昨日の東京新聞の「筆洗」の欄の記事です。アベ首相のハワイ訪問はいろいろ論評されていますが、私はこのコラムが短い文章の中に尽きると思いますので転載します。
沖縄の基地問題をはじめ、安保法制、原発、リニア、カジノ法、年金削減などなど、安倍首相は先ずは、国会の議席数に物を言わせて、強権的に国内政治を進めています。私は、安倍首相は足元の屋内問題でも、国民との「和解の橋」をかけるよう努力すべきだと思います。
フォークランド紛争の勝利に英国が沸いていた一九八二年の夏、カンタベリー大主教のロバート・ランシー氏が戦争終結への感謝の礼拝で語った言葉は、サッチャー首相を激怒させたと伝えられる
▼勝利を祝し、愛国心の尊さをうたい上げる。首相らは、そういう言葉を期待していた。だが、第二次大戦を将校として戦い、戦争の現実を目に焼き付けた大主教は、国民に「殺されたアルゼンチンの若い兵士のために祈ろう」と語り掛けた
▼「悲しみをともにすることが、戦い合った者を再び結び付ける力となるはずです。苦悩を分かち合うことが、和解への橋を架けてくれることでしょう」。それは「和解」のための祈りの言葉だった
▼日米開戦から七十五年。米大統領と真珠湾を訪れた安倍首相は「耳を澄まして心を研ぎ澄ますと、風と波の音とともに兵士たちの声が聞こえてきます」と語り、開戦の場となった美しい入り江を「和解の象徴」としようと語った
▼そんな言葉を、沖縄の人々はどう受け止めたろうか。辺野古の美しい入り江を埋め立てて新基地とする工事がおととい、再開された。耳を澄まして沖縄の声を聞こうとせぬ政府の姿勢に、翁長雄志知事は「沖縄県民を日本国民として見ていない」とまで言っている
▼あの戦争から今なお続く沖縄の苦悩を分かち合う。首相には、自ら架けるべき「和解への橋」がある。