●最高裁判例
事件番号 平成23(受)2455 事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成26年10月9日 法廷名 最高裁判所第一小法廷 判決
原審裁判所名 大阪高等裁判所 原審事件番号 平成22(ネ)2031 原審裁判年月日 平成23年8月25日
判示事項 労働大臣が石綿製品の製造等を行う工場又は作業場における石綿関連疾患の発生防止のために労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの)に基づく省令制定権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例
裁判要旨 次の(1)~(4)など判示の事情の下では,労働大臣が昭和46年4月28日まで労働基準法(昭和47年法律第57号による改正前のもの)に基づく省令制定権限を行使して罰則をもって局所排気装置を設置することを義務付けなかったことにつき,石綿製品の製造等を行う工場又は作業場の実情に応じて有効に機能する局所排気装置を設置し得るだけの実用的な工学的知見が確立していなかったことを理由に上記の省令制定権限の不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえないとした原審の判断には,違法がある。
(1) 昭和33年頃には,上記の工場等の労働者の石綿肺り患の実情が相当深刻なものであることが明らかとなっていた。
(2) 昭和33年頃,局所排気装置の設置は石綿工場における有効な粉じん防止策であり,労働省は,昭和30年代から通達を発出するなどしてその普及を図っていたが,上記の工場等における局所排気装置による粉じん対策は進まなかった。
(3) 昭和32年までには,我が国において局所排気装置の設置等に関する実用的な知識及び技術の普及が進み,局所排気装置の製作等を行う業者及び局所排気装置を設置する工場等も一定数存在していた。
(4) 昭和32年9月,労働省の委託研究の成果として,局所排気に関するまとまった技術書が発行され,労働省労働基準局長が,昭和33年5月26日付け通達により,石綿に関する作業につき局所排気装置の設置の促進を一般的な形で指示し,その際には上記技術書を参照することとした。
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(3) 以上の諸点に照らすと,労働大臣は,昭和33年頃以降,石綿工場に局所
排気装置を設置することの義務付けが可能となった段階で,できる限り速やかに,
旧労基法に基づく省令制定権限を適切に行使し,罰則をもって上記の義務付けを行
って局所排気装置の普及を図るべきであったということができる。そして,昭和3
3年には,局所排気装置の設置等に関する実用的な知識及び技術が相当程度普及し
て石綿工場において有効に機能する局所排気装置を設置することが可能となり,石
綿工場に局所排気装置を設置することを義務付けるために必要な実用性のある技術
的知見が存在するに至っていたものと解するのが相当である。
そうすると,昭和33年当時,労働大臣が,旧労基法に基づく省令制定権限を行
使して石綿工場に局所排気装置を設置することを義務付けることが可能であったと
解する余地があり,そうであるとすれば,同年以降,労働大臣が上記省令制定権限
を行使しなかったことが,国家賠償法1条1項の適用上違法となる余地があること
になる。
4 以上と異なる原審の前記第1の3(1)の判断には,判決に影響を及ぼすこと
が明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。
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第6 結論
以上のとおりであるから,原判決中,上告人X1ら及び同X7以外のその余の上
告人らに関する部分並びに同X7の請求のうち固有の損害の賠償請求に関する部分
を除く部分は破棄を免れず,上記破棄部分については,更に審理を尽くさせるた
め,本件を原審に差し戻すべきであるが,上告人X1らの上告は棄却すべきであ
る。
なお,上告人X7の固有の損害の賠償請求に関する上告については,上告受理申
立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
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