―現代美術史から学ぶ脳科学入門―
内容紹介
絵画を見て、それを「よい」と思うとき、脳では何が起こっているのか。
複雑怪奇な現代アートが「わかる」とはどういうことなのか。
ノーベル賞を受賞したエリック・R・カンデルが、
脳科学、医学、認知心理学、行動科学から美学、哲学まで、あらゆる知を総動員し、
人間の美的体験のメカニズムを解き明かす。
内容(「BOOK」データベースより)
脳、前衛芸術に挑む。絵画を見て、それを「よい」と思うとき、脳では何が起こっているのか。複雑怪奇な現代アートが「わかる」とはどういうことなのか。脳科学、医学、認知心理学、行動科学から美学、哲学まで、あらゆる知を総動員し、人間の美的体験のメカニズムを解き明かす。
著者について
エリック・R・カンデル(Eric R. Kandel)
1929年ウィーン生まれ。米コロンビア大学教授。現代を代表する脳神経学者。
記憶の神経メカニズムに関する研究により、2000年ノーベル医学生理学賞を受賞。
邦訳された著書に『記憶のしくみ』(講談社ブルーバックス)、『カンデル神経科学』(メディルカル・サイエンス・インターナショナル)、
『芸術・無意識・脳』(九夏社)などがある。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
カンデル,エリック・R.
1929年ウィーン生まれ。米コロンビア大学教授。現代を代表する脳神経科学者。記憶の神経メカニズムに関する研究により、2000年ノーベル医学生理学賞を受賞
高橋/洋
1960年生まれ。同志社大学文学部文化学科卒業(哲学及び倫理学専攻)。IT企業勤務を経て翻訳家。科学系の翻訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
本書は、「色」や「形」の解放が行われた現代アート鑑賞において、鑑賞者は何を見ているのか、脳は何を感じ取っているのか、を考察している本である。
本書では、色やフォルムなど、特定の要素への反応のみを切り出す視点を「還元主義」と呼んで、現代アートはこの還元主義を押し進めているという観点から概説がなされている。
最初にターナーによる極めてあいまいな描写を肯定的に取り上げるところから始め、モンドリアンはフォルムへの純粋化や基本色への還元、ポロックの中心のない絵画、ロスコやモーリス・ルイスによる色彩の抽象、などと続く。
逆にデ・クーニングは還元にはあまり関心はなく、ただ感情表現していた(タッチの速度の違いが鑑賞者に速度間の違いを生んでいるという)。
光を使ったフレイヴィンやジェームズ・タレルが取り上げられているのも、人間の視覚の話を議論している本書にはあっている。
還元から具象への逆向きの展開として、ウォーホルと並んでアレックス・カッツとチャック・クローズが取り上げられていた(どちらも知らなかったが興味深い絵だと思った)。
色や形の各要素がそれぞれ処理される場所を持つこと、生殖と闘争が同一のニューロン群に媒介されていること、など脳科学的な話もいろいろ出ているが、そこまで絵画の話と一体化しているかというと際どい。
まだやはり現代アートの話と脳の話がそれぞれ並んでいる、という面が否めないと思う。
とはいえ、脳は美をいかに感じるか―ピカソやモネが見た世界でも見られたアートと脳科学の融合は興味深い分野であり、今後の進展が期待される。
絵を見る、という行為自体は普通なんだけど、その中で気に入る絵や気に入らない絵というのがあった。
特に風景画(具象絵画)が好きだったが、キュービズムに始まる抽象絵画は全く好きになれなかった。
しかし、この本を読んでその理由が分かった。
抽象絵画は”何を描いているのか?”ではなく、作家が描いたカラーや線という情報から、自分の中でどういう情動体験をするかが”こちら側に委ねられている”ということで、それは今までの自分の知見によって左右されるという事になる。
そう思えば、アクションペインティングでもその中に何を見るかはその鑑賞者の自由でそれを楽しめばいい、ということになる。そういう視点で作品を見たことが無かった。
これで少し美術館に行く楽しみが増えたような気がする。
全体的に分かりやすく、特に具体的な作品例がカラーで多く掲出されているので読み易いが、脳科学の説明になると難しくなってギャップは相当あるが、絵画に興味がある人は楽しめると思う。