中3少女の平和の詩、反響呼ぶ 沖縄慰霊の日に暗唱
山下龍一 2018年7月29日
6月23日の「慰霊の日」の沖縄全戦没者追悼式で、沖縄県浦添(うらそえ)市立港川中学校3年相良倫子(さがらりんこ)さん(14)が読んだ平和の詩「生きる」が、今も反響を呼んでいる。著名人から絶賛される一方、厳しい声もあった。相良さんは多様な意見が出た経験を糧に「もっと大きく物事を見られる人になりたい」と話している。
相良さんの元には「詩をもう一度読みたい」「感動しました」といった手紙やメールが全国から100通近く届いた。高齢の人が戦争体験をつづり、「平和であることは大事だと、また新たに気づかされた」と書いたものもあった。
自分の好きな沖縄の景色から書き始めた詩。戦争の景色は怒りの感情を出そうと考えた。放課後、国語の先生とマンツーマンで朗読の練習をした。
本番では6分半にわたり、原稿を見ることなく、力強い声で暗唱した。その様子が全国に放送された。
落語家の立川談四楼さんはツイッターで「胸を打たれた。これを本当の愛国心と言う」。ミュージシャンの後藤正文さんは、朝日新聞のコラムで「大人たちこそ、平和への願いを自らの言葉で発するべきだろう」と書いた。一方で「大人にやらされている」といった声もあった。
予想外の大きな反響。「私の詩に真剣に向き合ってくれた人がいて、伝わっていると感じて、ありがたかった。戦争と平和について考えるきっかけを作れたかな」と受け止めた。
演台に向かうときは足が震えた。そのせいか「きっとわかるはずなんだ。/戦争の無意味さを。本当の平和を」に続く「頭じゃなくて、その心で」という一節を飛ばしてしまった。「私と同じような普通の中学生でも、平和というのは、難しいことでもなんでもなくて、心で感じられるものとしてあるんだよということを伝えたかったのに、ショックで」と振り返る。
慰霊の日から1カ月。改めて自作の詩と向き合って、こう考える。「沖縄の風景だったり、悲しい過去の歴史だったりとかに、もう一度深く向き合って、私たちの世代が考え、つなげていかないといけない。次の世代に語り継ぐことが私たちの役目になると思うし、それがふるさと沖縄に対しての恩返しになるかな」(山下龍一)
「生きる」の全文
私は、生きている。/マントルの熱を伝える大地を踏みしめ、/心地よい湿気を孕(はら)んだ風を全身に受け、/草の匂いを鼻孔に感じ、/遠くから聞こえてくる潮騒に耳を傾けて。
私は今、生きている。
私の生きるこの島は、/何と美しい島だろう。/青く輝く海、/岩に打ち寄せしぶきを上げて光る波、/山羊(やぎ)の嘶(いなな)き、/小川のせせらぎ、/畑に続く小道、/萌(も)え出(い)づる山の緑、/優しい三線(さんしん)の響き、/照りつける太陽の光。
私はなんと美しい島に、/生まれ育ったのだろう。
ありったけの私の感覚器で、感受性で、/島を感じる。心がじわりと熱くなる。
私はこの瞬間を、生きている。
この瞬間の素晴らしさが/この瞬間の愛(いと)おしさが/今と言う安らぎとなり/私の中に広がりゆく。
たまらなく込み上げるこの気持ちを/どう表現しよう。/大切な今よ/かけがえのない今よ
私の生きる、この今よ。
七十三年前、/私の愛する島が、死の島と化したあの日。/小鳥のさえずりは、恐怖の悲鳴と変わった。/優しく響く三線は、爆撃の轟(とどろき)に消えた。/青く広がる大空は、鉄の雨に見えなくなった。/草の匂いは死臭で濁り、/光り輝いていた海の水面(みなも)は、/戦艦で埋め尽くされた。/火炎放射器から吹き出す炎、幼子の泣き声、/燃えつくされた民家、火薬の匂い。/着弾に揺れる大地。血に染まった海。/魑魅魍魎(ちみもうりょう)の如(ごと)く、姿を変えた人々。/阿鼻叫喚(あびきょうかん)の壮絶な戦の記憶。
みんな、生きていたのだ。/私と何も変わらない、/懸命に生きる命だったのだ。/彼らの人生を、それぞれの未来を。/疑うことなく、思い描いていたんだ。/家族がいて、仲間がいて、恋人がいた。/仕事があった。生きがいがあった。/日々の小さな幸せを喜んだ。手をとり合って生きてきた、私と同じ、人間だった。/それなのに。/壊されて、奪われた。/生きた時代が違う。ただ、それだけで。/無辜(むこ)の命を。あたり前に生きていた、あの日々を。
摩文仁(まぶに)の丘。眼下に広がる穏やかな海。/悲しくて、忘れることのできない、この島の全て。/私は手を強く握り、誓う。/奪われた命に想(おも)いを馳(は)せて、/心から、誓う。
私が生きている限り、/こんなにもたくさんの命を犠牲にした戦争を、絶対に許さないことを。/もう二度と過去を未来にしないこと。/全ての人間が、国境を越え、人種を越え、宗教を越え、あらゆる利害を越えて、平和である世界を目指すこと。/生きる事、命を大切にできることを、/誰からも侵されない世界を創ること。/平和を創造する努力を、厭(いと)わないことを。
あなたも、感じるだろう。/この島の美しさを。/あなたも、知っているだろう。/この島の悲しみを。/そして、あなたも、/私と同じこの瞬間(とき)を/一緒に生きているのだ。
今を一緒に、生きているのだ。
だから、きっとわかるはずなんだ。/戦争の無意味さを。本当の平和を。/頭じゃなくて、その心で。/戦力という愚かな力を持つことで、/得られる平和など、本当は無いことを。/平和とは、あたり前に生きること。/その命を精一杯輝かせて生きることだということを。
私は、今を生きている。/みんなと一緒に。/そして、これからも生きていく。/一日一日を大切に。/平和を想って。平和を祈って。/なぜなら、未来は、/この瞬間の延長線上にあるからだ。/つまり、未来は、今なんだ。
大好きな、私の島。/誇り高き、みんなの島。/そして、この島に生きる、すべての命。/私と共に今を生きる、私の友。私の家族。
これからも、共に生きてゆこう。/この青に囲まれた美しい故郷から。/真の平和を発進しよう。/一人一人が立ち上がって、/みんなで未来を歩んでいこう。
摩文仁の丘の風に吹かれ、/私の命が鳴っている。/過去と現在、未来の共鳴。/鎮魂歌よ届け。悲しみの過去に。/命よ響け。生きゆく未来に。/私は今を、生きていく。