25日(水)。昨夕、大手町のよみうり大手町ホールで「ストラディヴァリウスの響き」公演を聴きました 演奏はヴァイオリン=レイ・チェン、チェロ=石坂団十郎、ピアノ=江口玲です。プログラムは①サン=サーンス「序奏とロンド・カプリチオ―ソ」、②レスピーギ「アダージョと変奏」、③オネゲル「ヴァイオリンとチェロのためのソナチネ」、④ヘンデル/ハルヴォルセン「パッサカリア・ト短調」、⑤チャイコフスキー「ピアノ三重奏曲イ短調”偉大な芸術家の思い出に」です
よみうり大手町ホールで聴くのは初めてです。今まで「読売ホール」と言えば有楽町駅前のBicカメラ最上階にあるホールのことでした 新しく出来た「よみうり大手町ホール」は読売新聞社の新社屋の中にあります。今年5月の3連休に国際フォーラムを中心に開かれたラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンでは、「読売ホール」と「よみうり大手町ホール」も会場になっていたため、会場を間違えて慌てた聴衆が少なからずいたとのことです 多分来年はこういうことはないでしょう
エスカレーターで5階まで上がったところがホールの入り口です。ホールは全てが木から出来ており、落ち着いた雰囲気を醸し出しています 収容人員501席は内幸町の飯野ホールとほぼ同じです。ホール階上のこじんまりとしたドリンク・コーナーでコーヒーを飲みましたが、紙コップとは言え300円は良心的です
会場入口で配られたプログラムを見ながら熱いコーヒーを飲みました。54ページ・オールカラーの立派なプログラムで、「主催:読売新聞社、特別協力:日本音楽財団」とあります。2日間のプログラム、出演者の略歴、主催者側のあいさつがあり、残りは35ページにわたり日本音楽財団が保有するストラディヴァリウス等の名器20挺が写真入りで紹介されています
保有楽器と貸与者のリストを見ると、パガニーニ・クァルテット(ヴァイオリン2挺、ヴィオラ、チェロ)という4挺セットがかつて東京クァルテットに貸与されていたのが、現在はハーゲン・クァルテットに貸与されていることが分かります また、日本人では、ヴァイオリンの「ドルフィン」が諏訪内晶子、「ジュピター」が後藤龍(その前は姉の後藤みどり)、「ウィルヘルム」が渡辺玲子に貸与されていることが分かります。いかにこの財団がお金持ちか分かりますね
と、そこまでは良かったのですが、どんなに薄いプログラムでもほとんど例外なく載せられているはずの情報が載っていません。「曲目解説」がないのです この日のプログラムの中で、サン=サーンスの「序奏とロンド~」やチャイコフスキーの「ピアノ三重奏曲」は有名な曲なのである程度は分かりますが、レスピーギの曲やオネゲルの曲などはこの日初めて聴く聴衆がほとんどではないか、と思います 54ページもあるプログラムで曲目解説が一行もないというのは、クラシック音楽界では例がないのではないかと思います
もし、主催者側が「『ストラディヴァリウスの響き』というタイトルを冠したコンサートなのだから、曲目解説などなくても演奏曲目は分かるクラシック音楽好きしか来ないはず。曲は何でもいい。ストラディヴァリウスの音を聴いてもらえばいいのだ。したがって解説はいらない」と思っているとしたら、それは大間違いです そういう居丈高のスタンスを取る限り、クラシック人口は減りこそすれ、増えることはないでしょう。主催者側の趣旨を訊きたいところです
ヴァイオリンのレイ・チェンは1989年台湾生まれ。2008年ユーディ・メニューイン国際コンクール優勝、2009年エリザベート王妃国際コンクールで史上最年少で優勝するなど輝かしい履歴の持ち主です 使用楽器は日本音楽財団から貸与されている1715年製ストラディヴァリウス「ヨアヒム」。チェロの石坂団十郎は1979年、ドイツで日本人の父親とドイツ人の母親のもとに生まれました。2001年ミュンヘン国際音楽コンクールで優勝するなどの実力者です 使用楽器は1730年製ストラディヴァリウス「フォイアマン」。江口玲は1986年ヴィ二アフスキー国際ヴァイオリン・コンクールで最優秀伴奏者賞を受賞するなど、来日アーティストの伴奏でお馴染みのピアニストです
自席は16列6番、センターブロック左通路側です。会場は文字通り満席。最初のサン=サーンス「序奏とロンド・カプリチオ―ソ」を演奏するためレイ・チェンと江口玲が登場します。いやあ、さすが「ヨアヒム」の美音は会場の隅々まで響きわたって行きます ピアノに目を向けると、譜面台のところに液晶画面が見えます。どうやら江口氏は電子楽譜を使用しているようです。譜めくりの女性はキーをポンを押すだけです 昨年のサントリーホール・チェンバーミュージックガーデンではボロメーオ・クァルテットがマック・ブックを見ながら演奏していました
2曲目のレスピーギ「アダージョと変奏」は江口玲の伴奏でチェロの石坂団十郎が叙情的なメロディーを奏でます。江口はこの曲以降、電子楽譜でなく普通の楽譜で演奏するようです。「フォイアマン」の音には伸びがあります
3曲目のオネゲル「ヴァイオリンとチェロのためのソナチネ」はレイ・チェンと石坂との掛け合いで、フランスのエスプリを感じさせる演奏です
4曲目のヘンデル/ハルヴォセン「パッサカリア・ト短調」も二人による演奏ですが、これは火花が散るような激しい協奏、いや競争です
休憩後はこの日のメイン・ディッシュ、チャイコフスキー「ピアノ三重奏曲イ短調”偉大な芸術家の思い出に”」です ピアノの序奏に続いてチェロが主題を奏で、次いでヴァイオリンが入ってきますが、この冒頭は感動的です この主題は後にも出てきますが、同じ作曲家の交響曲第5番を思い起こします。この曲も同じ主題が後に出てきます。まったく印象を変えて
3人の演奏を聴いていて感じたのは、このコンサートの主眼がストラディヴァリウスの音を堪能することにあるので、ヴァイオリンとチェロの音の素晴らしさですが、私が一番感心したのは江口玲のピアノです この人のシュアで安定したピアノが控えているからこそ、2人の弦楽奏者の演奏が生かされたのだと思います。素晴らしいピアニストです
この日の演奏会はストラディヴァリウスの美しい音色が十分楽しめた公演でしたが、併せて江口玲の素晴らしさを再認識したコンサートでもありました