樺沢 紫苑:精神科医、作家
2020.7.19 4:50 ダイヤモンド
コロナ禍や自粛生活などの「環境の変化」により、多くの人が将来への不安を抱え、「大きなストレス」を感じています。
ストレスを溜め込みすぎると、体調を崩したり、うつなどのメンタル疾患に陥ってしまいます。
発売たった5日で4.6万部を突破した、樺沢紫苑氏による最新作『ストレスフリー超大全』では、ストレスフリーに生きる方法を、「科学的なファクト」と「今すぐできるToDo」で紹介した。
「アドバイスを聞いてラクになった!」「今すべきことがわかった!」と、YouTubeでも大反響を集める樺沢氏。そのストレスフリーの本質に迫るーー。
自殺する人は相談しない
日本財団の調査によると、「本気で死にたいと思っても相談しなかった人」は、73.9%にも及びます。
厚生労働省研究班の調査(自殺未遂者1516人、自殺既遂者209人)によると、自殺の前に「誰かに死にたい気持ちを話しましたか」という質問に、家族に相談していたのは16.3%、友人にしていたのは8.3%、精神科医に相談していた割合はたったの3.8%。家族と友人の両方に話をしているケースもあり、全体で事前に相談していたのは、わずか2割となっています。
「死にたい」と思っている人、自殺未遂、自殺既遂のケースでも、ほとんどの人は、誰にも相談しないで、いきなり自殺するのです。
生きるべきか、死ぬべきか。人生で最大の悩みを、誰にも相談することなく、時にうつ病で何も考えられない、あるいは焦燥感でイライラが激しく冷静さを失った状態で、「死にたい」気持ちを行動に移してしまうのです。
きっと、誰かに相談すれば、防げる自殺は、相当に多いです。
「死にたい」と思う人に、「誰かに相談してください」と言うと、「相談しても、問題は解決できないので意味がないです」という反論が必ず来ます。
しかし、相談は「問題解決」が目的ではありません。相談するだけで、ホッとする。つまり、「ガス抜き」の意味合いが大きいのです。相談は、間違いなく効果があります。
自殺の「衝動」はすぐに収まる
相談の目的は「ガス抜き」の意味合いが大きいと述べましたが、もっと具体的にいうと、「自殺衝動」がガス抜きされるのです。自殺行動を分解すると、次のような要素に分かれます。
「自殺念慮」とは、常日頃から「死にたい」と思っている気持ちです。「自殺衝動」とは、「今すぐ死にたい!」「今、死なないと!」という、抑えられない衝動のことです。
「死にたい」と思っている人は、日本人の1.6%もいて、そのほとんどが行動を起こさずに済んでいるのは、「自殺衝動」が低いからです。
自殺するには、ものすごい勇気がいります。死は恐ろしい。その恐怖というものが、自殺に対する抑止力となっています。
たとえば、死にたいと思って自殺の準備をしても、「すさまじい恐怖」に襲われ、「やっぱりやめた」と、ギリギリのところで思いとどまる人もたくさんいます。
このギリギリのシチュエーションにおいて、「自殺する人」と「自殺しない人」の違いが、「自殺衝動」の違いとして説明されています。
「いてもたってもいられない死に向かうエネルギー」が「自殺衝動」ですが、その衝動は長くは続きません。ピークの自殺衝動は、5~10分と言われています。誰かと30分も話していると、落ち着いた状態になるのです。
実際、私も救急外来で、何人もの「今すぐ、死にたい」という自殺衝動の強い患者さんの対応をしたことがありますが、30分ほど話をするだけでも不思議なほどに落ち着いてきます。
後から、そのときの様子を患者さんに聞くと、「あのときは、冷静さを失っていた」「あのときの私は、どうかしていた」と言います。そして、「あのとき、自殺しなくて本当によかった」とも言います。
自殺を引き起こしている真犯人は、「自殺念慮」(死にたい気持ち)ではなく、「自殺衝動」(短時間しか存在しない爆発的なエネルギー)です。
ですから、本当に死にたいと思ったときは、30分だけやりすごせばいいのです。そのためには、「人に相談すること」がものすごく有効です。電話する人が誰もいないという人のためにも、「いのちの電話こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)」が用意されています。
お酒に逃げてはいけない
慢性的に「死にたい」という感情が起こる人にお願いしたいのが、「お酒を飲まない」「お酒をやめる」ということです。日本の自殺者の調査によると、自殺者の32.8%からアルコールが検出されており、特に激しい自殺の方法をとる人ほど高濃度のアルコールが検出されています。
また、自殺未遂で救急病院を受診した人からは、平均40%もの割合でアルコールが検出されています。自殺しようとする人の3~4割が、お酒を飲んで、酔った勢いで自殺をしているのです。
アルコールを時々飲む人に比べて、1日3合以上飲む人は、自殺のリスクが2.3倍に増えるという研究もあります。
慢性的なアルコールの飲用が、自殺のリスクを高め、孤独を助長し、「死にたい」という気持ちを増幅させます。さらに、突発的な酩酊で、思考力や判断能力が低下し、自殺への恐怖も薄まり、本人も予期せぬ自殺行動が引き起こされるのです。
「嫌なことがあったら、お酒に逃げる」「お酒の力で、嫌なことを忘れる」という日々の行動が、積もり積もって「自殺」にまでエスカレートしていきます。自分の意思ではなく、お酒に殺されているだけなのです。
生活を整えることが第一
「自殺衝動」の対応が、自殺行動抑止の切り札になると先ほどお伝えしました。「自殺衝動」を脳科学的に言い換えると、「セロトニン濃度の低下」です。
セロトニンを高める習慣の「朝散歩」が有効です。健康のための生活習慣として、「睡眠」「運動」「朝散歩」の3つを推奨してきましたが、自殺の予防にも効果的なのです。
「死にたい」と思う人は、それは何ヵ月も悩み、苦しみ、「自分が導いた答え」と思っていますが、それは間違いです。脳内物質の低下が導いた「脳のエラー」です。血糖値が下がると「お腹がすいた」と感じるように、セロトニンやノルアドレナリンが極端に低下すると、「死にたい」という感情が自然に湧き出てくるのです。
そんな回復可能な、一時的な脳内物質のアンバランスによって、自分の一生を終わらせることは、実にもったいないことです。
極端なセロトニン・ノルアドレナリンの低下によるうつ状態は、薬物療法、「睡眠」「運動」「朝散歩」「禁酒」などの生活療法によって改善可能です。毎日7時間睡眠をとり、週150分以上運動し、毎日朝散歩をして、それでも「どうしても、死にたいのか」を考えてみてください。
ちゃんと規則正しい生活を実践できている人で、死にたいと言い出す人は、私の経験上、1人も見たことがありません。
樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医、作家
1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴのイリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。「情報発信を通してメンタル疾患、自殺を予防する」をビジョンとし、YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動している。
最新刊は『精神科医が教える ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社)。シリーズ70万部の大ベストセラーとなった著書『学びを結果に変えるアウトプット大全』『学び効率が最大化するインプット大全』(サンクチュアリ出版)をはじめ、16万部『読んだら忘れない読書術』(サンマーク出版)、10万部『神・時間術』(大和書房)など、30冊以上の著書がある。
「ストレスへの対処法」は不変のスキルだ!
私の臨床経験では、「几帳面でまじめな人ほどうつになりやすい」傾向を感じます。なぜなら、ストレスの原因を真正面から受け止め、不安になり、悩み続け、リセットできないからです。
悪いストレスをなくしていくことが、「ストレスフリーな人」になるためには重要です。
あなたの「考え方」「受け止め方」を少し変えるだけで、ストレスを受け流せるようになります。それだけで、「不安」や「悩み」の9割は消すことができます。
本書では、誰しもが悪いストレスを感じる「人間関係」「プライベート」「仕事」「メンタル」「健康」という5つのテーマに対し、「科学的なファクト」と「今すぐできるToDo」を示します。「いま何をすべきか」が明確になるでしょう。
『ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社)
2年の歳月をかけて書き下ろした集大成!
超・現実的で役に立つノウハウ!
多くのビジネス書では、「ストレスから逃げろ」「ストレスなんか気にするな」という精神論が書かれていますが、そのようなアドバイスは非現実的です。
本書では、私の精神科医としての経験から、現実的であり、かつ、効果抜群のノウハウだけを紹介します。
不安、悩み、ストレスにとらわれない生き方。それができると、あなたの人生は間違いなく楽しく、明るく、達成感と自己成長が感じられる、幸せなものになります。生き方を変えるのは「今」です!
心と体を整える「決定版」
はじめに―「ストレスフリーな人」になろう
序章 すべてのベースとなる「解決法」
不安を行動で取り除く
自力で解決できるようになる
他人の力を上手に借りる
生活を整えてちゃんと生きる
最高のモーニングルーティン「朝散歩」をする
1章 他人ではなく「自分」を変える
他人と自分を比べない方法
人の意見に流されない方法
「信頼できる人」と「信頼できない人」を見分ける方法
「人から嫌われたくない」の対処法
悪意を向けてくる人の対処法
他人を変えるにはどうすればいいのか など
2章 「仲間」と「家族」が活力となる
孤独のリスクを減らす
大人になってから友達を作る方法
SNS疲れを解決する方法
相手に好意があるかどうかを知る方法
夫婦関係をよくしたい
子育ての問題を乗り越えるには など
3章 「天職」を求め、「やらされ仕事」から抜け出す
職場の人間関係を解決する
「仕事が楽しくない」を乗り越える方法
どうしても仕事を辞めたいときの対処法
自分の「天職」を見つける方法
仕事や勉強の集中力を高める方法
「お金の不安」を取り除く方法 など
4章 「疲れない体」を手に入れる
睡眠の質を上げる方法
運動不足の対処法
理想的な運動を継続する方法
本当に健康にいい食べ物はどれなのか
健康的に痩せる食事法
嗜好品とうまく付き合う方法 など
5章 心を整え、「新しい自分」にアップデートする
自己肯定感を高める方法
「緊張しやすい」の対処法
嫌なことを忘れる方法
「うつっぽい」と思ったときにすべきこと
メンタル疾患への対処法
「死にたい」と感じたときの対処法 など
終章 精神科医がたどり着いた「とっておきの考え方」
人生を楽しむ人になる方法
決断グセをつける
「生きる意味」を考え続ける
「死」について考える
「幸せ」を手に入れる方法
本書の特長は、これだ!
(その1)90%の「共通の悩み」をすべて解決!
私のYouTubeチャンネルでは、一般の人から質問を募集し、毎日、数十問の質問が寄せられます。その90%は過去の質問と同じ。すでに答えたことがある質問です。
しかし、「悩み」の渦中やどん底にいる人は、「きちんと調べる余裕」がなく、同じ質問をしてしまうのです。検索すればすぐに対処法がわかることも、悩み、苦しみ、ときに精神を病んでしまったりします。
本書では、私の元に寄せられた代表的な悩みを扱います。それは、誰にでも当てはまる「共通の悩み」です。きっと、あなたの悩みの9割が解決できるでしょう。
(その2)「ToDo」にこだわったアプローチ!
本書の執筆にあたって、心理学、社会学、哲学、宗教など「悩み」や「生き方」に関する本100冊以上を読み直しました。世の中のほとんどの「悩み」や「生き方」について「答え」は出ているのです。
しかし、それらの本を読んでも、「まず何をすればいいのか?」「今日(今)、何からはじめたらいいのか?」までは教えてくれません。悩み解決の「方向性」は示されるのですが、「ToDo(何をすべきか)」がよくわからない。それでは意味がありません。
そこで本書では、必ずToDoを示すことに徹底的にこだわりました。
(その3)本当に効果のある対処法とおすすめのコンテンツを紹介!
私のYouTubeチャンネルでは、2500問以上の悩み解決の動画を上げています。たくさんのコメントが付き、「高評価」と「低評価」によって、動画が役に立ったかどうかが評価されています。
コメントを見ると、「実行して、すぐに効果が出ました!」という感謝の書き込みがたくさん見られます。そうした「実際に効果のあったアドバイス」「やれば確実に効果のある対処法」だけを集めたのが本書です。
科学的根拠によって書かれただけの本は、残念ながら「どこかで聞いたような、ありきたりの漠然としたアドバイス」しか載っていません。そこで、私の経験に基づき、生々しく、リアルで、現実的な対処法だけを示すことにしました。
また、各項目では「もっと深く知りたい」「専門的に学びたい」と感じる人もいると思います。そのため、さらに学びたい人に向けておすすめの「本」や「映画」などのコンテンツを50個以上、用意しました。本書1冊で、約50冊以上もの名著のエッセンスが得られます。