉沢亮のナイーブな医師はハマっていたから続編があってもいいんじゃないかと思うけど
「silent」
この秋というより今年を代表する傑作ドラマだった
優れたドラマに必ず言えることは、主人公以外の登場人物すべてが魅力的に描かれていることだろう。聴力を失った想とずっと寄り添って行こうとする紬の二人には、奈々と湊斗や真子などの友達がいて、親兄弟も二人のことを大切に慈しんでいる。この二人を取り巻く人々の描写が丁寧で魅力的なドラマにハズレは無い
このドラマの中では特に、想を失った紬を第一にフォローして辛い思いをしながらも親友である想の理解者になっていた湊斗を演じた鈴鹿央士と、聴力を失った想に手話という言葉を教え恋心を抱きながら苦悶する先天的失聴者を演じた夏帆の存在がすごかった。夏帆の一言も発しない演技は神がかっており、時折見せる満開の笑顔が途轍もなく可愛らしい
想の妹役の桜田ひよりも如何にも妹よ!父親役の利重剛色んなとこで見かけるが、一番イイ親父だった。気になったのは、紬の親友真子を演じた藤間爽子あの藤間紫の孫にあたるのだとか。前からその容姿も含めて注目していたのでこれからが楽しみ
当然、主役の想を演じた目黒蓮と紬の川口春奈が頑張っていたからだけれど
何はともあれ、このドラマが今年を代表する傑作になったのは、脚本家生方美久の天才的な名脚本の賜物だし、天才脚本家に忖度しない自由さを与えたプロデューサー村瀬健の度量がある
先日、ボクらの時代ってトーク番組で語っていたのを聞いて納得した
恋の当て馬みたいな人を作りたくない。だから周囲の人々までしっかり物語を作ってあげていたし、彼等の心情をもきめ細やかに描いていたんだな
そして主題は恋のハッピーエンドなんかじゃなくて、たとえ耳が聴こえなくなっても言葉は伝えようとする愛する人にはちゃんと真っ直ぐに伝わるんだということ
視聴者は「感謝」という花言葉とともに「いってらっしゃい」を、二人の前途に向けてつぶやいたことだろう
初回から最終話まで一つもダレることなく観きれたドラマはあの名作「逃げ恥」以来だった
次回の生方美久に大いに期待だ
「推しが武道館いったら死ぬ」
乃木坂46を卒業して役者の道に進んでいる子は多いけど、白石麻衣、西野七瀬、深川麻衣、生田絵梨花辺りはよく見かけるし器用に演じているなと思う。このドラマでヲタクを演じた村松沙友理って最近まで知らなかったけど、結構インパクトある役柄をこなしていた。持論として、大成する女優の条件はコメディが演じられる事。うまい役者は上等なコメディエンヌだ
その意味で松村沙友理は今後が楽しみな女優だと言える。しばらく注目して追いかけてみよう
深夜枠ドラマに良くある世間的落伍者の青春ドラマだ。ドルヲタが主人公のところも以前放送されたNHK「だから私は推しました」に酷似している。あのドラマも年上の女性がアイドルの女の子を一心不乱に応援するお話しだった。あれほどの傑作にはならなかったけど、地下アイドルが地上に出ようと頑張っている姿はカッコいいし、応援するドルヲタたちも一生懸命さが伝わってくる
来年映画になるそうなので、期待半分で楽しみにしておこう
「エルピス」
佐野亜裕美+渡辺あや+大根仁+役者=カンテレの度量
関東ではキー局であるフジテレビが放送していたけど、制作は関西テレビ(忖度だらけのフジではこんなドラマ無理だろうな)。それにしてもTBSは優秀な人材を失ったものだ。傑作「カルテット」を産み出したのは坂元裕二だけど、その産婆役を担ったのはプロデューサーである佐野亜裕美だから。プロデューサーだって1テレビ職員だから人事異動はあるだろうし、もっと大きな仕事するには畑違いの職種も経験した方がいいとは思うけど、職人(クリエイター)は次元の違うところで物事考えているだろうし
黒幕の大門副総理って、モロあの人をイメージさせるよね。カンテレ大丈夫?お仕置き無いかな
そのあたりも実は裏で了解得ていたりするのかもしれないけど
物語は表面的には政治家がらみの巨悪の不正を暴くとの程になってるけど、佐野Pも渡辺あやもその実描きたかったのは権力にシッポを振る事しかできなくなったテレビ報道のあり方、もっと言えばテレビ局のズブズブした馴れ合い体制への批判のように思う。勇気のいる企画だし、それをここまで高品質な作品にできたことを評価したい
もう一つ。このドラマの主役は完全に眞栄田郷敦に移っていた。長澤まさみもそのことは認めざるを得ないだろう
あのボクちゃんADが凄味を持って成長してゆくに従って、眞栄田も一端の役者に成長していった
「舞いあがれ」
安定飛行の朝ドラ
前半はヒロインがパイロットになるまで
後半、パイロットの苦悩とか彼との恋愛とかが描かれていくんだろうか
それにしても、目黒蓮がsilentの想君とダブってしまいちょっと混同しちゃう
本田翼ドラマはあまりに酷く早々にリタイア