14日(土)その2。昨夕、サントリーホール「ブルーローズ」(小ホール)で、サントリーホール・チェンバーミュージックガーデン「キュッヒル・クァルテット ベートーヴェン・サイクルⅠ」を聴きました プログラムは、ベートーヴェンの①弦楽四重奏曲第1番ヘ長調、②同第7番ヘ長調「ラズモフスキー第1番」、③第12番変ホ長調 ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の初期、中期、後期からそれぞれ1曲を選んだプログラムです。クァルテットのメンバーは第1ヴァイオリン=ライナー・キュッヒル、第2ヴァイオリン=ダニエル・フロシャウアー、ヴィオラ=ハインリヒ・コル、チェロ=ロベルト・ノーチです
自席はLB3列5番、左ブロック左から3番目です。ステージ上の椅子の位置を見ると、壁に近い位置にセッティングされています この日の午前中に聴いたクァルテット・エクセルシオは、もっと真ん中に近い位置だったように記憶しています 音の反響を計算してのことでしょうか?4つの椅子のうち、一番右側の椅子の高さが圧倒的に高くセッティングされています 楽器で言えばチェロしかないでしょう。4人が登場して、そのことが判明しました。向かって左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという態勢をとります
最初に演奏するのは弦楽四重奏曲としては第1曲目の作品18-1番です 冒頭の動機を聴いただけで、ベートーヴェンのこの分野に乗り込む意気込みを感じさせます これは最後まで変わりません。終始キュッヒルの主導で演奏が展開しますが、彼は怖い顔をして演奏しています。それに習ってか、他のメンバーも怖い顔でベートーヴェンに大曲に対峙します
キュッヒルは演奏が終わってからもニコリともせず軽く一礼して舞台袖に引っ込んでいきます。宿に帰ったら日本人の奥さんに「あ~た、そんなに気難しい顔してないで、もう少し笑顔を見せたらどうなの~」とか言われているのではないかな、なんて勝手な想像をしてしまいます
とても残念だったのは、第2楽章のアダージョの演奏中に、センターブロック後方から「トゥルルルル・・・・・」という小さな連続音が聴こえてきて、続けて着信メロディーが聴こえてきたのです あれほど、事前放送でケータイの電源を切るように注意を呼び掛けているのに、まだ居るのですね。こういう人種は指定が懸念されているニホンウナギのように「絶滅危惧種」だと思っていましたが、まだ滅亡していないようです あの音は明らかに真剣な表情で「アダージョ」を演奏している4人の演奏者たちの耳に達していました 私などは、彼らが途中で演奏を止めてしまうのではないかと心配したくらいです ウィーンからわざわざ日本の聴衆のためにやってきた4人のアーティスト達に申し訳ない思いでいっぱいです
2曲目に入ります。中期の第7番は「ラズモフスキー第1番」と呼ばれています。ロシアのラズモフスキー伯爵から作曲を依頼されたことから、そのような愛称が付けられました 第1楽章冒頭は懐が深い英雄的と言ってもよい堂々たる音楽です。ベートーヴェンはいいな、とあらためて思います
休憩後は後期の第12番です。この曲は10年以上も弦楽四重奏曲から離れていた晩年のベートーヴェンが、第9初演後に再度このジャンルに取り組んだ最初の作品です。第9初演頃と言えば、ベートーヴェンはほとんど耳が聞こえなかったのではないか、と思います。それでもなお、意欲的に弦楽四重奏曲の作曲に取り組むのですから、凄い生命力です 第1楽章の冒頭を聴くと、ただならぬ強い意志のようなメッセージを感じます 4人の演奏者たちは相変わらず怖い顔で演奏していますが、聴いていて「自分は今、世界最高級のベートーヴェンのクァルテットを聴いているのだ」ということを実感します
会場一杯の拍手 に、何度もステージに呼び戻された彼らは、4度目に出てきた時に着席しました。予想外のことが起こりました。何とまさかのアンコールが演奏されます ギャラップのような速いパッセージで駆け抜けていく、言わば疾風怒濤の曲想です 作曲者が分からなかったのですが、あとでロビーの掲示に「ハイドン作曲、弦楽四重奏曲第74番ト短調作品74-3『騎士』から第4楽章」とありました。この演奏でハイドンを見直しました。それにしても凄い演奏でした