ピンザとは山羊のこと。
自殺願望に悩む料理人が、水道工事のバイトに雇われて小さな孤島にやってきました。
そこには、亡き父の友人が住んでいたのです。
そして、父とその友人の夢であったピンザの乳からチーズを作ることに挑戦する物語です。
と書くと、困難を乗り越えて、チーズ作りを完成させる溌溂とした話かなと思うのですが、そこはドリアン助川だけあって、リアルに過酷な状況に陥っていきます。
父の友人も、情熱を持ってチーズ作りに打ち込んだ経験を持っていますが、ことごとく失敗しています。一生懸命やったことで人生の時間を無駄にした思いも持っていました。
ピンザを食肉として扱うことが島の風習で、乳を飲むことには使用されていないということもあります。
島の親方にも、初対面で暗い内面を見抜かれて、工事が終わったら早く帰ってほしいと思われていたりします。
夢を持つのも良いが諦めて他の道を歩むのもまた人生です。
メディアの人生相談のパーソナリティを長年務めているドリアン助川さんの人間観察の鋭さにリアリティを感じながら、迷いあがく青年を応援するのがこの本の良さだと思います。