7日(火)。わが家に来てから181日目を迎え、世間に顔が広くなったモコタロです
顔が広くなったって? ただ顔がデカいだけだよ
閑話休題
5日の日経朝刊・読書欄の「リーダーの本棚」で、4月1日から東京都交響楽団の音楽監督に就任した大野和士を取り上げていました 大野氏は現在フランス国立リヨン歌劇場首席指揮者で、9月からはバルセロナ交響楽団音楽監督にも就任します 職業がら「音楽につながる愛読書が多い」というのは分かるような気がしますが、カズオ・イシグロの「日の名残り」を座右の書の一つとして掲げ、”これほど静かな小説を知りません”と語っています 私はイシグロの「わたしを離さないで」を読みましたが、得体の知れないものが静かにヒタヒタと迫ってくる怖さを感じました
ところで、「今は飛行機の中でが読書の時間。ピアノを弾きながら読む癖もあります」という文章で、ハタと立ち止まりました まさか文字通り「ピアノを弾きながら」本を読んでいる訳ではないでしょう。「譜面立てに楽譜の代わりに本を置いて、それを読みながらベートーヴェンのソナタを弾くシーン」を頭に思い浮かべてみましたが、あり得ません いくら世界に通用する優秀な指揮者であっても、そんな芸当ができる訳がありません 大野ではなくオーノ― やっぱり、ピアノを弾く合い間に本を読むということでしょうね
も一度、閑話休題
昨夕、サントリーホールで「トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーン」の東京公演を聴きました プログラムは①モーツアルト「セレナード第6番ニ長調”セレナータ・ノットゥルナ”K.239」、②フンメル「トランペット協奏曲ホ長調」、③ショパン「『ドン・ジョバン二』の『お手をどうぞ』による変奏曲変ロ長調」、④モーツアルト「フルートと管弦楽のためのアンダンテK.315」、⑤ベートーヴェン「交響曲第2番ニ長調」です。ソリストは②のトランペットがハンス・ペーター・シュー、③のピアノが菊池洋子、④のフルートがエルヴィン・クランバウアーです
このオーケストラはウィーン国立歌劇場、ウィーン・フィルのメンバーを中心に日本で演奏するために臨時に編成されたオケで、30名のメンバーで構成されています 芸術監督は元ウィーン・フィルのソロ・クラリネット奏者ペーター・シュミ―ドルです。なお30名のうち4人が女性です
自席は1階19列27番。センターブロック右通路側席です。会場は9割方埋まっている感じです 拍手の中、メンバー全員がステージに登場、立ったまま「トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーン」のための前奏曲『イントラ―ダ』を演奏します これはモーツアルトの交響曲第39番変ホ長調K.543の第3楽章「メヌエット」のメロディーをアレンジしたもので、祝祭感あふれる曲です
一旦管楽器奏者が舞台袖に引き上げ、ティンパ二奏者と弦楽奏者が残ります。1曲目はモーツアルトの「セレナード第6番ニ長調”セレナータ・ノットゥルナ”K.239」です オケは左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスという配置です。センター後方にティンパ二が構えます
「セレナータ・ノットゥルナ」とはイタリア語で「夜のセレナード」を意味します。モーツアルトが20歳の時に生まれ故郷ザルツブルクで作曲されました
18人のメンバーで演奏しますが、指揮者がいないため、コンマスのフォルクハルト・シュトイデ(ウィーン・フィルのコンマス)のリードで演奏します。第1楽章「行進曲」はティンパ二と弦楽器の対話が楽しい曲想です 全体的に優しく愛らしい曲です。第2楽章と第3楽章でのコンマスのシュトイデ、第2ヴァイオリンのペーター・ヴェヒター、ヴィオラのエルマー・レンダラ―による三重奏はなかなか聴かせました
管楽器奏者が加わり、2曲目のフンメル「トランペット協奏曲ホ長調」の演奏に移ります。ソリストのハンス・ペーター・シュー(ウィーン・フィルのソロ・トランペット)が中央にスタンバイします。シュトイデの合図で第1楽章が勇ましく開始されます 序奏がかなり長く、主役のトランペットはなかなか登場しません。モーツアルトのピアノ協奏曲もそうですね シューは軽快に演奏を展開します。第3楽章はロンドですが、ほとんどギャロップと言ってもよいくらい疾走します。スッキリした良い演奏でした
ピアノが中央に運ばれ3曲目のショパンの「『ドン・ジョバンン二』の『お手をどうぞ』による変奏曲変ロ長調」に備えます。ソリストの菊池洋子が白の鮮やかなドレスで登場、コンマスに握手を求めます するとシュトイデは、どさくさに紛れて菊池の手にキスをします。菊池は演奏前の思わぬ展開にニコッと笑顔を見せ、ピアノに向かいます この曲にピッタリのシチュエーションでした。さしあたりシュトイデがドン・ジョバンニで、菊池がツェルりーナといったところでしょうか
この曲の主題はモーツアルトの歌劇「ドン・ジョバンニ」の第1幕で、女性好きの騎士ドン・ジョバンニと結婚式を控えた村娘ツェルりーナとで歌われる二重唱です 菊池は速いパッセージも、ゆったりしたパッセージも自由自在に”優雅に”演奏し聴衆を魅了しました 終演後、菊池とシュトイデはハグをしてお互いを讃え合っていましたが、シュトイデの斜め後ろにいるオレアダ・シュトイデは奥さんでしたよね、確か まあ、いいか。菊池がシュトイデに、オケのメンバーも立たせるように促しますが、「いえ、拍手はあなたに贈られているのですよ」と言わんばかりの態度をとっていたかと思うと、菊池が会場に一礼している間にちゃっかりメンバーを立たせてニコニコしていました この「一人時間差攻撃」が何ともシュトイデらしくて思わず笑ってしまいました ウィーン・フィルのコンマスという立場でありながら、こういう茶目っ気のあるキャラの持ち主であるシュトイデは最高です 昨年、彼の主宰するシュトイデ弦楽四重奏団のコンサートを聴きましたが、また来てくれないかな、と思います
休憩後の最初の曲はモーツアルトの「フルートと管弦楽のためのアンダンテ ハ長調K.315」です この曲はアマチュア音楽家のド・ジャンから依頼されて作曲したものです。ソリストのエルヴィン・クランバウアー(ウィーン交響楽団ソロ・フルート)が登場、優雅にゆったりと美しい音色で演奏します。最後のカデンツァは見事でした 聴いているうちに、モーツアルトは別のフルート協奏曲の第2楽章としてこの曲を作曲したのではないか、と思いました
最後の曲はベートーヴェンの交響曲第2番ニ長調です。シュトイデの合図で第1楽章「アダージョ~アレグロ・コン・ブリオ」が開始されます。この楽章は「躍動感溢れる演奏」です とても30人で演奏しているとは思えないほど迫力に満ちています 第2楽章「ラルゲット」は一転、弦と管の美しいハーモニーが印象的です。最後の第4楽章「アレグロ・モルト」は怒涛の快進撃です
鳴り止まない拍手にワルトトイフェルのワルツ「スケートをする人々」をアンコールに演奏しましたが、メンバーの面々は「われらがウィンナ・ワルツを聴いてくれ」と言いたげな表情で、情緒豊かに演奏し拍手喝さいを浴びました 正確に言えば、ワルトトイフェルはフランス人なので「ウィンナ・ワルツ」ではないのですが、細かいことを抜きにして楽しめました 彼らは来年もまた来日するでしょうから絶対に聴きに行きます