2日(金)。日本経済新聞朝刊 最終面のコラム「私の履歴書」でイタリアの指揮者リッカルド・ムーティの連載が始まりました 「私の履歴書」は政治、経済、文化、スポーツなど各界のトップランナーの半生を紹介するコラムです 海外の指揮者が取り上げられるのは初めてかもしれません 昨日の第1回では、自らの生い立ちや日本との関係、指揮者の役割などについて語っています 超略すると以下の通りです
「7月で81歳になった。10代までは南イタリア、20代からはミラノで過ごした 1950年代、60年代は日本という国は我々イタリア人にとっては夢の国だった アジアの中でも中国やインド、韓国とは違う特別の国という意識を持っていた 日本には何度も訪れた。1年間に3度来たこともある。ウィーン・フィルとの来日公演だけでも5回、ミラノ・スカラ座とのオペラ公演で4回、各地で数多くのコンサートを指揮した このほか、フィラデルフィア管弦楽団、ウィーン国立歌劇場、ローマ歌劇場、シカゴ交響楽団とも来日公演を行い、熱烈な歓迎を受けた 最近は素晴らしい聴衆とともに日本の若い演奏家に会うのが楽しみになった 指揮者の役割とは何か。偉人の楽譜や残された資料を徹底的に読み込み、そこからこうしたいというアイデアをオーケストラに伝える ウィーン、ベルリン、シカゴなど世界の一流オーケストラにはそれぞれ伝統と独自の響きがあり、無理強いはいけない 自分の考えを理解してもらい、彼らの音色で応えてくれるようにする。そこに素晴らしい音楽が生まれ、聴き手と感動を分かち合う また、オペラでは音楽だけではなく、演出、セリフの言い回し、舞台装置などすべてを指揮者は把握しなければならない 自分はヴェルディのオペラに生涯を捧げてきた。ヴェルディは次々と成功した秘訣を聞かれた時、こう答えたという。『一に勉強、二に勉強、三に勉強です』」
2回目以降の連載が楽しみです 私は3月30日に東京文化会館大ホールで開かれる「東京・春・音楽祭2023」のうち、「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 ~ リッカルド・ムーティー指揮東京春祭オーケストラによるヴェルディ「仮面舞踏会」(演奏会形式)」を聴きます いま、マリア・カラスのCDで予習をしています
ということで、わが家に来てから今日で2881日目を迎え、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は30日、制裁で凍結したロシアの中央銀行やオリガルヒ(新興財閥)の資産を活用し、6000臆ユーロにおよぶとされるウクライナの復興資金にあてる方針を示した というニュースを見て感想を述べるモコタロです
資産管理から生じる収入をあてるようだ これなら合法的に復興資金が確保できる
昨日、娘が作ってくれた夕食は「バターチキンカレー」です 外のレストランで食べるよりよほど美味しかったです
中山七里著「毒島刑事 最後の事件」(幻冬舎文庫)を読み終わりました 中山氏は当ブログを普段からご覧の皆さまにはお馴染みの人気作家です 1961年、岐阜県生まれ。2009年「さよならドビュッシー」で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、10年1月デビュー それ以降、「中山七里は七人いる」と言われるほど幅広いジャンルの多くの作品を次々と発表しています
本書は「作家刑事 毒島」に続くシリーズ第2作として刊行されました 1作目は、元刑事で現役ミステリー作家の毒島真理の元に舞い込んだ出版業界にまつわる様々な事件を扱う短編集でしたが、本書は「毒島がなぜ刑事を辞めてミステリー作家になったのか」というストーリーを描いています
本書は5つの連作短編集の形をとっています 最初に次の3話が描かれます
第1話:有名大学を卒業したものの就職活動に挫折し、アルバイト中に自撮りした動画が炎上してアルバイト先にも困るようになった男が連続殺人を犯す「不倶戴天(ふぐたいてん)」
第2話:新人賞に落選し続ける作家志望者が出版社を爆破する「伏流鳳雛(ふくりゅうほうすう)」
第3話:結婚相談所で「婚活パーティー荒らし」として有名だった3人の女性が、次々と顔に硫酸をかけられる「優勝劣敗(ゆうしょうれっぱい)」
上記の「第2話」では才能のない作家志望者を揶揄する毒島の毒舌が全開ですが、かつての文豪のエピソードを毒島の口を借りて開陳しています
「(太宰治は)文豪として名高いけど、結構女々しい男でさ。デビュー間もない頃、創設されたばかりの芥川賞の候補になったんだけど落選 自分の作品をこき下ろした選考委員の川端康成に対して、『刺す』とか『大悪党だと思った』とか書いているんだよね その一方でやっぱり選考委員だった佐藤春夫に『第2回の芥川賞は、私に下さいまするやう、伏して懇願申しあげます』とか『私を忘れないで下さい。私を見殺しにしないで下さい』とか、挙句の果てには『芥川賞をもらへば、私は人の情けで泣くでせう』とかさ。人間らしいっちゃ人間らしいんだけど、まあそんな体たらく 文豪と呼ばれる彼ですらそうなんだから、文豪どころか三文文士にもなれないような作家志望者が、胸の奥にどろどろしたものを抱えていたって何の不思議もない」
さて、最初の3話では、「自分の思うようにいかないのは他人や社会のせいだ」とする他罰的思考に陥った自意識過剰の被疑者たちを、毒島が毒舌で責め立てて自白に追い込んでいく形をとっていますが、どの事件にも彼らを犯罪行為を行うよう陰で教唆している”黒幕”が存在することが暗示されます
【以下、ネタバレ注意】
そして第4話「奸侫邪智(かんねいじゃち)」では、その”黒幕”が認知症の老人を操って人を殺させる事件を扱っています
さらに第5話「自業自得(じごうじとく)」では、驚くべきことにその”黒幕”を背後で操っている”元締め的な黒幕”の存在が明かされ、毒島が彼の過去を暴き毒舌で追い詰めていきます
毒島が最も許せないのは「自分の手を汚さず、巧みに人を操って犯罪行為をやらせる」人物です したがって、毒島にとって犯罪の実行犯はもちろん許せない存在ですが、陰で操る”黒幕”はそれ以上に許せないし、さらにその”元締め的な黒幕”はもっと許せないのです しかし、”元締め的な黒幕”は警察署での毒島による取り調べのトイレ休憩の間に窓ガラスを破り、その破片で首を切って自殺を図ってしまいます 他の刑事たちが慌てる中、毒島だけが平然としています。なぜか? 彼はわざと休憩を取り、容疑者が自殺するように仕向けたのです 自殺は容疑者が信じていたものへの最後の復讐だったのです よく考えると、毒島は自らの手を使わず、容疑者を追い詰めて死に追いやったと言えます 毒島刑事恐るべし、中山七里恐るべし
容疑者をねちねちと追い詰めていく毒島刑事の毒舌は痛快そのものです 本書は元々編集者からの「中山七里を主人公として書いてくれ」というオファーに応えて書いた作品だといいます 「トイレに行く時間がもったいないから、1日1回しか行かなくても済むようにした」「眠らなくても大丈夫な身体にした」「3日で長編のプロットを立てるが、その際1行目から最後の行まで頭の中に出来上がるから、その後は人と話しながらでも書ける」「書くのが速すぎて出版が追い付かず、数年後までの刊行予定が埋まっている」(以上、芹沢央氏の「解説」より)という、まるでモーツアルトのような天才的な頭脳と、アントニオ猪木のような頑丈な身体の持ち主である中山七里氏ですが、この人ほど、次の作品が待ち遠しい作家も珍しいと思います
一気読み必至のエンターテインメント・ミステリーです。お薦めします