
熊崎 勝彦 (著), 鎌田 靖 (著)
「特捜の申し子」「捜査のキーパーソン」が明かす、迫真の重大事件史
村上 龍 氏推薦!
「睨まれると、自白しそうになる。あんな眼力、他には絶対ない」
東京地検特捜部の栄光と挫折、激動の30年史
・“政界のドン"巨額脱税、逮捕の舞台裏
・ゼネコンと政界にはびこる汚職の全貌
・野村証券・第一勧銀の利益供与にメス
・大蔵省汚職、“最強の官庁(大蔵省)"vs“.最強の捜査機関(東京地検特捜部)"
・大阪地検特捜部の証拠改竄事件
・日産の“独裁者"を巡るつば迫り合い
東京地検特捜部。日本の「聖域」、政治と経済の中枢に切り込む「ドブさらい」集団。「巨悪を眠らせない」を使命とする特捜検察が摘発に乗り出した、平成時代の「巨悪」とは何だったのか? バブルに酔いしれた「カネ余り日本」の贈収賄事件、金融・建設業界と政官との構造的癒着。「最強官庁」の汚職に切り込み、日本の市場構造を塗り替えたと言われる大蔵省汚職事件。特捜部長としてこの空前絶後の事件捜査を指揮したキーパーソンが、政官財を巻き込んだ重大事件と激動の平成30年史を検証する。
【目次】
はじめに
1章.リクルート事件
・「砂漠の中から宝石を拾い出すようなものだ」
・創業者の江副浩正氏逮捕
2章.共和汚職事件
・「七人の侍」が有罪を立証せよ
・16年ぶりの政治家逮捕、大捕り物の始終
3章.金丸信元自民党副総裁の巨額脱税事件
・東京佐川急便事件の深い闇、5億円ヤミ献金
・特捜が敷いた「背水の陣」、逮捕の決戦の日
4章.ゼネコン汚職事件
・日本型利権構造に切り込む精鋭部隊
・検察首脳会議での戦い、「抜かずの宝刀」を抜く
5章.四大証券・大手銀行による総会屋への利益供与事件
・ガリバー企業・野村証券へのガサ入れ
・第一勧銀の「呪縛」が明るみに
6章.大蔵省汚職事件
・史上最強の捜査体制、待ち受ける「地獄」
・想像を絶する「重圧」、自殺者が出た不幸な出来事
7章.大阪地検特捜部証拠改竄事件
・改竄の心理と背景
・特捜検事 vs. 特捜検事
8章.野球界改革
・コミッショナーの役割は「司法官」
・反社対策、暴排問題
9章.カルロス・ゴーン日産自動車元会長を巡る事件
・カリスマ経営者の裏の顔
・電撃的な逮捕、乾坤一擲の作戦
おわりに
内容(「BOOK」データベースより)
東京地検特捜部。日本の「聖域」、政治と経済の中枢に切り込む「ドブさらい」集団。「巨悪を眠らせない」を使命とする特捜検察が摘発に乗り出した、平成時代の「巨悪」とは何だったのか?バブルに酔いしれた「カネ余り日本」の贈収賄事件、金融・建設業界と政官との構造的癒着。「最強官庁」の汚職に切り込み、日本の市場構造を塗り替えたと言われる大蔵省汚職事件。特捜部長としてこの空前絶後の事件捜査を指揮したキーパーソンが、政官財を巻き込んだ重大事件と激動の平成30年史を検証する。
著者について
熊﨑 勝彦
1942年岐阜県生まれ。熊﨑勝彦綜合法律事務所所長弁護士。72年に検事任官(24期)。96年東京地方検察庁特捜部長、2004年最高検察庁公安部長等を歴任し、同年に退官、弁護士に。東京地検特捜部勤務が長く、在籍時には政官財界を巻き込んだ贈収賄事件、金丸信元自民党副総裁の巨額脱税、大手銀行・証券会社による総会屋への利益供与、大蔵省汚職などの特殊重大事件を手がけた。退官後は、日本プロ野球コミッショナー・同顧問を歴任した他、大学客員教授・企業社外役員・不祥事を起こした企業の調査委員長を務める。テレビ解説員としても活躍。13年瑞宝重光章受章。19年WBSC(世界野球ソフトボール連盟)から名誉勲章を受章。
鎌田 靖
1957年福岡県生まれ。ジャーナリスト。元NHK解説副委員長。NHK「週刊こどもニュース」で池上彰の後任として、2代目お父さん役を務めた。報道局社会部、司法キャップ、NHKスペシャル「シリーズ東日本大震災」「追跡! AtoZ」キャスターなどを歴任。2017年退局後、テレビ東京「未来世紀ジパング」ナビゲーターを経て、TBS「ひるおび! 」コメンテーターとして活躍中。
1月8日に行われたカルロス・ゴーン氏の会見を、”何だそれは”と拍子抜けしながら見た翌日にこのレビューを書いている。どこかのワイドショーで、あるタレントさんが、”すべった話をずっとしているような感じだった”と言っていたが、まさに言い得て妙である。日本の司法がいかに酷いかということを、感情的に、延々とまくし立てるだけで、逮捕された理由である有価証券報告書の報酬の虚偽記載等に対する具体的言及もなく、名前を出すだろうと噂されていた政府関係者の名前も結局出さなかった。欧米のメディアも含めて、一体何のための会見だったんだろうと思った人がほとんどだったのではないか。
さて、この本は、元NHK記者の鎌田靖氏(池上彰氏の次に「週刊こどもニュース」お父さん役を務めた)が、”伝説の特捜検事”と言われ、東京地検特捜部長も務めた熊﨑勝彦氏に、平成におこった重大刑事事件の真相を聞くという形で話が進行する。鎌田氏は様々な事件を通じて熊﨑氏とは旧知の間柄であり、言葉の端々に、職種の垣根を超えた”同士愛”といったようなものが伝わってくる。リクルート事件に始まり、共和汚職事件、自民党副総裁の巨額脱税事件、ゼネコン汚職事件、大蔵省汚職事件など、熊﨑氏が直接関わった事件のみでなく、大阪地検特捜部の証拠改竄事件やカルロス・ゴーン事件といった、氏が退職後におこった事件も取り上げられ、氏が務められたプロ野球のコミッショナーのことにまで話が及んでいる。
最初のリクルート事件から、”へ~っ、そうだったんだ”という話が満載である。何せ捜査の当事者が、時を経て、いわば”胸襟を開いて”喋っておられるわけなので、自分を含め、世間がいかに間違った理解をしていたかということがよくわかる。もっとも、熊﨑氏にしても、今だから言える話であって、当時はとても言える話ではなかったんだろうが。鎌田氏が、調子に乗って?、さらに深く聞き出そうとすると(多くは政治家の名前)、それは「墓場まで持っていきます」などと、微妙に口を濁されるシーンがいくつか登場するのはご愛敬だが。
本書の”喋り手”である熊﨑勝彦氏のことは、名前くらいしか知らなかったが、聞き手の鎌田靖氏のことは特集番組の司会などをよくされていたので、名前やお顔はよく知っていた。そして、この本を読んで思ったことは、お二人には二つの共通項があるということである。それは事の本質に切れ味鋭く迫る頭脳の明晰さと正義感である。これに先ほど言ったお互い同士の信頼関係がうまくかみあい、この本はとても読み応えのある本に仕上がっている。
最後の第9章では、冒頭にも述べた、今が旬?の日産自動車をめぐるカルロス・ゴーン氏の事件が取り上げられている。熊﨑氏は、日産側の内部調査だけでは、大きな権力を持つゴーン氏の不正追及には限界あったので、司法取引を利用して特捜部が介入したわけで、クーデターではないと言っておられるが、素人目には、やっぱりこれは”公権力を借りてのクーデター”なんじゃないのと見えてしまう。そんな点も含めて、この本の出版がもう一月遅ければ、今回のゴーン氏の逃亡にまつわる熊﨑氏の卓見が聞けたと思うのに、それが残念である。
現東京地検特捜部長の森本宏氏は、熊﨑氏と同じ高校の二十年後輩だそうである。お二人の卒業された高校は、どこにでもある田舎の公立高校で、特段の進学校でも何でもない。そんなごく”普通の”高校から二人の東京地検特捜部長が出るというのは、年末ジャンボ宝くじで7億円当たるのよりも低い確率だろう。就任三年目と異例の長さになる森本氏は、転勤が間近だとも言われる。ゴーン氏の逃亡は予定外だったと思うが、最後にIRの問題にきっちりケリとケジメをつけてからかわっていってほしい。そうでないと、このままでは、”政権の意を受けてゴーン氏を逮捕したのではないか”などと、検察にとってはあまりよろしくない噂が流布されたままになってしまうから。それは森本氏の本意ではないはずである。「検察は政治権力に対する最後の正義の砦」であるという哲学?は何ら変わっていないと信ずる。先輩の熊﨑氏も、「人生に悔いを残さないように」と言っておられることだし。
東京地検特捜部に9年間在籍し、リクルート、金丸信、大蔵省ノーパンシしゃぶしゃぶなど、日本を変えた大事件を捜査した熊崎勝彦弁護士の聞き書き。いずれの経済事件も全容を知る立場にいたから語れる、。「政治は表で見るより結構醜い」という金丸信、「政治には金がかかる」という阿部文男など、取調室で渦中の被疑者と相対した者だけが知る言葉が次々と出てくる。
本書のもう一つの読みどころは、事件の捜査や立件へ向けた検察の意思決定が詳細に語られている点だ。政治家の立件について検事総長を含めた検察最高幹部で議論したと振り返る。「最強官庁」大蔵省捜査では重圧があったともいう。同僚や部下として、多くの特捜検事を匿名でごまかさず、実名で出すのもいい。後の検事正、検事長、公取委員がごろごろと出てきて、検察内部における特捜部の地位の高さが読み取れる。今話題の黒川弘務・東京高裁検事長も野村證券の取り調べに起用し「大変優秀」と評価している。
熊崎弁護士は、事件捜査について「スジが見える」「秘密の暴露を引き出し、その証拠を取る」ことを重視するという。スジというのは事件のストーリーのことだ。大阪地検の証拠改ざん事件について、「スジを読み誤ったら引く勇気も大事」とし、ゼネコン汚職でも「金は渡っているが立件できない政治家が結構いた」と語る。自身の失敗を率直に語る点も評価できる。特捜副部長時代のゼネコン汚職で、検事の暴行事件があったことを何度も悔やんでいた。
聞き手の鎌田靖氏はNHKの検察担当として熊崎弁護士と30年以上の交流があるという。冒頭に事件の概要を書き、部外者にはわかりにくい熊崎氏の語りや自分の感想として、注釈を入れるなど鎌田氏がかなり再構成している。重要ポイントを太字にするなど、当時を知らない人にも読みやすくなっている。
バブル関連の事件は、これまで民間当事者、ノンフィクション作家や新聞記者が多くの優れた作品が残されている。しかし、検察サイドの本はほとんどなかっただけに、事件捜査の中枢にいた人物が語るインパクトは大きい。バブル事件系の本ではもちろん、検察行政を調べる人にも参照される回顧録になるだろう。