27日(火).今週に入って急に涼しくなりました.考えてみれば今週の土曜日はもう10月
昨日は半袖でしたが,今日は長袖で出勤しようと思います.
トーマス・マンの「ベニスに死す」(集英社文庫)を読み終わりました
この小説はイタリアの名匠ルキーノ・ヴィスコンティが映画化して有名になりました.この映画ではグスタフ・マーラーの交響曲第5番第4楽章「アダージェット」が全編を通して通奏低音のように流れていました
物語は「第一次世界大戦前のある年の初夏,作家グスタフ・アッシェンバッハは静養に訪れたベニスでポーランド人の少年と出会い,その美しさに魅入られるまま,コレラが伝染中の街にとどまって命を落とす」というものです
「午前中の困難で危険な,いままさに極度の慎重と周到,意志の強烈と正確を要求する創作によって過度に昂奮していた彼は自分の内面の生産的な創作衝動,キケローが雄弁の実質をなすものとしたあの”精神の不断の運動”の名残りを昼食後にも鎮めることができなかったばかりか,彼の精力がしだいに消耗されていくいま,日中にいちどはどうしても必要な,心の重圧を軽減してくれる午睡に身を委ねることもできなかった」
これは小説の冒頭5行目からの文章ですが,この長さでワン・センテンスです
小説はこの調子で続きますが,いったい何を言いたいのかさっぱり分かりません. 翻訳のし方にも問題があるのかも知れませんが,限度があるでしょう.文庫本で136ページと短い小説なので,あっという間に読み終わってしまいますが,正直しんどかったです
映画を観た方がよほど分かりやすいと思います.
巻末の「解説」でドイツ文学者の池内紀さんがおもしろいエピソードを書いています.
「1964年,ノーベル賞作家トーマス・マンの死後9年のことだが,ポーランド貴族の末裔でタデウスという人物が,自分は小説「ベニスに死す」のモデルだと名のり出た.ドイツの新聞が大きくとりあげ,すぐさまマン研究家がホーランドへ赴き,入念に調べたところ,古い日記や黄ばんだ写真によって事実だと判明した.少年に虚弱体質を見てとり,長生きしないだろうと予測した小説のくだりはまちがっていた.かつての天使のような美少年は,シワ深い,リューマチ病みの老人になっていた」
現実とは残酷なものです. ヴィスコンティの
「ベニスに死す」は10月1日(土)から銀座テアトルシネマで上映されます.この映画が最初に公開されたのは小説が現れてから約60年後の1971年でした.今はその40年後ですから,小説の世界から100年後ということになります.今回はニュープリントでの上映とのこと.万難を排して観に行きたいと思います

ところで,今日はフランスの名ヴァイオリニスト,ジャック・ティボー生誕の日です.1880年9月27日のことでした.彼は20世紀前半のフランス最高のヴァイオリニストとして高い評価を得ています.ピアノのマルグリット・ロンの名とともに,世界的な「ロン・ティボー国際コンクール」にその名をとどめています.また,ピアノのコルトーとチェロのカザルスとともに「カザルス・トリオ」を結成し一世を風靡しました.LPかCDで彼らの演奏を持っていたと思うのですが,探すのが面倒なのでやめました