14日(水)。日経朝刊に連載の「私の履歴書 リッカルド・ムーティ」は昨日 第12回目を迎えました この回ではソ連の巨匠ピアニスト、リヒテルとの思い出を語っていますが、忘れられないアンコールについて触れています
「リヒテルとジェノヴァでラヴェルの『左手のためのピアノ協奏曲』共演した時、演奏中に彼がある箇所で間違えそうになった 私は瞬間的にオーケストラをコントロールし、彼もすぐ取り直して、幸いにも聴衆が気づくようなミスにはならなかった
ところが彼はそのことが大変気になった様子で、アンコールでもう一度全曲を弾き直したいと言った
私はオーケストラを説き伏せてもう一度演奏することにした。今度は完璧な演奏ができて、彼は満足げだった
」
ラヴェルの『左手のためのピアノ協奏曲』は演奏時間にして約18分かかります それをアンコールに演奏すると言うのですから正気の沙汰とは思えません
しかし、それが本当のプロフェッショナルというものなのでしょう
労組の強い現在のコンサートでは起こり得ない出来事だと思います
しかし、驚きはそれにとどまりません。ムーティは次のように語っています
「その翌日、ジェノヴァの駅でフィレンツェ行きの列車を待っていると、同じく駅にいたリヒテルが近づいてきて、ラヴェルのスコアを出してくれと言う 彼は昨日の演奏で、もう少しでミスとなる箇所のページを開くと、その音符の上にサインして『毎回ここで間違ったと思い出せるようにね』と言った
私は巨匠の謙虚な側面を見たような気がして胸が熱くなった
」
時代を問わず、巨匠と言われる演奏家は謙虚なのだと思います
ということで、わが家に来てから今日で2893日目を迎え、ロシアのぺスコフ大統領報道官は12日、国内と外国の多くのメディアを集めたプーチン大統領による年末恒例の記者会見を開かないと明らかにした というニュースを見て感想を述べるモコタロです
どうせ「人は誰でも いつかは死ぬ」としか言わないんだろ 自分が戦場に行けよ!
昨日夕食に「豚肉の紫蘇巻き焼き」「生野菜とツナのサラダ」「もやしの味噌汁」を作りました 紫蘇は半分に切って豚もも肉で巻いています
昨夜、サントリーホールで東京都交響楽団「第962回定期演奏会Bシリーズ」を聴きました プログラムは①ウェーベルン「管弦楽のための6つの小品」、②ブルックナー「交響曲第4番 変ホ長調 ”ロマンティック”」(ノヴァーク:1874年第1稿)です
拍手の中、楽員が配置に着きます 弦は左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、その後ろにコントラバスという並び。下手に高音部のヴァイオリンを集め、中央に中音部のヴィオラを配し、上手に低音部のチェロとコントラバスを集める配置は、ディズニーの「ファンタジア」でお馴染みのレオポルド・ストコフスキーが、ステレオ録音のために定着させた楽器配置であると言われています
つまりスピーカーの左からはヴァイオリンが、右からはチェロやコントラバスが聴こえてくるようにという意図がありました
コンマスは矢部達哉、隣は四方恭子というダブル・コンマス態勢を敷きます 他の弦楽セクションも第2ヴァイオリンが双紙正哉、遠藤香奈子、ヴィオラが鈴木学、篠崎友美、チェロが古川展生、コントラバスが池松宏といった首席クラスで固めています
都響桂冠指揮者・インバルを迎える万全の態勢といえます
1曲目はウェーベルン「管弦楽のための6つの小品」です この曲はアントン・ウェーベルン(1883ー1945)が1909年に作曲、1913年3月31日にシェーンベルクの指揮によりウィーンで初演されました
新日本フィルの「ワンコイン講座」の講師としてもお馴染みの小室敬幸氏のプログラムノートによると、ウェーベルンは1912年7月17日の手紙で「ほとんどすべての私の作品が彼女の思い出に由来している」と書いていますが、この「彼女」とは糖尿病による合併症で1906年9月7日に53歳で亡くなった母親のことだといいます また、1913年1月13日の手紙では、この「管弦楽のための6つの小品」は母親がこの世を去る前後の心象に基づいて作曲したことを明かしているそうです
第1曲「遅く」、第2曲「動きをもって」、第3曲「中庸に」、第4曲「とても中庸に」、第5曲「とても遅く」、第6曲「遅く」から成ります
演奏を聴いていて、特に印象に残ったのは第1曲と第4曲です 第1曲は、母親が亡くなるかもしれないという漠然とした不安が音楽に表れています
第4曲は葬送行進曲です。ウェーベルンの沈痛な面持ちが浮かびます
繊細な演奏でした
プログラム後半はブルックナー「交響曲第4番 変ホ長調 ”ロマンティック”」(ノヴァーク:1874年第1稿)です この曲はアントン・ブルックナー(1824ー1896)が1874年に作曲しました
「ロマンティック」という副題はブルックナー自身が付けたものです
第1楽章「アレグロ」、第2楽章「アンダンテ・クワジ・アレグレット」、第3楽章「きわめて速く」、第4楽章「アレグロ・モデラート」の4楽章から成ります
インバルの指揮で第1楽章が開始されます 弦のトレモロによる”ブルックナー開始”に乗せてホルンが第1主題を奏でるスタイルは第1稿でも健在でした
このホルンは後の演奏でも終始安定していました
ブルックナーはこの第4番を何度か改訂していますが、現在われわれが聴いているのは「1878/80稿」と言われる版による演奏です
私が所有している十数枚の第4番のCDはすべてその版による録音です
この版に慣れた耳で第1稿を聴くと、やはり微妙に異なるので違和感を感じたりします
第1楽章では後半にゲネラル・パウゼ(全休止)が多いことに気が付きます
第3楽章のスケルツォは改訂版に比べると、同じフレーズの繰り返しが多く、ここでもゲネラル・パウゼの多用が目立ちます
第4楽章の冒頭には驚きました。最初はこんなエキセントリックなメロディーで開始していたのか、と意外に感じました
全体的には粗さが目立ち、入れたいものをすべてぶち込んだ「ごった煮」的な曲で、発展途上の作品という印象を持ちますが、逆にその粗さが魅力となっている部分もあります
インバル ✕ 都響のパワフルかつ繊細な演奏を聴いて、第1稿による「第4番」の新鮮な魅力を感じ取ることができました