最近、朝日新聞の三重県版・年末回顧シリーズでフェロシルトのことをまとめている記事を見つけた。
社長、不起訴にいたる、県警と検察の違いが浮き彫りにされていた。
そのシリーズの最後は、RDFの事故での三重県職員らの不起訴のことで締めくくっていた。
どちらも読み応えがある。
12月27日のブログも是非どうぞ フェロシルトの社長の逮捕見送り、RDFの刑事事件不起訴、その背景。検察庁もしくは検事
なお、瀬戸市のフェロシルト 「全量撤去が6年先の2013年」 になること、岐阜県は撤去遅れ分につき会社を呼びつけたということの記事は中日。
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● 【取材メモから 06回顧】 【1】 フェロシルト不法投棄 2006年12月19日 朝日・三重版
石原産業の四日市工場。各地から撤去されたフェロシルトが、ブルーシートに覆われて保管されている=9月21日、四日市市石原町で、本社ヘリから
◇◆有害性の認識 捜査の壁に◆◇
隣人が自分の敷地内にため込んだゴミのおかげで、あなたが悪臭と害虫の被害に悩んでいたとする。処分するように隣人に訴えても「あなたにとってはゴミかもしれないが、私にとってはゴミではない」と言い返されてしまったら――。一部上場企業の石原産業によるフェロシルト不法投棄事件。その裏側で、捜査員たちはゴミ屋敷の隣人と同じような葛藤(かっとう)を抱えていた。
「社長をやらなければ、この事件をやる意味がない」と息巻く三重、愛知、岐阜、京都の4府県警合同捜査本部。約3千~4千点に及ぶ押収資料の分析と関係者の任意聴取の結果、フェロシルトは産業廃棄物そのものだと判断し、8月末までに犯行当時の四日市工場工場長で現社長の立件に向け、照準を定めた。
しかし、津地検は「有害性の認識なくして、産廃の認識ありとはいえない」と捜査方針の見直しを迫った。同社が証拠隠滅を図るなか、社長の有害性の認識を示す物証を見つけるのは難しく、捜査は難航した。
捜査本部は、代金よりも高い金額を改質加工費などとして支払う「逆有償」、成分が一定ではないなどの「品質管理の不十分」、強度が足りないなどの「商品価値性」など、総合的な面から産廃性の立証を試みた。
しかし、津地検はいずれも却下した。「見つけたときはこれでいけると思った」(捜査幹部)という廃液の不正混入を示す書類の社長のサインは「廃液混入だけでは産廃になるとはいえない」として、証拠採用されなかった。12月8日に追送検した産廃アイアンクレイの不法投棄容疑についても、「社長の認識を示す物証がない」と社長の立件を阻まれた。
津地検はかたくなだった。「一般にゴミであろうと、欲しい人がいればそれは商品になる」。商品性を頭から否定できる有害性だけが、公判を戦う唯一の武器だという考えだった。
捜査本部は1年以上にわたり捜査を続けたが、結局、津地検を納得させる決定打は出せなかった。起訴したのは四日市工場元副工場長と元環境保安部長の2人のみ。「会社ぐるみ」へ捜査のメスは届かなかった。
しかし、有害物質におびえる周辺住民にとっては、当時の工場長が「知らなかった」で済むはずもない。法廷で白黒をつけるべきだったのではないか。同社側が「最高幹部らに産廃の認識なし」をどう立証するのか、最後まで見届けたかった。(星野典久)
◇◆「リサイクル」に潜むワナ◆◇
ゴミも「リサイクル」という錦の御旗さえあれば、有用物に生まれ変わったようにみえる。理念としては素晴らしい「リサイクル」にも、落とし穴があることを事件は浮き彫りにした。
01年ごろの県は、北川正恭前知事を中心に「環境先進県」をうたっていた。県議会も同調。さまざまな廃液を流し込み、実質は産業廃棄物だったフェロシルトを「リサイクル製品」と認定してしまった「リサイクル製品利用推進条例」は、議員提案によるものだった。
だが、01年10月の条例施行から05年10月の同社による問題公表まで、県議会では一度も同条例やリサイクル製品の品質をめぐる質問はなかった。一方、旧久居市などでは、問題公表前からフェロシルトの安全性をただす質問が出ていたのとは対照的だ。
環境問題の推進に熱心なあまり、自ら作った制度を検証する姿勢に欠け「やりっ放し」だった感がぬぐえない。
取材を通して、企業の身勝手さも垣間見た。動機は業績アップのための産廃処理費削減。そして同社の謝罪コメントは、いつも「株主および関係者」あてだった。そこには埋設地の周辺住民や4府県への配慮が欠けており、憤りを覚えた。
近年、企業の社会的責任(CSR)が言われて久しい。同社も四日市工場のISO14001取得などを通し、「環境にやさしい」と社会貢献をうたった。だが、そんな美辞麗句の裏には、「あくまで利益追求を侵さない程度に」という本音がみえる。それは、どの企業にも起こりえることで、同社だけが特殊とは思えない。
「車の白色塗料、化粧品、歯磨き粉、あかのつきにくい便器――。酸化チタンは陰ながら、みなさんの暮らしを支えていますよ」。同社のある社員は誇らしげに言った。同社の製品が、我々の暮らしを豊かにしているのも確かだ。その豊かさの代償が産廃であり、フェロシルトでもある。
ゴミの削減において、「リサイクル」は万能ではない。
産廃問題を解決しようとするなら、どれだけ豊かさを犠牲にし、産廃そのものの削減に向き合えるか。事件はそんな教訓を残した。(藤木健)
◇
記者の取材メモから、06年に起きた出来事を振り返ります。
■■フェロシルトを巡る主な動き■■
99年1月 石原産業がフェロシルト製造開始
01年3月 三重県議会でリサイクル製品利用推進条例案が可決
8月 フェロシルト販売開始
10月 三重県が同条例を施行
03年9月 三重県がフェロシルトを推奨リサイクル製品に認定
05年4月 石原産業がフェロシルト生産・販売を中止
10月 石原産業が不正な廃液混入を公表
11月 三重県が廃棄物処理法違反容疑で刑事告発
同月 三重県警が石原産業本社などを家宅捜索
同月 愛知、岐阜両県が撤去命令
12月 東海3県と京都の4府県警が合同捜査本部を設置
06年5月 石原産業が愛知県の撤去命令取り消しを求め提訴
11月 合同捜査本部が四日市工場元副工場長ら4人を逮捕
12月 愛知県への産廃汚泥不法投棄容疑で2人を追送検
◎フェロシルト不法投棄事件 化学メーカー石原産業(大阪市)が、01年8月から05年4月にかけて、実質は産業廃棄物のフェロシルトなど計約72万トンを「土壌埋め戻し材」と偽って販売し、三重、愛知、岐阜、京都の4府県35カ所に埋め立てた不法投棄事件。埋設地からは環境基準を超える有害物質六価クロムやフッ素が検出された。1960年代に硫酸の廃液を四日市港に垂れ流したとして摘発された同社四日市工場が再び起こした事件として、同社の法令順守の姿勢が問われた。
● フェロシルト全量撤去2013年末までに 石原産業社長が陳謝 1月14日 中日
瀬戸市幡中町のフェロシルト撤去問題で、製造元の石原産業が12日、県の撤去命令取り消しを求めた訴訟を取り下げたことについて、地元の菱野自治会役員は「全量撤去に向けスタートラインに戻った」と歓迎した。しかし、フェロシルトは同市余床町の民間最終処分場に運び込まれるだけに、近くに住む男性(58)は「有害物質を含むとされるフェロシルトが大量に運び込まれるのは不安だ」と表情を曇らせた。
石原産業が県に提出した計画書では、同社が民有地である同所を取得する。撤去量は土砂を含めて26万トンと試算し、工期は2013年末までの約7年間とした。
搬出先は同市余床町の民間最終処分場「クリーン開発」で、1日当たり最大10トンダンプカー100台が稼働。防災上最小限の工事を除き、埋め戻しを行わないと明記されている。同社はこれまで、土砂を含めた撤去量は200万トンになるとみていた。
同社の田村藤夫社長は12日、瀬戸市役所で増岡錦也市長と面談したのに続き、菱野自治会の役員3人と会って「ご迷惑をお掛けしおわび申し上げる」と陳謝。同自治会フェロシルト対策特別委員長の伊藤明さん(67)は、余床町の処分場への搬出について「県が認める場所であれば、地元が制約を付ける理由はない」と話した。
また瀬戸市は、同社の提訴で昨年5月21日以来中断していた市、学識者、地元住民らで組織した「幡中地区フェロシルト撤去方法等検討会」が、県主導で2月にも再開される見通しであることを明らかにした。(細井卓也)
● フェロシルト、早期の撤去計画提出を 岐阜県が石原産業に指示 1月19日 中日
岐阜県は19日、有害物質を含む土壌埋め戻し材「フェロシルト」の製造元である石原産業に対し、撤去が完了していない県内2カ所の早期全量撤去計画の提出を指示した。搬出先確保の具体的な方策と撤去計画について、2月2日までに文書で報告するよう同社に求めている。
同県内に搬入されたフェロシルトのうち、瑞浪市稲津町と本巣市早野の2カ所に運び込まれた計約1万3000トンについては、地権者との調整の難航や搬出先が十分に確保できないことなどから撤去が大幅に遅れている。2005年11月に県が、06年2月を期限とする全量撤去の措置命令を出したが、いまだに撤去のめどが立っていない。
県環境生活部の横井篤部長から、同社の田村藤夫社長あての計画提出指示書を手渡された安藤正義常務は「努力したが結果として期限を守れなかった。大変申し訳ない。早期撤去に向けて一層努力する」とコメントした。
● 企画特集3 【取材メモから 06回顧】【10】RDF事故不起訴 2006年12月29日 12月29日 朝日
RDF貯蔵槽から再び煙を上げるごみ固形燃料発電所=03年8月21日午後6時27分、本社ヘリから桑名市多度町力尾で
◇◆甘い認識 行政責任問わず◆◇
業務上過失致死傷容疑で書類送検された県企業庁の幹部ら全員が不起訴になったことに、被害者や遺族の多くが怒りや不満を隠せずにいる。遺族の一人は「これほどの大きな事故で、誰も責任が問われないのは納得できない」とやりきれない思いを口にした。
桑名市(旧多度町)の三重ごみ固形燃料(RDF)発電所でRDF貯蔵槽が爆発し、消防士2人が死亡、5人が重軽傷を負った事故から約3年4カ月。津地検は今月15日、県企業庁と富士電機(現・富士電機システムズ)、桑名市消防本部の当時の幹部ら15人を不起訴にした。民事では県と同社が責任割合について争う中、今回の不起訴で刑事責任の所在はあいまいになった。
津地検は「発火は予見できたが、爆発の予見は困難だった。爆発を予見できなければ、回避義務を問うこともできない」と説明した。02年12月の発電所稼働直後から貯蔵槽内でRDFが燃焼を続けた際、県企業庁と富士電機は燃焼中のRDFを全量かき出して消火した経験があったことから「爆発の危険性を予見できた」と判断した県警の捜査結果は、受け入れられなかった。
焦点となった「爆発の予見」可能性について、津地検の判断は「機密性の高いサイロとはいえ、通気口もある。崩落によって局所的に、急激に、爆発する濃度に達することを認識しろといっても無理がある」というものだった。爆発するほどのガスの滞留、濃度上昇のメカニズムについて知識はなかったという。
しかし、津地検の判断で「プロとしての認識の甘さ」は見逃されていないだろうか。「リサイクル推進県」を自任し、RDF発電所の建設を積極的に進めた県と、専門的知識があるとして管理業務を請け負った富士電機。爆発事故が「不測の事態」というのであれば、予測できない程度の乏しい知識のままに建設を進め、人を死に追いやった判断ミスに、重大な責任はないのだろうか。
フェロシルト不法投棄事件も含め、「リサイクル推進県」を唱えた北川県政時代の環境政策は、負の遺産となったものが目立つ。このような政策を不完全な認識のままに進めた当時の為政者に対する責任は、結局、問われないままだった。(星野典久)=終わり
◎ごみ固形燃料(RDF) 生ごみやプラスチックなどのごみを砕いて乾燥させ、成形したもので、発電などの燃料に使う。腐敗しにくく、比較的長期の保管が可能で、運搬も容易なことなどから「夢のリサイクル」といわれたが、三重県以外でも福岡県や静岡県、和歌山県などで発火や発熱などの事故が相次いだ。
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