人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

シャンタル・アケルマン監督「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080,コメルス河畔通り23番地」を観る ~ 主婦の3日間の日常生活を淡々と描くが、最後に驚きの結末が待っている

2023年01月08日 07時14分53秒 | 日記

8日(日)。わが家に来てから今日で2918日目を迎え、ロシアのプーチン大統領が一方的に自国軍に命じた36時間の「停戦」が始まった6日、ウクライナ側によると、各地でミサイルなどによるロシア軍による攻撃があった  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     プーチンの停戦命令なんて 自国軍立て直しの時間稼ぎに過ぎない 誰が信用するか

 

         

 

早稲田松竹でシャンタル・アケルマン監督による1975年製作ベルギー・フランス合作映画「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080,コメルス河畔通り23番地」(3時間21分)を観ました

未亡人のジャンヌ・ディエルマン(デルフィーヌ・セリッグ)は、思春期の息子(ヤン・デコルテ)と共に、ブリュッセルのアパートメントで暮らしている 彼女は朝起きて顔を洗い、お湯を沸かして朝食の用意をし、息子の靴を磨く 息子を起こして一緒に朝食を取り、息子を学校に送り出す。息子と自分のベッドメイキングをして、隣人の赤ん坊を預かり、隣人が引き取りに来てから街へ買い物へ出かける そして、自宅に戻ってから客を受け入れる。彼女は自宅で売春をしている その後、風呂に入り、夕食の支度をして学校から帰った息子を受け入れ、一緒に夕食を取る。食後は息子と必ず散歩に出る。帰って来てからベッドで読書をしている息子に早く寝るよう催促し、自分もベッドに入る・・・ルーティンとも言える そんな単調な日常生活を送っている しかし、規則正しかった彼女の生活は少しずつ秩序を失っていく 3日目、彼女はベッド上の男性客を刺殺する

 

     

 

この映画は未亡人の3日間のごく普通の日常生活をクローズアップ撮影などを避けて淡々と描いていますが、あらゆるものが少ないのが特徴と言えます 第一に登場人物が少ない。主人公のジャンヌと息子、赤ん坊を預けに来る隣人、ジャンヌの客(3人)、ジャンヌが買い物の時に相手をするお店の人たちなどです 第二に、登場人物がセリフを言うシーンが少ない。したがって3時間21分の全体的な印象は「静かな映画」と言えます その反面、ジャンヌの動きは雄弁です。特に印象に残るのは、キッチンで料理をしていて、次の行動に移る時は必ず部屋の電気を消します。そして次の部屋に行くとスイッチを入れて電気を点けます その部屋を出る時はスイッチを消す・・・というように、電気を点けたり消したりという行動が頻繁に行われます これは主婦としての節約志向とともにジャンヌの几帳面な性格を表しているかのようです

ジャンヌの日常生活が少しずつ狂っていく兆候はいくつもあります 靴磨きのシーンで、靴ブラシを手を滑らせて落としてしまう また、ナイフやスプーンやフォークを1本1本 布巾で拭いて片づけるシーンでは、ナイフを落としてしまう   ジャガイモを茹ですぎて焦がしてしまい作り直す また、いつの間にかコートのボタンが1つ取れていて、同じものを買いに行くが、どこにも売っていない 行きつけのカフェでは、お気に入りの席が見知らぬ女性に占められていて、注文したコーヒーを飲まずに帰ってくる 極め付きは3日目の客を取った時のシーンです。初めてベッド上の男とジャンヌの姿が映し出されますが、彼女の顔には 男から肉体的にも精神的にも屈辱を受けたような苦痛に満ちた表情が浮かんでいました これらの小さな出来事の積み重ねがラストの悲劇の前兆になっているように思います

映画のラストシーンは、男性客を刺殺した後、薄暗い居間で椅子に座り呆然自失のジャンヌを、カメラが長回しで映し出します 「私はなぜ男を殺してしまったのか? 帰ってくる息子にどう説明しようか? これからどうやって生きていこうか?」と自問しているように見えます

アケルマン監督は本作のタイトル「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080,コメルス河畔通り23番地」のように長い3時間21分の中で何を言いたかったのか? 「毎日の単調な家事や育児は女性が負わなければならない」という世相に対する抗議か?  ルーティンのような日常生活が乱される出来事が続くと、人間は衝動的に何をするか分からない、という警告か? 残念ながら私にはよく分かりません

さて、音楽です 1日目にジャンヌと息子がラジオから流れてくる音楽に耳を傾けるシーンがありますが、アナウンスのテロップが次のように出ていました

「ベートーヴェンの小品をお届けします。『エリーゼのために』。イ単調です

思わず(内緒で)笑ってしまいました 言うまでもなく『エリーゼのために』はイ単調ではなくイ短調です 翻訳が異端調でした

ところで、ジャンヌを演じたデルフィーヌ・セリッグはアラン・レネ監督「去年マリエンバードで」(1961年)やルイス・ブニュエル監督「ブルジョワジーの密かな愉しみ」(1972年)にも出演していますが、後者を是非観たいと思っています ブルジョワジーたちが食卓を囲んでいると、突然後ろの幕が開き、自分たちが観客に観られている、といったシュールな映画です 2回ほど観ましたが、是非また観たいと思います

 

     

コメント
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