新料支払特約があった場合において、新賃料につき合意が成立しておらず更新料が具体的債務として発生していないとされた事例 (東京地裁平成5年2月25日判決、判例タイムズ854号)
(事案)
賃借人は、店舗賃貸業者であるが、平成元年6月、飲食業の店舗として転貸する目的で、マンション1階にある店舗を賃料15万円で賃借したが、その契約書には「賃借人は3年後の更新において新賃料の2カ月分を更新料として支払う」との特約があった。
賃貸人は、更新時期に際して、賃料を20万6000円に増額請求し合わせて更新料の41万2000円、それに敷金50万円の請求(契約時に差し入れるべきものが3年後に延期されていた)をした。賃借人は、改定賃料の折り合いがついた後に更新料を支払うと回答したが、賃貸人は、更新料と敷金不払を理由に契約を解除して、建物明渡の訴訟を提起した。
本件判決は、いまだ更新料支払義務は発生していないとして賃貸人の明渡請求を排斥した。更新料に関する部分の判決要旨は次のとおり。
(判決要旨)
「被告は、原告に対して、3年後の更新時において新賃料2カ月の更新料を支払う約束をしてはいたが、新賃料の具体的な算定が予め合意されていたことを認めるに足りる証拠はない。
新賃料の金額は、第一次的には、更新時における双方の合意によって定めることが予定され、従って更新料も右金額の確定をまって初めて、その2カ月分相当額の具体的債務として更新時に発生するものといわなければならない。
本件においては、いまだ合意が成立していないことが明らかであるから、新賃料の金額の確定を前提とする更新料も、本件解除前において、その具体的債務として発生していなっかたものというべきである。この点について、原告は、被告が少なくても1カ月15万円の従前賃料を基準にした更新料30万円の支払義務を有していた旨主張するが、更新料の算定方法は前記のとおりであるし、原告のような性急な交渉態度は、いたずらに被告を困惑させるものというほかなく、こうした点にかんがみると、被告に原告主張のような右金額による更新料支払義務があったとまでいうことはできない。」
(説明)
本判決は、「新賃料が合意されていないから更新料も確定できない」と判断したが、支払特約更新料の支払義務を排斥する論理の1つを示している。
賃借人は、新賃料が合意されていないとしても従前賃料の2カ月分の更新料支払義務が肯定される危険を避けるために、契約解除後であるが15万円の2カ月分の30万円を供託していたが、本判決は、従前賃料の2カ月分についても、支払義務はなかったと判断した。
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
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