みなさま。
今回は、原発の近くにおられる方、また近くで救援活動に従事されている方、
また東京など、一定の距離を持ったところにおられながら、飲料水などに
影響が出始めいてる方などを念頭において、今、何をすればいいかを
考察したいと思います。とくに半径30キロ以内で屋内退避されている方に、
支援物資と届けようとしている方がいると聞きましたので、それをも踏まえて
今回は被曝への気をつけ方、その目安としての被曝線量の見積もり方を
まとめます。
シーベルトとは何かを覚えよう
福島原発事故のより、放射能漏れが始まって以来、繰り返しマスコミで、
シーベルトという単位が使われていることはご存じだと思います。
シーベルトというのは放射線が人間に与える影響をあらわす数値です。
どれぐらいからが危険視されているのかというと、日本の法律では
一般人が浴びてもいいとされる許容量が年間1ミリシーベルトに定められて
います。これには宇宙から降り注いでいる放射線量年間2.4ミリシーベルトが
含まれていません。こうした自然界の影響も踏まえた上で、年間1ミリという
規制値が考えられているのです。
この年間1ミリが法的に設定されたものだということは重要です。
この法律は、原子力を推進してきた多くの人々も忠実に従ってきたものです。
安全の基準として、多くの人に支持されてきた数値だということです。
さて大事なことですが、これは1年間の値であるから、5年間では許容量は、
5ミリシーベルトになります。つまり時間の掛け算が必要なのです。この掛け算
によって被曝総量は計算されます。にもかかわらず、報道などではここが、
意識的にせよ、無意識的にせよ混同されてしまうことが多いです。
かりに1時間に1ミリシーベルトの線量がでているとすると、そこに10時間
いれば10ミリシーベルト被曝します。1日では24ミリシーベルトです。
シーベルトはこのように、その場で1時間あたりどれぐらい出ているかと
いうときと、人間が総量でどれだけ被曝したのかを表す場合とがあり、
この点をしっかり踏まえることが大切です。この間違い安さを利用して、
被曝の影響が少なめに強調されることもありるからです。
例えば、今、2号機の近くで、1時間あたり720ミリシーベルトの放射線が出ている
と見込まれています。見込みとは、この付近に近付いた作業員が、5分間で
60ミリシーベルトの被曝を受けたからです。ここから1時間では、60×12で、
720ミリシーベルトと推定されるわけです。
この720ミリシーベルトが、一般人が浴びる許容値の1ミリシーベルトと比較
されることがしばしばあります。そうすると、一見、放射線量が720倍で
あるかのように誤解されてしまいます。そのためこのような数字の並べ方を
している解説は要注意です。
実際には720ミリシーベルトは、1時間の値です。なので1年間になおすと、
8760をかけなければならないのです。そうするとこの値は6,307,200ミリ
シーベルトにもなります。つまり一般人の許容量の630万倍なのです。
ただしこれはその場でこの放射線を1年間浴び続けた場合の値ですが、
年間になおしてみると、危なくないとされる値の630万倍の放射線が今、
原発の周りで出ていることを知っておく必要があります。
それでは反対に年間1ミリシーベルトは1時間ではどれぐらいの値でしょか。
同じように8760で割ればいいわけですから、0.00011455ミリシーベルト、
したがって0.11455マイクロシーベルトであることが分かります。
この点から、お住まいの地域の放射線量が、時間あたり、この数値より
高ければ、1年間それが続くとすると、年間の被曝許容量を超えることに
なることが分かります。したがって、この1時間の数値は、その地域が、
安全か危険かの一つの目安になります。
この場合も、この数値が越えていてもそれが短い期間で収終息するならば
年間では1ミリに達しない可能性が高いです。
これを整理するために、昨日お送りした原発の半径30キロの被曝の値を
もう一度、とらえてみたいと思います。これは僕の説明の仕方では
誤解が生じるのではという指摘をうけたものです。まったくその通りで
申し訳ありませんが、その点の訂正の意味を込めて説明します。
ニュースにあったのは、原発から半径30キロ圏外で、放射性物質のヨウ素
が検出され、12日午前6時からから24日午前0時まで、屋外にいた場合の
合計で、身体に与える影響が100ミリシーベルト以上になったということでした。
これから考えると約12日間そこにいた人は、ヨウ素が出す放射線を100ミリ
シーベルト浴びてしまったことになります。1日あたりだと約8.3ミリ
シーベルトです。だいたい3時間で1ミリシーベルトの被曝を受けたことに
なります。ともあれこの地域は、身に着いた放射能を洗い落とす除染が
必要ですね。
ただこれはヨウ素だけに限ったことで、放射性物質は他にもたくさんあります。
セシウム、ストロンチウムなどなど非常にたくさんです。ヨウ素が検出された
ところでは、他のものも検出されることが多い。そのため、この地域が
1日あたり8.3ミリシーベルト被曝することが分かったのではなく、ヨウ素だけで
この値になることが分かったということになります。
合計線量がどれぐらいになったら避難した方がよいのか
1ミリ以上の被曝をさけることを目安に、どれぐらいの被曝があったら
避難を考えた方がよいのか。一つの目安が出されています。
(1) 1000マイクロSv/時に達したら、緊急脱出しなければならない
= 赤信号。
(2) 100マイクロSv/時に達したら、脱出の準備を始めた方が良い
= 黄信号。
(3) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、
300マイクロSv/時に達したら、緊急脱出しなければならない
= 赤信号。
(4) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、
30マイクロSv/時に達したら、脱出の準備を始めた方が良い
= 黄信号。
逆に言えば、(2)や(4)の1割以下(普通の人で10マイクロSv/時、
妊娠初期の人で3マイクロSv/時)なら安心して良い
(5) もしも原発の近くで50ミリSv/時を越えたら風下100km以内
(左右60度の扇形)の 人は緊急に屋内に退避し、100km以上でも
近くの放射能値情報に随時注意する
= 赤信号。
(6) もしも原発の場所で急に5ミリSv/時以上の上昇が見られたら、
風下100km以内(左右60度の扇形)の人はなるべく屋内に退避し、
100km以上でも近くの放射能値に随時注意する
= 黄信号。
これは山内正敏さん(スウェーデン国立スペース物理研究所(IRF))が
示して下さったものです。詳しくは以下のサイトを参照してください。
http://www.irf.se/~yamau/jpn/1103-radiation.html
これは線量との関係から考えられた一つの目安ですが、ここでも
被曝量は総量として数えることを念頭においてください。線量はだんだんと
上がってくる場合もあります。したがって、100Sv/時に達した
ときは、累計では100マイクロシーベルト以上、浴びている
可能性が高いです。
また10Sv/時だったら安心とありますが、その状態が100時間
続けば、被曝総量は1ミリシーベルトになってしまいます。
これを念頭において、総量で被曝量が1ミリにならないように
注意してください。
またこの目安には、原発が炉心崩壊などの大事故を起こす
ことは想定されていません。そのときは放射線量が急激に
上がるので、この想定は役に立ちません。
大事故の報が入ったら、風の向きを確認して、ともかく遠くに
移動するのが賢明です。
その点では、可能なら放射線量が高くならないうちに避難した方が
良いと僕は思います。しかしその場合、避難先の有無、家族や
経済事情などいろいろな要素が判断材料になってきますし、なかなか
動けない方もおられると思います。
そのような方が、どうしても移動する必要のある場合の目安として
これをおさえていただけるとよいと思います。
なおこうした被曝線量に関して、非常によく内容がまとまっている
サイトを見つけましたので、紹介します。
この方は、福島原発では、炉心が格納容器の外に飛び出すことは
ないと考えられていますが、この点では、僕は設計者の後藤政志さんら
の見識を尊重しているので、意見が違います。
しかし放射線を扱うプロとしての、この方の放射線量と被曝に関する
見識と説明力は素晴らしいものだと思いました。大変、勉強になりました。
できれば要約を作りたいと思っていますが、とりあえずはこれを参照して
下さい。逃げられない場合はどうするのかなども考察してあり、読み応え
があります!!
武田邦彦
http://takedanet.com/
以上です。