tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

日銀「企業物価指数」9%上昇は「正常」のうち

2021年12月11日 18時24分03秒 | 経済
日銀「企業物価指数」9%上昇は「正常」のうち
アメリカでは、11月の米消費者物価指数 前年同月比6.8%も上昇して39年ぶり高水準という事でアメリカの中央銀行であるFRBは金融引き締めの動きを見せるなど大変です。

そこに日本でも日銀が調査発表する「企業物価指数」の11月が、対前年同月で9.0%の上昇という発表がありました。
ところが日本の消費者物価は最新時点の10月で0.1%の上昇と落ち着いたものです。

こうした日米の違い、企業物価指数と消費者物価指数のギャップがどこから来るのか「ざっと」見てみました。アメリカの事は最後にちょっと触れることにして、まず、日本の場合、企業間取引の物価指数が9%も上っても、消費者物価が僅か0.1%の上昇と言うというメカニズムは正常かという事です。

今回の企業物価指数の上昇は原油をはじめとして資源、原材料価格が世界中で値上がりしたからという事は言われています。
そこで、輸入物価の影響という点を見てみましょう。

日銀の企業物価指数の内訳の中に、需要段階別の企業物価を国内品と輸入品に分けて調べたものがあります。それで見ますと、輸入原材料をはじめ、輸入品と国内品価格の関係が解ります。

日銀の調査では、素原材料、中間財、最終財と加工段階別に分かれていて、それぞれについて国内品と輸入品の対前年同月の上昇率が解ります。
 
  素原材料 63.7%、うち国内品10.0%、輸入品 91.1%
  中間財  14.5%、うち国内品11.7%、輸入品 31.2%
  最終財   3.9%、うち国内品 2.3%、輸入品  9.1% 

結果は上の数字のようになっています。

圧倒的に上昇率が高いのは素原材料の輸入品で、91.1%、ほぼ2倍に近い上昇率です。当然、原油の値上がりや、その他鉱物資源などの価格上昇の影響が甚大です。

加工段階別にみていきますと、国内品でも輸入品でも素原材料から中間財、最終財と加工度が上がるにつれて上昇率が低くなっています。
これは価格の中に含まれる加工や輸送のコストの割合が大きくなるからで、加工や輸送のコストというのは、大部分が人件費ですから、上昇率の低い人件費がコストの占める比率が大きくなると原材料のコスト高が薄められるからです。

日本経済全体の輸入代金はGDPの1割程度ですから、残りの9割は国内コストです。ですから国内コスト(最大のコストは人件費)が上がらなければ、影響は輸入品価格分だけに限られ、加工段階が上がるほどその影響は小さくなります。

企業物価というのは、まさに物価で、「物」の価格ですが、消費者物価になるとさらに小売りの人件費、や物でないサービス料金も入りますから、人件費の割合が圧倒的に大きくなって素原材料の影響は、ますます小さなものになってしまいます。

アメリカで消費者物価が上がっているのは、原材料価格の値上がりと言うよりも、流通がネックになったりして品物不足によることや、物価が上がったという事で、賃金が上がったこともあるようです。いわゆる便乗値上げもあるでしょう。

資源の国際価格が上昇して、経済が混乱するというのは、よくあることで、かつての1970年代の石油危機の時は、先進国も大混乱で、その始末には1980年代までかかりましたが、日本は合理的な対応をし、影響は小さくで済みました。

資源価格の上昇というのは、世界共通の問題ですから、自分の国だけが不利になるのではないので、上昇分は正確に価格転嫁した場合の影響を見定め、慌てて賃金を上げたり、便乗値上げに走ったりしなければ、乗り切ることが十分可能な問題です。

日本の場合は、国内経済が安定していて、国民の行動も平静なので、輸入物価の上昇が経済の混乱をもたらすようなことは起きないだろうと見ています。

こうした統計数字を見ることでそんな状況も理解出来るように思います。

しがらみの中の岸田総理の本音を問う

2021年12月10日 14時57分23秒 | 政治
しがらみの中の岸田総理の本音を問う
衆院本会議の代表質問、岸田首相の答弁を聞きました。
一問一答ではないので、緊迫感はありませんが、代表質問も、岸田首相の答弁も、心なしか、安倍時代のすれ違い過多や菅時代の目が宙を泳ぐ答弁よりも、メリハリがきいていて、真剣さが見えるように感じられました。

その意味では、これからの国会が、よりまともな論戦を通じて、より国民に役立つものになると期待するのですが、矢張り本質は岸田政権、岸田首相の考え方にあると思うので、早くその信念と具体的アプローチを本音で示して欲しいと思ったところです。

岸田さんの総裁選出馬から今日までの発言を聞いていて、感じていたのは、自民党支持率の大幅低下を齎した直前の2つの政権に対して、自民党としての自浄作用を期待できるだろうという事で、そう感じた人は多かったと思います。

マスコミに揶揄され指摘もされたいわゆる御飯論法や嘘の答弁が横行、丁寧な答弁と言いながら答弁の理由や根拠が全く示されないで素通りといった状態が改善されるのではないかとの期待をしていました。

未だ国会の議論が十分熟していない段階かもしれませんが、岸田首相の基本的なスローガンである「新しい資本主義」に関連する問題を拾ってみます。

岸田さんは「新しい資本主義」を掲げるにあたって「新自由主義ではだめだ、これは格差社会化を進め経済社会の発展につがらない」という視点をお持ちだったと理解しています。

新自由主義否定からの出発ですから、私もそれに賛成し、期待を持って見守っているというのが現状です。

ところが、残念ながら、国会答弁や、その他の発言から、現状ではそのあたりが明確に出てこないし、逆ではないかと思われる政策も出て来ています。

自民党の自浄作用という面では、いわゆるモリ・カケ・サクラや、学術会議の問題の放置の始末も必要でしょう。
経済問題の基本方向を考えれば、進行著しい格差社会化の阻止、格差の少ない社会の実現も、安定した経済成長のためには是非とも必要でしょう。

こうした問題に直結する所得税の累進税率の見直し、法人税率の再検討、金融所得税制についての基本的視点の表明は必須の課題でしょう。

更に、具体化しつつある問題につて言えば、賃上げ税制は、悪しき新自由主義の典型でしょう。業績の良い会社に補助金を出し、利益の少ない(出ない)会社にはメリットは殆ど(全く)ないのです。これでは、まさに格差の拡大政策なのです。

この状況から余計な憶測をすれば、岸田総理が今の自民党の中で自浄作用をと考えても、党内の環境は容易ではない、という事なのかなと感じてしまうところです。

誰にも解っていることですが自民党の中のことは「コップの中」のことです。岸田首相のお仕事は国民全体のためのお仕事です。
これからの岸田総理の政策には、大きな期待を持って、「その時(秋)」を待ちたいと思います。

今日、太平洋戦争開戦の日です

2021年12月08日 16時11分45秒 | 国際政治
太平洋戦争開戦、もう80年も前の話です。
しかし、日本人である限り、その日の記憶を持っている人も、その後の戦争の最中から記憶が 始まる人も、戦後の混乱が記憶の原点という人も、さらには、戦争については記録によってしか知らない今の日本人の大多数の人たちも、12月8日という日は記憶に残し、今後の日本が、また改めて戦争という過ちを犯すことの無いようにする、いわば戒めの日と考えるべきではないでしょうか。

私自身、当時の事を振り返れば、まさに人類としての危険分子だったという記憶があります。
小学校2年生でしたが、昼食のために家に帰る途中で、上級生から、「日本はアメリカ・イギリスと戦争を始めた。知ってるか。」と言われました。

上級生は、「日本とアメリカの間には海がある。海で戦争をすることになれば日本の海軍は強い」自信たっぷりに教えてくれました。
勿論誰かに聞いたのでしょうが、子供というものは、ある意味では怖ろしいものです。
先生や大人の言う事は正しいと思うのです。

その後、先生の言う事も、マスコミが書くことも、緒戦の勝利の宣伝ばかりでした。
新聞に書いてあった戦果を、作文に書くと、「戦艦何隻撃沈、巡洋艦何隻撃沈、駆逐艦何隻撃破、敵機何機撃墜、・・・」などと1行全部漢字で書いて先生の褒められた、などといいあっていました。

ある日、夕食の時、父親に「戦争があると戦果がいっぱいあっていいね」といいました。
その時の父親の反応は、子供には予想外のものでした。
私は、父親にひどく怒られたのです。「戦争なんて無い方が良いんだ、そんな事は絶対いうな」でした。

父親は、それ以上何も言いませんでしたが、その後、身をもって体験したことから、何故あんなに怒られたかを理解することになりました。
それは、戦争に負けたからではありません。たとえ勝っても、破壊と犠牲は巨大ですし、必ずどちらかが負けるのだという事にも考えが及ぶようになりました。

田中角栄が「戦争を知らない世代が国のリーダーになった時は危うい」と言っていることはこのブログでも何回か触れましたが、経験と知識が多くなるにつれ、人間は少しずつ「より良い」判断が出来るようになるのではないでしょうか。 

英国の宰相だったアトリー氏は「戦争は人の心の中で始まるものだから、平和の砦は人の心の中に築かなければならない」と述べ、それはユネスコ憲章の前文に掲げられています。

日本が太平洋戦争に踏み込んだ時、主戦派の陸軍に対し,海軍は慎重派だったことが最近注目されています。太平洋戦争は当時の陸軍のトップの心の中で始まったのかもしれません。

戦争に突入するか避けるか、勝つにしても負けるにしても「戦争をしないことの方がベター」というのは解っていることですが、人の心は時に恐ろしいものです。

このブログではかつて「戦争か外交交渉かの間の選択肢の一覧表」というのを出しました。
現実を徹底して簡素化し、出来るだけ客観的にしたものですが、多分、戦争を始めるときは、人間は感情に駆られて「イチかバチか」の選択をして仕舞うのでしょう。
そしてリーダーは「これがわが国民の為なのだ」という言い訳に縋るのでしょう。

太平洋戦争開戦の日の丁度80年後です、その悲惨な記憶(記録)を風化させない様にとの動きも活発な中で、私なりに振り返ってみた感慨です。

2021年10月家計調査:消費伸びる

2021年12月07日 17時23分51秒 | 経済
今日、10月の家計調査が発表になりました。
何時も指摘していますように、日本経済の動きに最も影響の大きい家計の消費支出は、このところずっとコロナ次第という状況です。

日本では新規感染者増加の最も酷かったのは今年の8月中旬で、下旬から9月にかけて下がり始め、11月に至って「何とかこのまま収まってくれれば…」とみんなが願うような現状になっています。

政府もこの状態が続くことを願っているのでしょう、種々の規制も少しずつ緩和しながら、状況を注視ししているといったところのようです。

この影響は、家計消費にもはっきりと表れているようです。
昨年の秋は、異常に楽観的だった政府のGoTo政策などで一時的に消費支出が増加したりしましたので、今年の消費支出は前年同月で比べると減少が目立つことになり、このブログでは、先月はコロナの影響のなかった一昨年の同じ月と比べてみています。

家計調査の「2人以上所帯の季節調整済み消費水準指数」で見ますと、残念ながら9月までは一昨年の水準に追い付いていませんでした。

前月のこのブログでは、「10月はどうでしょうか?」と書きましたが、今日の発表では今年の10月は一昨年10月の水準を超えたようです。
一昨年10月101.4、(昨年はGoToのせいで104.3)今年は103.0です。

今年の6月からの指数の動きは99.7、99.1、94.8、100.3、103.0(10月)で、新規感染者の減少とともに、家計消費の回復がみられるわけです。

このところ、財布の紐が固い勤労者所帯の平均消費性向は10月は68.2%で、前年の68.5%には0.3ポイント追いついていませんが、3.9ポイントも下げていた9月からみれば、大幅上昇と言えそうです。

こう見てきますと、コロナ新規感染者の順調な減少は、政府の徐々ながらの規制緩和と相まって、家計の消費態度の積極化に、明らかに効果を持っていると言えそうです。

ところで、心配は「オミクロン株」という事ですが、この未知数が、今後、どのように既知の部分を増やし、「日本で、確り感染拡大を防いだ」と言われるようになれるかどうか、日本の対応の在り方が問われることになるのでしょう。

ここで頑張れば、景気回復でも明らかにプラスという事になるのでしょう。当面、景気の先行指標は、何よりもコロナ新規感染者の動向という状態がまだ続きそうです。

米中「民主主義論争」:本格論議に発展させよ

2021年12月06日 23時11分08秒 | 国際関係
アメリカが今月9日からオンライン形式で、110の国や地域の首脳などを招いて「民主主義サミット」を開催することになりました。
これに対抗するという事でしょうか、中国はアメリカ流の民主主義への批判を強めると同時に、中国も民主主義国家であるという主張を強めることになったようです。

具体的には、今月4日「中国の民主」と題する白書を発表し、5日には「アメリカの民主の情況」という文書を公表しています。

アメリカの「民主主義サミット」の呼びかけをきっかけに、米中間で、というより世界中で、「民主主義とは何か」を本格的に議論するという状況が生まれたとすれば、これは大変素晴らしいことではないでしょうか。 

 というのも、今の世界は、アメリカは世界の民主主義のリーダーということになっていて、一方、大国では中国、ロシアは専制主義と言われながら、それぞれに選挙制度、多数決せいどを持ち民主主義の形を取っているということになっているのです。

そうした中で中国は今回、民主主義というのは必ずしも一様ではない。それぞれの国にその国に見合った民主主義があって然るべきという論争を仕掛けているように思われます。
「論争」は大いに結構です。「戦争」はしない方が良いのです

私共が得られる情報は、マスコミの報道しかないので、それが正確であるという前提での話になるのですが、中国は、アメリカの情況について、金権政治で少数者が支配し、アフガニスタンでは20年も戦争をし多くの犠牲者を出して人道的に問題がある、などと批判しています。

一方アメリカは、中国・ロシアは専制主義国家と位置づけ、民主主義国家を守るために「民主主義サミット」を開催するわけです。
それに対して、専制主義国家と名指す中国が、中国は中国流の民主主義、より高度な民主主義を創造して実践していると言っているという事です。

こうなればアメリカも、自らの民主主義の正しさを立証し、民主主義の本質に照らして、いずれが真の民主主義に沿うものかについて、本格的に論争しなければならないという事になるのではないでしょうか。

そのためにも有意義な議論が9日からの「民主主義サミット」で行われることを期待することになるのですが、アメリカとて、決して問題がないわけではないでっしょう。 

ついこの間までのトランプ政権では、まさに専制君主的な行動をとる大統領を民主的な選挙で選んでいたわけで、特に米中関係では関税や制裁で、米中対立の激化をもたらしていたという実績もあるわけです。

勿論、中国は後発国に対する援助政策、先進地域では強大な軍事力を見せつけるような示威行為などと、国際的な緊張を高める行動の使い分けで、国際関係の安定を無視するような各種政策も日常です。

客観的に見れば、中国・ロシアなどの自称民主主義国は「拡張主義」の政策がお好きなようで、アメリカは自らの覇権の維持でこそ世界の安定は保てるという、時には独善的な政策でそれに対抗するといった形でしょうか。

その渦中で、改めて中国が「民主主義とは何か」という問題を提起してきたのです。
もし、中国がそれを本気で提唱、実行するというのであれば、世界の情勢は大きく変わる可能性もあり得ます。

少なくとも、地球人類がみな民主主義を良しとすれば、戦争による破壊や惨禍はなくなるでしょう。

結果はどうなるか解りませんが、ここは徹底的に論争・論戦を展開して、共に理想とするべき「民主主義」の本格的な実践の基礎作りに役立てるという方向に少しでも進んでくれることを期待したいと思う所です。

中国に住宅バブル崩壊の危険は?

2021年12月04日 14時52分08秒 | 経済
中国の不動産業最大手の 恒大グループの経営不安は、その後利子の支払いが行われたとの報告もありましたが、国外の債権者との間で債務の再編を協議する方針といった報道も入り、矢張り容易ではない様な気がします。

日本の土地バブルの崩壊、アメリカのサブプライムローンの破綻(リーマンショック)に次いで、中国の不動産バブルの蹉跌と順に並べると、不動産価格と金融政策で景気維持という手法の限界が見えてくるような気もします。

確かに恒大グループは拡大を急ぎ過ぎたのかもしれませんが、その背景には、現代中国の高級住宅価格は何処までも上昇する(特に上海、北京など)という神話があるような気がします。

そうであれば、恒大は超大手ですが、それに連なる大手から中小に至る不動産業が皆健全であるという事はあり得ないでしょう。

そして、それに連なるのは土地の利用権を分譲する地方政府の財政、その上に乗る中国政府という構造、不動産価格の上昇に大きく依存するのかもしれない中国の政治経済体制です。

今日、中国が一帯一路を掲げ、世界の調所に巨大な投資をしている資金は、世界の工場として付加価値を生み出した成果の分配による資本蓄積のレベルを超えているように感じられないでしょうか。

かつて日本が土地バブルの時代、日本の都市銀行が世界のトップ10に何行も入る資金量を持ち、NYのロックフェラーセンターやテtィファニーを買い取っていた事を思い出します。
土地バブルが崩壊してみれば「あのお金は一体何処へ消えたんだ」などと不思議がる意見もありました。

金融緩和による土地価格の上昇で生じたお金は土地価格の下落で消えるのです。増えるときには金融と投機で異常に増え、消えるときはそれが全て消えます。
アメリカのサブプライムローンで出来た豪奢な住宅やサブプライム層の豊かさも、みんな金融と不動産バブルの組み合わせで生じた現象です。

最近、中国で、不動産の「売り急ぎ」が出ているという報道もあります。地域によっては、早く売らないと値下がりが大きいといった危機感もあるようです。

中国に何か転機が来ているのでしょか。
それを示唆するものがいくつかあります。まず、政府が不動産価格の過度な上昇を抑制しようと、金融の引き締め政策を取っているという事です。
これは習近平主席の掲げる「共同富裕」実現、富の配分のより均等なものにしようという新しい中国の形を目指すものでしょう。

これらと軌を一にするのでしょうか、今までなかった固定資産税に相当する「不動産税」を導入するという方向も発表(一部試行)されています。

日本でも、土地バブル崩壊のきっかけは、金融引き締めと地価税(新土地保有税)の導入でした。
こうした新政策の導入は、適切な程度の導入にするといった調節は極めて困難なようです。
理由は、相手は投機的な動機による価格形成だからです。

中国政府が、(計らずも?)推進してしまった不動産価格上昇による信用創造の結果の巨大な資金量の増大を、巧に適正な規模に調整することに成功しうるでしょうか、それはかなり難しいような気がします。

習近平主席が目指す、これまでの経済発展の成果である巨大な資本蓄積を利用して「共同富裕」を実現するという構想の「富裕」の源が今後どうなっていくのか、確り見守る必要がありそうです。

賃上げ減税の意図と個別賃金決定

2021年12月03日 18時03分23秒 | 労働問題
日本経団連が春闘方針を出し、連合は4%賃上げ目安(2%の経済成長分+定期昇給分2%)を決めたようです。春闘の大枠が見えてきました。

報道によれば、岸田総理は、賃上げ減税について、宮沢税制調査会長に対し、「一人一人の給与の引き上げにつながる実効性のある制度」にするよう指示したとのことです。

税制調査会の方は、企業が適用要件を満たした場合、「法人税から差し引く控除率」を、現在の15%から、企業の賃上げ取り組み状況に応じて段階的に引き上げる方向で調整を進めているという事です。

引き上げの幅は大企業で25%、中小企業で30%にするなどが検討されており、そのほか、従業員の教育訓練費の増加の場合でも適用をすることもつけ加えることも検討しているようです。

企業の教育訓練費についての援助は、いわば従業員への投資で、将来志向のものですから
賃上げとは違った性格のもので、こうしたものへの援助政策は、対企業でも、対個人でも検討に値するものと言えそうです。

ところで、岸田総理の「新しい資本主義」が目指す「成長と分配の好循環」を実現するための政策の具体化が、賃上げ減税の基本的な視点でしょうから、それは、賃上げへの配分を政府が援助するころで、結果的に労働分配率の上昇と同じ効果を生み出し、現状では異常に不振な消費を刺激して、経済成長率を高めようという発想によるものでしょう。

それはそれで環境条件によっては効果を持つ可能性もあるものでしょう。しかし、それが「一人一人の給与の引き上げにつながる実効性」という事になりますと、それはどういう意味ですかという事がよく解らなくなってきます。

賃金を引き上げた企業に対して政府が援助するというのは、マクロ政策としては(現状で効果があるかどうかは別として)、国の行う所得の再分配政策として有り得るのでしょう。

然し、「一人一人の」という事になりますと、これは個別賃金、企業内の個人別賃金の配分の問題に政府が入り込むという事になるのではないでしょうか。
これは勿論、企業の専権事項で、政府の政策課題にはなりえないものでしょう。

岸田総理の「みんなの賃上げに役に立ちたい」という気持ちも解らないではありませんが、「新しい資本主義」の目指す「成長と分配の好循環」に即して言えば、政府の為すべき仕事は、労働分配率の低下を、政府の手による所得の再分配で是正し、個人消費支出の拡大を実現して、経済成長率を高めるという好循環の実現に尽きるのではないでしょうか。

であってみれば、政策は、賃金、教育訓練費などの企業の支払う人件費の増額に対して考えるのもので、個別賃金の決定は企業に任せるのが政府の態度であるべきでしょう。

「(評判の悪かった)官製春闘ではないと理解しています」という声も、経済同友会などから聞こえてくるところですが、政策の趣旨が正しく理解され、誤解が起きないようにすることが先ず必要なのでしょう。

そして、そのためには、政府が春闘を何とかしようと「独りよがり」で考えるのではなく,ILO(国際労働機関)の理念でもありますが「政労使」三者のコミュニケーションを常に確り取って、誤解があれば取り除いていくといった、「日常の地道な努力」が必要なのではないでしょうか。

かつての「産労懇(産業労働懇談会)」などは、大いに参考になるような気がします。

EU「グローバル・ゲートウェイ」計画発表 

2021年12月02日 14時55分43秒 | 国際関係

昨12月1日、EUは、世界的なインフラや気候変動対策プロジェクトなどに2027年までに総額3000億ユーロ(3400億ドル)を投資する計画を発表しました。

「など」の中には気候変動対策のほか、デジタル化、エネルギー、輸送部門、教育、研究など幅広い部門も入っているようで、EUとしては、この計画は中国の一帯一路を相手と意識したものであることを率直に表明しています。

EUによれば、この計画は、地元社会がインフラ投資の恩恵を受けられるように、民間部門と提携して実施すると表明。中国の一帯一路に対する「真の代替案」だとしています。

というのも、中国の一帯一路が、現代版シルクロードとして、ユーラシア大陸からアフリカまでのインフラ整備による経済発展を目指すとしているのですが、現実には、中国の場合、中国式の政治社会体制を目指していることのへの危惧があるでしょう。

更にこれまでの経緯を見ても、相手国が目を瞠るような巨大、豪華な整備を行い、結果巨大債務で相手国が返済不能になる、いわゆる「債務の罠」になる例(スリランカのハンバントタ港その他)などの指摘もあり、自由世界としても何か対抗措置が必要との意識あってのことでしょう。

EUはアメリカのようにあからさまに中国との対立意識をおもてに出しませんが、最近の習近平さんの言動を見ると、矢張りきちんと対抗措置を取っていかないといけないのではないかという強い意識を持っているのでしょう。

最近、ラオスに対する中国の援助政策の報道を目にしますが、まさに中国の威力を見せつけ、中国に頼るのが最もいいといった、いわば中国一辺倒のファンづくりのような感じを強く受けます。

確かに中国が援助してビエンチャンへの鉄道を敷き、それがタイからマレーシアに伸びてシンガポールにまで達するといった構想をすれば、インドシナ半島諸国からシンガポールというアジアのハブを経てインドネシアへと延びる東南アジア圏の経済の連携、それをベースにした広域の経済発展に資することは大きいでしょう。

こうした国際協力のためのインフら整備が共存共栄、関係諸国全てのwin=winの関係の中で行われるような状態が実現すればまさに素晴らしい事とですが、かつて日本が南満州鉄道に力を入れたように、特定国の植民地支配の構想の中に織り込まれていては、最終的な完成はおそらく不可能でしょう。

中國、習近平さんが,いかなる意図を持っているかは知りませんが、EUの構想は、こうした目標を持つ活動は公正な市場原理に基づいて、関係者がみな自由経済の原則に則ってこそ、最終的な完成にまで持っていけるという「自由競争原理」の大切さを、身をもって実践しようという意図の具体化と理解すべきでしょう。
 
EUにとっても冒頭に記した38兆円(日本円にすれば)は大きな負担でしょう。しかし、それをEUの力で実行しようという合意には、深甚の敬意を表したいと思う所です。

戦後のアメリカのマーシャルプラン、ガリオア・エロア、更にはアジアの経済発展を見ても、広域の国際協力が、如何に関係経済圏の発展、人々の生活の向上に役立つかは、目に見える形で存在します。

中國とても無限にカネがあるわけではないでしょう。今回のEUの構想が、喫緊の課題になりつつある気候変動への対応も含め、世界の国々のwin=winも経済協力関係への契機のもなることを願う所です。

来春闘の経団連原案の賃上げ方針

2021年12月01日 17時03分10秒 | 労働問題
今日から師走、あと1か月で年が変われば、コロナ不況の中ですが、日本の労使の年中行事「春闘」の時期に入ります。

昨日、来春闘の経営側の方針についての日本経団連の原案がマスコミ報道されました。

それによりますと岸田政権の賃上げ奨励、賃上げ減税導入といった意向を忖度したのでしょうか
(収益が拡大している企業の基本給については)「ベースアップの実施を含めた新しい資本主義の起動にふさわしい賃金引き上げが望まれる」
という形で、賃金引上げに前向き対処の姿勢が示されているとのことです。

政府は賃上げを促進すれば、消費不振が解消されて、景気上昇の効果が起きいと考えているようで、経団連もその趣旨には賛成という事なのでしょう。

企業にとっての問題は「それならどのくらい上げればいいのか」という事になるのでしょうが、それについては
「コロナ禍が長期化し業績のばらつきが拡大する中、一律的な検討でなく各社の実情に適した賃金決定を行うことが重要」
としているとのことです。

コロナ禍の中でも好業績の企業もあるようですが、多くは業績不振に悩んでいるようですから、そういうところは無理をしないでという配慮でしょうか。

これでも経営側の方針と言えない事はないですが、企業はどう判断するのでしょうか。

以前は経営側は、基本原理として「生産性基準原理」を掲げ、日本経済の生産性の上昇に整合した賃金の引き上げを目指すべきという理論的にも現実的にも、明確な基準を示し、その上で、個々の企業は自社の状況を勘案して判断をすることを要請していました。

更に連合もこの考え方を理解し、今でも、それをベースにした形での賃上げ要求基準を組んでいるようです。

上記経団連の方針では、業績順調な企業だけが賃上げをし、政府はそれを支援して賃上げした企業には減税をするという事になり、賃金を中心に格差社会化がますます進むという結果になりかねません。

「新自由主義」ではそれを放置して、賃金の高い所が出ればその影響が均霑するといった「トリクルダウン仮説」などというのもありましたが、そうはならない事が実証されたのが現実です。

そこで出てきたのが、サプライチェーン、バリューチェーン全体に行き渡る付加価値の配分が重要という論議があり、労使が基本的にはその考え方を尊重する姿勢を取ったはずでした。

春闘におけるこうした労使の理論的、合理的な論争が、安倍政権の「官製春闘」の中でどこかに消えてっしまったという感じを受けています。

そして今「新しい資本主義」が岸田政権から打ち出されましたが、岸田政権、経団連、連合の、三者の関係が、いかなる方向へ日本を引っ張るのか、試されるところではないでしょうか。

「新しい資本主義」が、GDPの過半を占める雇用者報酬(日本経済の賃金の総額)の中での格差化を促進するような賃金決定を容認するようなことは、まさかないと思いますが、何か違和感のある情報が多いので、大変気になっているところです。