「もう、私たちダメね。別れましょう」
冷然とした態度で告げると、女性はそのまま席を立った。
女性からのプレゼントである、ダイヤカットのライターがやけに重く感じられた。
そしてその銀色がやけに冷たく感じる。 . . . 本文を読む
思えば順風満帆の人生だった。世間に名の通った商事会社で、熾烈な出世レースに
勝ち抜く為に、常に走り続けていた。充実した毎日だった。そんな男が犯したミス。
ミスというにはあまりにも間の抜けた事柄だった。 . . . 本文を読む
重苦しい空気が、また男を襲った。振り払うように時計を見た。五時四十分過ぎを指している。ほんの数分のことではあったけれども、長い時間に感じた。かつてあれ程に欲しかった時間が、今は煩わしい。 . . . 本文を読む
暫く沈黙を続けながらネオン街を歩き、外れの小さな屋台でラーメンをすすった。
盛んに「おいしい、おいしい」と頷きながら、パクつく娘だった。
体も温まり、また二人して当てもなく歩き始めた。五分ほど歩いたろうか、突然娘は
短く言った。 . . . 本文を読む
そろそ秋の涼風が身にしみる。車の流れが止まり、通りを横切ろうと右足を踏み出した時、背後から鋭い声がした。
「待って! おじさん」
黒いマントに赤い縁取りのついたコートの女性だった。 . . . 本文を読む
「そんなことはない。初めはみんなそうなんだよ。ユキオ君だっけ。おそらくユキオ君にしても初めてのことで、どうリードしていいのかわからなかったんだ。おじさんだって最初はそうだった。 . . . 本文を読む
空になったコップを見つめながら、「内緒なんだけど」と、少女は小声で話し始めた。
「こんなこというと笑うかもしんないけど、あたい、まだバージンなんだ。
同じ部屋の女の子は、みんな誰かにあげたらしいんだけど。
あたいはまだなんだ。それで、あたいも誰かにあげなくっちやと思って。
ユキオにね、あげようかなあって思って。
べつにハンサムでもないんだけど、すっごくジョーダンがじょうずでね、いっつも笑いこ . . . 本文を読む
四つ角のビル前に所在なく立ちすくむまだあどけなさの残る少女に、赤いほほと真っ赤な口紅を無造作に塗りたくった唇に郷愁を覚え思わず声をかけていた。
連れだって喫茶店のドアを押した。
. . . 本文を読む
時代としては、昭和の…そうですねえ。
四十年代の中頃、いざなぎ景気が終わりとなった頃のお話です。
同期の先陣を走っていた男が、ひとつのミスで転落していく様と、
交際中だった女性との別れが訪れ、新たな恋に走りはしたものの…。
麗子とミドリ…。
頭を空っぽにして、どうぞ二人の女性をみてくださいな。 . . . 本文を読む