16日(月)。昨日、サントリーホール「ブルーローズ」(小ホール)で、「キュッヒル・クァルテット・ベートーヴェン・サイクルⅢ」を聴きました プログラムは①弦楽四重奏曲第3番ニ長調、②同第9番ハ長調”ラズモフスキー第3番”、③同第14番嬰ハ短調です 本当はサイクルⅠからⅥまですべて聴きたいのですが、他のコンサートの予定が入っていて聴けません。来年からは6月の日程はチェンバーミュージックガーデンのために空けておこうかと思ったりします
キュッヒル・クァルテットはウィーン・フィルのコンサートマスター、ライナー・キュッヒルを中心にウィーン・フィルのメンバーから成ります キュッヒルと第2ヴァイオリンのダニエル・フロシャウアー、ヴィオラのハインリヒ・コルがオーストリア出身、チェロのロベルト・ノーチがハンガリー出身です
自席はLb1列9番、左ブロックの右から2つ入った席です。やや左とはいえ最前列なので4人の奏者がよく見えます。会場は満席
この日のプログラムも初期、中期、後期から各1曲が選ばれています。最初に演奏されるのは第3番ニ長調の四重奏曲です 4人が登場しますが、キュッヒルだけが相変わらず怖い顔をしています。「おれは、これからベートーヴェンを演奏するんだ」という覇気が漲っています。近くで見ると、かのドイツの巨匠・指揮者ウィルヘルム・フルトヴェングラーによく似ています キュッヒルの方が若干丸みを帯びていますが
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲、とくにこの日演奏される第14番など後期の傑作を聴く際には、予習が不可欠です 予習なしで聴くのは、私のような素人には致命的です この日の3曲はアルバン・ベルク弦楽四重奏団のCDで予習しておきました 少なくとも全体の流れは把握できた上で本番の演奏を聴くことができます
第3番はこじんまりした作品ですが、ベートーヴェンらしい曲想に溢れています キュッヒル・クァルテットは初期の作品だからといって決して手を抜きません。真剣そのものの表情で曲に対峙します
2曲目は中期の傑作、第9番ハ長調です。「ラズモフスキー」第3番と呼ばれていますが、ロシアのラズモフスキー伯爵から依頼されて作曲した3曲のうち最後の曲です 第1楽章は神秘的とも言える短い序奏に続いて雄渾な音楽が展開します。第2楽章はチェロによるピチカートが印象的ですが、並みの演奏家だと単に弦を弾いているだけという感じなのに、ノーチのピチカートは音楽的に響きます 演奏中にヴィオラのコルがチェロのノーチに微笑みかけると、ノーチが微笑み返すというシーンが見られました 強い信頼関係が垣間見られるようで微笑ましく思いました。第3楽章に続いて第4楽章では力強くも小気味の良いフーガが絶え間なく演奏されますが、これぞベートーヴェンの真骨頂でしょう 聴いている方も思わず手に汗を握ります
休憩後は後期の傑作、第14嬰ハ短調です 通常4つの楽章で構成する弦楽四重奏曲の中で、この作品は7つの楽章から成り、異彩を放っています しかも7つの楽章は休むことなく連続して演奏されます。第1楽章は深いところから聴こえてくるようなフーガが展開します 第2楽章のロンドではヴィオラとチェロがお互いにニコリとして「いいねえ、このメロディーは」「そうだねえ、最高だね」と会話しているように見えました。第3楽章は第4楽章への序奏と考えられています。その第4楽章は穏やかな変奏曲 続く第5楽章はスケルツォですが、聴いていると、ベートーヴェンはここで遊んでいるな、と思わずニヤッとしてしまいます
第6楽章は長いアダージョの序奏で、第7楽章はベートーヴェンの強い意志を感じさせる推進力に満ちた音楽です キュッヒル・クァルテットは「これがウィーンのベートーヴェンだ」と言わんばかりに熱い演奏を展開します
会場一杯の拍手とブラボーに、アンコールを演奏しました。軽快な音楽はハイドンだろうと思って聴いていましたが、後でロビーの掲示で確認したら、「ハイドン作曲、弦楽四重奏曲第73番、作品74-2より第4楽章」とありました ハイドン、イイですね 世界最高峰の弦楽四重奏団のベートーヴェンを聴けるというのは本当に幸せなことだと思いながら家路につきました