祥一はコンビニのレジのカウンターから、窓に飾られたクリスマスリースをぼんやり見ながらつぶやいた。
「マッチ売りの少女はなぜ、マッチを売っていたのだろう」
「クリスマスだからじゃないっすか」
左耳に銀の輪っかを光らせながらもう一人の店員である木村が気のない返事をする。
「クリスマスだとなぜ?」
「ケーキを食う時、ローソクに火をつけるっしょ」
クリスマスにローソクを立てたケーキを食べるのは日本くらいなものだ。
アンデスセンの国デンマークでは、エーブルスキワという球形のパンケーキを食べる。
たこ焼きを一回り大きくしたようなパンケーキにローソクは立たない。
まあ、そんなことはどうでも良いと祥一は思った。
ケーキの上にローソクを立てることがなくても、キャンドルで飾り付けることくらいはするだろう。
「なぜ、マッチは売れなかったのだろう」
「みんな、用意がよかったんすよ。チャッカマンとか持っていて」
木村には、どうでも良いことなのだろう。そっけない返事だ。
「暇だな」
「クリスマスイヴっすからね。みんな女とデートっすよ。こっちはバイトなのに、いい気なものっす」
ケーキの予約の受け取りが大方片が付くと、それまでの喧騒が嘘のように客足が遠のいた。
レジの隅に積まれたクリスマスケーキの箱もあと三つしか残っていない。
店の自動扉が開き、熊耳が付いた帽子をかぶった坊やの手を引いた女性が入ってきた。
女性は店内を見渡すと小箱を取ってレジに向かってきた。
「これを」
カウンターに置かれたのはマッチ箱とケーキの予約券だった。
この店にマッチなんて置いてあったんだ。
バイトを始めて半年になるが初めて気が付いた。
ケーキといっしょにチャッカマンを買い求める客はいたが、マッチは初めてだった。
「ありがとうございます。合計で二千八百八円になります」
祥一は、熊耳帽子を見下ろしながら、初めてマッチを擦ったときのことを思い出した。ちょうどこの坊やくらいの歳だったと思う。
クリスマスイヴ、ケーキに立てられたローソクに火をつける役を言いつけられたのだ。
ケーキ食べたさに震える手でマッチを擦った。
火が付いた瞬間、心臓が高鳴りマッチ棒を投げ捨てない自分の勇気に驚いた。
ほんの一瞬で、人は成長するものだ。
この熊耳坊やにも、今夜、試練が待っているのだろうか。
クリスマスケーキが入ったビニル袋を下げた女性に手を引かれる坊やの背中に、小さな声でつぶやいた。
「がんばれよ」
「がんばるっす」
木村が虫歯だらけの歯を見せてガッツポーズをとっていた。
子供の頃、あの話を聞いて、おもわず泣けてきたことを思い出します。
まあ、あの童話がかかれた19世紀のころは、マッチといえども貴重な物資だったんでしょうね。なにしろ、電気も普及してなかった時代ですから、ランプや暖炉に点火するには、マッチはなくてはならないものですからね。まして、冬場となればなおさらです。
それに、〈火〉は、生命のシンボルです。そういう事もふくめて、著者のアンデルセンは、あの童話に、いろんな含みを持たせたメッセージを託したんでしょうね。ーーーま、そこのところは本人に聞かんとわかりませんけどね。。。。。。。
しかし、それにしても、年末というのは、お金のない者には、その事がひしひしと見に染みる
季節であることは確かです。ーーそういう点でも、あの「マッチ売り」の話は、クリスマスの時期にはふさわしいですねえ。。。。。。
フランダースの犬もそうですけど、クリスマスの夜に神様に召される子供の話ってけっこうありますね。
子供の頃、泣かされましたわ。