13日(金)。昨日の日経朝刊文化欄に「コインから聞こえる調べ 音楽家の肖像、楽譜を刻んだコインを収集、意外な発行事情も」という見出しにより、音楽教師・千葉一良さんのエッセイが載っていました 超略すると次の通りです
「コインにはベートーヴェンなどの音楽家をデザインした珍しいコインも存在する 都立学校の音楽教師をしているが、約30年間こうした『音楽家コイン』を収集してきた 音楽家コインは作曲家やピアニストの生没周年記念に発行されることが多い 名前や肖像のほか楽譜が刻まれる例もある 音楽家をデザインに採用するのは20世紀以降のことだ。世界初の音楽家コインは1920年のドイツで発行され、ベートーヴェン生誕150年を記念した肖像が刻まれている このコインは本来素材に適さない鉄で造られた点が特徴だ。第1次世界大戦で敗れたドイツでは金属が枯渇し、金や銀での鋳造ができなかった 金の価格が下落した90年代は、それまで約30種ほどしかなかった音楽家コインの発行が相次いだ 旧東ドイツでは72年、ブラームスの誤った譜面が刻まれた珍しいコインが発行された 『交響曲第1番』第4楽章の『山の上高く、谷の底深く、あなたに幾度も挨拶を送る』と歌詞が付いている部分は、本来『ミレドソ』と音符が続くところを『ミレシソ』とコインに刻まれてしまった この歌詞はブラームスが恩師シューマンの妻に贈ったのだが、誤ったメロディーでは歌詞の意味も正確に伝わらなくなってしまう 世界ではこれまで約400種の音楽家コインが発行されたと確認できるが、その大半は手中に収めた 昨年9月からはユーチューブで、関連するピアノ曲を弾きながらコインの魅力を紹介している コインを投資目的で収集する人も多いが、是非そのデザインや歴史にも思いをはせてほしい」
ベートーヴェンやブラームスを輩出したクラシック音楽の総本山と言うべきドイツで、コインの音符の表記を誤るなんてとても信じられません デザイナーはビールを飲みながらコインのデザインを仕上げたのでしょうか ビールで思い出しましたが、1991年1月に訪問したミュンヘンの「南ドイツ新聞」の印刷工場の廊下にはビールの自動販売機が置かれていました 訪問した日本の新聞社の皆さんは、「あのビールを飲んで印刷して、もし事故でも起こしたら『労災問題』になって責任問われるよね」と言い合っていました。「ドイツではビールは水みたいなものだ」とよく言われていましたが、事故さえ起こさなければ良いということでしょうか 国民性の違いを感じます
ということで、わが家に来てから今日で2923日目を迎え、ロシアのショイグ国防相は11日、ウクライナ侵攻の総司令官にゲラシモフ参謀総長を任命したが、昨年10月に総司令官に就任したスロビキン航空宇宙軍司令官は副司令官に降格となった というニュースを見て感想を述べるモコタロです
いくらトップの首をすげ替えたって 最後にはロシアは負けるんだから 同じことだろ
昨日、夕食に「トンテキ」を作りました サラダを別皿にすると面倒なのでワンプレートに盛り付けました。豚肉に小麦粉を振って焼いたら柔らかくて美味しくできました
昨夜、サントリーホールで東京都交響楽団「第965回定期演奏会Bシリーズ」を聴きました プログラムは①シェーンベルク「清められた夜 作品4」、②ブラームス(シェーンベルク編)「ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 作品25」(管弦楽版)です 指揮は小泉和裕です
オケは16型で、左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラと並びますが、コントラバスはその後方に横一列に配置されます コンマスは四方恭子、その隣は矢部達哉というダブル・コンマス態勢を敷きます 1曲目の楽曲の関係で管・打楽器は入りません
1曲目はシェーンベルク「清められた夜 作品4」です この曲はアーノルド・シェーンベルク(1874-1951)がリヒャルト・デーメルの詩に基づき「弦楽六重奏曲(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ=各2)」として1899年に作曲、1902年に初演されました その後、1917年に弦楽合奏用に編曲されました
デーメルの詩は「恋人がいる身でありながら、別の男性の子を妊娠した女性が、月夜の晩に恋人に対して真実を告白する それを聞いた恋人は、彼女のお腹の子を自分たちの子として育てていくことを決意する」という内容です。音楽はその内容に沿って書かれています
素人の私などは「なぜ無調音楽のシェーンベルクが保守的なブラームスの曲を編曲するの?」と思ってしまいますが、小宮正安氏がプログラムノートに次のように書いているのを読んで、なるほどと思いました
「実のところシェーンベルクは、自分こそがブラームスに連なるドイツ音楽の継承・発展者であると考えており、しかもブラームス作品の音楽構造や音列が大きな革新性を秘めていることを看破していた」
小泉和裕の指揮で演奏に入りますが、その指揮姿を見て「相変わらずだなぁ」と思いました 両足をやや広げ、その姿勢のまま足が指揮台に固定されたかのように動かしません その代わり、両手を大きく振って上半身で指揮をします それは師匠カラヤンのスタイルそのものです
在京オーケストラの中でも屈指の弦楽アンサンブルを誇る都響の演奏は力強くも美しく、四方恭子のヴァイオリン・ソロ、鈴木学のヴィオラ・ソロ、伊東裕のチェロ・ソロはそれぞれ聴きごたえがありました 苦手なシェーンベルクですが、この曲は初期の頃の作品ということもあり、演奏も素晴らしかったので、終始安心感のもとに聴くことができました
プログラム後半はブラームス(シェーンベルク編)「ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 作品25」(管弦楽版)です この曲はヨハネス・ブラームス(1833-1897)が1855年から1861年にかけて作曲、1861年11月16日にハンブルクで初演されました その後、シェーンベルクが1937年に管弦楽用に編曲し、1938年5月7日にロサンゼルスで初演されました 第1楽章「アレグロ」、第2楽章「間奏曲:アレグロ・マ・ノン・トロッポ」、第3楽章「アンダンテ・コン・モート」、第4楽章「ロンド・アラ・ツィンガレーゼ:プレスト」の4楽章から成ります
管楽器と打楽器が加わり、フルオーケストラ態勢で演奏に臨みます オケを見渡すと、オーボエのトップにはN響の池田昭子さん、ホルンのトップには東京シティ・フィルの谷あかねさんがスタンバイしています
普段オリジナルの「ピアノ四重奏曲版」で聴き慣れている身からすると、音楽に重厚感が増し、カラフルでもあります 驚くのはトライアングルやシンバルといったブラームスだったらあまり使わないであろう打楽器を派手に使って、ブラームスからの脱皮を図っていることです 第3楽章では重厚感に満ちたスケールの大きな演奏が展開しました 第4楽章が白眉でした。「プレスト」の指示通り、弦楽器も管楽器も超高速で演奏したかと思うと、急ブレーキがかかり、思い入れたっぷりに美しいメロディーが奏でられ、そうかと思うとまた超高速に戻るといった具合で、忙しいことこの上ない状況です 狂乱物価の中、もとい、狂乱状態の中、迫力に満ちたアグレッシブな演奏で曲を閉じました
会場のそこかしこでスタンディングオベーションが見られましたが、私も、円熟味を増した小泉和裕のブラームスはとても良いと思います 都響の面々は小泉の期待に応え、渾身の演奏を展開しました