昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[舟のない港](十六)

2016-03-18 08:54:42 | 小説
 いっそのこと、会社を辞めるか。会社にしても、それを望んでいるだろう。 そんな思いが頭を過ぎる。けど‥‥、と思い直す男だ。 かつての上司である課長の、「おおや、顔色がいいな。結構、結構」の嫌みも辛い。 . . . 本文を読む

[舟のない港](十五)

2016-03-17 09:05:53 | 小説
 その夜、部屋の灯りの下で二人の名刺を交互に見ながら、「ミドリ、ミドリ」と呟いてみた。 学生時代に思い浮かべていた平井ミドリとは違い、意外な子供っぽさに男は半ば酔いしれた。 青年時代に戻ったような気持ちだった。  時計は十時半を指している。 ベッドに寝転がりながら、窓に目をやった。 全くの闇夜だった。 そろそろ小降りになったらしく、雨音が小さくなっている。 明日には晴れそうな気配だ。  傍らの . . . 本文を読む

[舟のない港](十四)

2016-03-16 09:17:39 | 小説
「いいや、いいんだ。もう慣れっこだよ」  男は、彼自身意外な程に快活に笑った。久しぶりに屈託なく笑った。 名刺交換の折りには、怪訝そうに「何とお読みするのですか?」と聞かれる度に、コンプレックスを感じる名前が、今だけは誇らしかった。 . . . 本文を読む

[舟のない港](十三)

2016-03-15 09:08:28 | 神社・仏閣
男は気を取り直すと、今朝買い求めたスポーツ新聞を背広の下に巻き付け、身体を冷やさないようにした。 先年亡くした祖父の言葉を思い出したのだが、物は試しと雨の中を駆けだした。 できるだけビルに沿って走り、濡れないようにした。 地面を見ながら、右に折れた。 体が少しビル際から離れた途端、前方を見ていなかった男は、信号待ちの通行人に接触してしまった。 「いや、これは失礼! 前を見ていなかったもので…」 . . . 本文を読む

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