人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

グールド対バーンスタイン~ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」を聴く

2011年09月10日 06時30分56秒 | 日記
10日(土)。中川右介著「二十世紀の10大ピアニスト」で紹介されていたピアニスト:グレン・グールドがレナード・バーンスタイン指揮ニューヨークフィルと組んで演奏したブラームスの「ピアノ協奏曲第1番」のCDを購入しました.これは1962年4月6日のニューヨーク,カーネギー・ホールでのライブ録音です

CDの冒頭に、演奏を前にバーンスタインが聴衆に向けて話したスピーチが収録されています.ほぼ次のような内容です.

「心配しないでください.グールドはちゃんと来てますから.これから皆さんがお聴きになるのは,言ってみればかなり正統的とは言いがたいブラームスのニ短調協奏曲です.それは私がこれまでに聴いたことのあるどの演奏とも全く違うもので,テンポは明らかに遅いし,ブラームスが指示した強弱から外れている部分も多々あります.実は私はグールド氏の構想に完全に賛成というわけではありません.私がこの曲を指揮するのは,グールド氏は大変に確かな,まじめな芸術家ですから,彼が真剣に考えたことは何であれこちらもまじめに受け取る必要があるということと,今回の彼の構想はとても面白いものなので,皆さんにもぜひ聴いていただきたいからなのです」

「それでも昔からの疑問がまだ解決されていません.つまり,協奏曲にあって誰がボスなのか?独奏者なのか,それとも指揮者なのか?もちろんその答えは,ある時は独奏者,ある時は指揮者という具合に,場合によって違います・・・・・・今度ばかりは,2人の意見の食い違いが非常に大きいので,このささやかな説明をしようと思い立ったわけです・・・・・冒険精神にのっとって,これから演奏したいと思います」

さて,次にいよいよブラームスの「ピアノ協奏曲第1番」の演奏の始まりです.第1楽章「マエストーソ」.冒頭のティンパニの連打を伴った力強い音楽が鳴ります 第1印象は,「なんだ,この遅さは」というものです.こんなにタラタラしていたら音楽が止まってしまうのではないかと心配になってきます.”もどかしい”と言ったらいいのでしょうか.バーンスタインは「第1楽章だけで1時間はゆうにかかる解釈だった」と回想しているそうです

ところが,第2楽章「アダージョ」,第3楽章「ロンド」と進むにつれて,それ程遅いという違和感がなくなります.そのテンポ設定に説得力があるのです CDジャケットの解説によると,この曲の演奏の最短記録はラザール・ベルマンとラインスドルフによるもので44分,これに対しこの演奏は53分10秒.しかし,バーンスタインがツィマーマンと組んだ演奏は54分と,こちらの方が長いのです

この演奏を2回,3回と聴いて気がつくのは、第1楽章冒頭はあくまでオーケストラによる”前奏”であって、ピアノはまだ出てきていないということです。われわれがこの演奏を”異常に遅い”と感じるのはこの”前奏”を聴いて感じることなのです。冒頭部分で”遅い演奏”に慣れてしまってから、グールドのピアノが出てきても、われわれの耳は最早”異常に遅い”とは感じなくなっているのです。ピアノが出てきた時には、これこそが”正当な”演奏スタイルなのではないか,とさえ思えてきますバーンスタインは、グールドの罠に見事にはまったのではないのでしょうか。グレン・グールドというピアニストはただ者ではない,とあらためて感じました

   
コメント
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